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prologue

prologue

 焼け落ちる屋敷。金箔で装飾された屋根も、純白だった壁も、豪華絢爛を誇った内装も、そのすべてが灰となって消えてゆく。


 祖父を、祖母を、父を、母を、兄を、誰を呼んでも返事がない。飼い犬ですら。

 いくら大きな声で叫ぼうと、聞こえるのは屋敷が燃え崩れ落ちる音だけだった。

 叫ぼうと息を吸い込めば喉が焼かれる。それでも叫ばずにはいられない。叫び続けずにはいられない。


 どこにいるの?

 熱い。

 苦しい。

 助けて。

 悲しさと、黒煙による目の痛みで涙が溢れて止まらない。

 涙を拭おうと両手で瞳を覆った刹那、頭上で何かが割れる音がした。

 天井だ。

 落ちてくる。

 助からない。

 誰か。誰か! 誰か‼


 今のは、夢?

 気が付けば、私は自分の寝室にいた。背中にびっしょりと汗をかいて。スマホで時間を見れば深夜の2時を回っている。

 ふと枕元に目をやると、そこにはとあるゲームの原画集が置かれていた。


 私が学生の頃に遊んでいた乙女ゲーム、「Knot of Selectors ~運命の選択~」、通称ノトセレの原画集。

 そうだ。部屋を整理していたら出てきて、寝る直前まで読んでいたのだった。さっきのはノトセレの悪役令嬢の最期のシーン。

 このゲームのストーリーは終始シリアスなテイストで進んでいったため、華やかなラブロマンスを求める層には受けなかったが、アニメ化されるとそのシリアスなテイストが男性にもウケてメディアミックス全体としては結構売上を伸ばしていた記憶がある。


 ノトセレは運命の選択と副題を銘打っているだけあって、基本操作はコマンド選択式でストーリーが進んでいく。セリフだけでなく行動の選択も含めれば選択の種類は1000を超え、その1000以上の選択の先にあるエンディングは64種類と、やりこみ要素も豊富にある。アニメではそのうちの5ルートを主軸に作られた。最後はメインの攻略対象とのゴールだったけれど。 


 この原画集には各エンディングの絵は載っているが、どう選択すればそこに行きつくかは書いていないため、今でもそれを見つけるための攻略サイトが動いている。

 そういえば、ついこの間も、ヒロインの親友が死なず、悪役令嬢の親友も仲間になった状態でエンディングを迎えるルートを見つけたってちょっと話題になっていたな。


 学生時代の私だったらすぐにでもノトセレを起動して、そのルートを遊んでいるだろう。それほど、私はこのゲームが好きだった。でも、ゲームもハードも古くなって手放した今ではもう一度やり直すのは骨が折れる。


「さっむ」

 ベランダに出て外の空気を浴びると、身体の熱気を冬の空気が奪っていく。雪がチラチラと降るほど冷える深夜なのに眼下には光が瞬き、遠くからはパトカーのサイレンが聞こえる。

 眠らぬ街、いや、眠れぬ街か。眠らないのは人間だ。人間が起きているから、街も起きていらざるを得ないのだから。

 ふと、思う。

 高度な科学文明などない、それこそ、ノトセレのような世界であったならば、夜はきっと静謐で、街も眠れるのだろうか。

 そうだ、明日は10日振りの休日だから朝ご飯が家にないんだった。いつも通勤途中に買ってるから。コンビニに行こう。眠れぬ街に感謝ね。




 結局いつもと同じコンビニで、いつもと同じ朝食を買ってしまった。休日だろうといつもと変わり映えのない毎日。どこかに行こうという余裕も気力もない。

 横断歩道を渡る途中、会社のビルが目に入る。朝は弱いから、職場には徒歩で30分程度の距離に住んでいるのだ。でもそれは失敗。四六時中見たくもないものを見る羽目になってしまった。


「潰れちまえ」

 きっと睨み小さく呟く。すると、急に身体中を鈍痛が走り視界が宙を舞う。

 さっきまで遠くにあったサイレンが近付いてくる。最後に見えたのは、目が零れそうなほど大きく見開く車の運転手の顔。

 身体が地面に打ち付けられる。轢かれた……のよね。無灯火で走るって正気?


 熱い。痛い。目の前が黒く濁っていく。寒い。パトカーの前照灯かしら。

 轢き逃げなんて、すぐ捕まっちゃうんだから。

 お前の人生も、潰れちま――




 聖暦1930年、3月15日。

 目が覚めると、そこは知らない天井だった。病院らしい雰囲気もない。だってデッカいシャンデリアがあるんだもの。どこここ。

 ふと、見知らぬ………いや、どこかで見たような顔立ちの女性が視界に入る。

「お目覚めですか⁉ お嬢様⁉」

 めっちゃ驚いてる。驚きたいのはこっちなんだが。


 ん? お嬢様? 私のこと? え?

「嗚呼、マチルダ! 私の愛しい娘」

 この人は知ってる。昨日見た………気がする。そう、ノトセレの悪役令嬢の母親だ。2次元と3次元で若干違和感はあるけれど雰囲気はそのものだ。母親が私を涙ながらに抱っこする。そして鏡に映る私の姿。どこにでもいるような黒髪長髪の日本人の女ではなく、完全に紅毛碧眼、金髪に青い目をした少女だった。


 なにこれ⁉ マチルダ? お嬢様? これって、いわゆる異世界転生ってやつ⁉

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