1話 魂の輝きは種族を超える
私はディアナ。
ガーランド伯爵家の娘として生を受けた。
幼い頃の私は、なぜ月が2つもあるのか、他人にお世話をされるのか、疑問だった。
家族や使用人の顔立ちも怖かったし、
自分の顔にすら違和感を感じた。
銀髪に赤い瞳。
自分の顔が怖くて、鏡が嫌いになった。
4歳になる頃に勉学や作法を習い始めた。
作法は難しかったが、勉学は内容が簡単過ぎた。
暫く人間観察をして過ごしたけれど、自分の考えの方がおかしいと気付いた。
仮病を使い、社交を避けていた。
だって、異物は排除されるから⋯⋯。
我が家は辺境にある伯爵家。そこそこ裕福だ。
父は私と同じ容姿で銀髪に紅い瞳。名前はマーティー。
母の名前はエルザ。赤みがかった茶髪で薄い茶の瞳。
兄は2つ上でオーウェン。母と同じ容姿である。
両親や兄は余りにも大人しく過ごす私を心配していた。
私は家族の心配を他所に、ひたすら本を読んで過ごした。
外出するのは、王都の図書館に行くくらい⋯⋯。
そんなディアナに両親は心配しつつも、社交をしなければ貴族として生きれない事。特に女性は嫁がなければいけないと。その事は重々理解していた。
子供達を愛する両親は「様子見!」
と、娘を優先し社交も婚約もしなくて済んだ。
辺境に位置するのも功を奏し、私は様々な本を読み漁り知識を身につける事が出来た。
のんびり過ごしていだが、15歳になると両親の優しさの盾が効かない相手から、婚約の釣り書きが届いた。
コーエン公爵家の嫡男との婚約だった。
(たまに行く王都の図書館で私を見て、私の容姿を気に入ったらしい。)
顔合わせの日になり、ディアナは初めてパトリック公爵令息の顔を見た。
目に入った瞬間、衝撃を受けた。
固まり微動だにしないディアナを心配し、「大丈夫?」と声を掛け、手を伸ばして来たパトリックの目の前で気を失ったのだ。
駆け寄る両親は、ディアナが高熱であるのに気が付く。
父マーティーは
「申し訳ありません。今回はこちらの不作法により。このお話しはご辞退申し上げます。」
と、婚約の断りを入れた。
ディアナがとても小さな声で
「嫌よ。この人は嫌⋯⋯。」と、囁いたのが聞こえたからだ。
何か理由があるはず!
とりあえず急ぎ屋敷に戻った。
屋敷に戻りベッドにディアナを寝かせる。
「嫌ッ⋯嫌ッ⋯」
うなされ続ける娘に、両親は泣きながら話しかける。
手を握り、髪を撫で「大丈夫。大丈夫よ。」と。
夢を見てうなされているにしても、様子がおかし過ぎる。
ディアナは静かに昏々と眠り続けた。
〜✿〜
ディアナは前世を夢で見ていた。
日本の都心に住む26歳で、出版社に勤める会社員だった。
主任として責任ある立場だったが、毎日充実していた。
恋人がいなかった訳ではないが、いつも何となくの自然消滅になってしまう。
仕事も趣味も充実していた。
次第にお一人様を満喫するようになると、恋人を作る事は無かった⋯⋯。
実家が龍神を祀る神社だったのもあり、アパートの隣に建つ小さな龍を祀る社に朝晩挨拶を欠かさなかった。
趣味は龍が載る本や絵を見る事だった。
実家の社の天井に描かれた赤い龍に幼い私に心奪われた。
私の初恋は赤い龍だった。
それからは、龍に関わる沢山の本を集めた。難しい書物から、誰かが書いた龍の出る物語や小説。
異世界のお話はドラゴン(竜)だが、同じ(りゅう)なのでどちらも好きになる。
暇が出来れば、全国の龍神様に会いに行くくらいだったのだ。
そんなある日の帰宅途中に、激しい雨が降ってきた。帰りの挨拶の為に社に続く長い階段を登っている最中、階段の横の木に雷が落ちビックリした私⋯⋯。
足を滑らせた記憶で夢が終わった⋯⋯。
多分それで死んだのかなぁ。
熱にうなされながらも、記憶が夢として流れ込む。
パトリックの顔を見て蘇った記憶は、私の苦手な小説の主人公だった。
お話はとても面白い。面白いが苦手だ。
何故なら、大好きな白龍様を最後に殺すから!
パトリックは美しい婚約者を物凄く束縛するのに、自分は恋愛ばかりする。
しかも、ヒロインの聖女と浮気する上に白龍様を殺すのよ!! 許さん!!
本当にあの人嫌い。あの小説許すまじ。
でも、あのお話は苦手だったが、イラストの白龍様はとても美しかった。
1番好きな龍だったなぁ〜。
夢現の中。記憶をなぞり終えると、深い闇に意識が落ちて行った⋯⋯。
闇の中で誰かが戦っている。
白龍様とパトリックと聖女だ!!
私は必死にダメ!!叫ぶが⋯⋯届かない。
白龍様に必死に手を伸ばす。
白龍様は闇に消える寸前、私の目を見て笑った。
私を光で包み闇から出した。
泣いた⋯。嗚咽をあげながら泣いた⋯。
私の目の前で討伐に喜び、抱き合い口付けを交わすこの2人に殺意を覚える。
必死に2人を殴るが、すり抜けて当たらない!!
白龍様は悪くない!
諸悪の根源を私は知っている。
白龍様は嵌められたのだから⋯⋯。
消える白龍様を捕まえられなかった。
美しく寂しそうに笑っていたのに⋯⋯。
許さない!
絶対に許さないから!!⋯⋯深い闇に堕ちていく。
〜❀〜
ディアナはあれから10日間も眠り続けている。
家族が代わる代わる魔力供給をするも、食事が取れないせいか、日に日に痩せ細る。
ディアナは大人しく控え目な娘である。
自分から欲しがる事もないせいか、娘の部屋はシンプル過ぎる。
娘は私達には話せない何かを抱え込んで居るのだろうか⋯⋯。
思い悩む両親の耳に、『王都に聖女が現れた!!』と話が回ってきた。
これで娘が治るのでは?!
娘の部屋に行き手を握り。
「ディアナ、大丈夫だよ。聖女様が現れたそうだ。治して貰える様に頼んでみるから。早く良くなってくれ。」
その瞬間
「聖女は嫌いよ〜!!」
と叫びながら目覚めた。
両親も様子を見に来た兄も、口をあんぐり開けたままだ⋯⋯。
部屋には変な空気だけが流れた。
マーティーはディアナを抱きしめ、母も近付き抱きしめてくれた。
兄は側にくると、頭を優しくなでなでしてくれた。
何も聞かずに、食事の手配をしてくれた。
野菜スープは、とっても美味しかっな。
家族からの魔力供給のおかけで、痩せてはいるが元気になった。
夕食が終わり、私は勇気を出して話をした。
「あの日パトリック様を見て、ある事を伝えられたの。」
真実は話さない。嘘を交えて話す事を選んだ。
「パトリック様と聖女様が白龍様を討伐するの。でもそ白龍様は嵌められたみたいなの⋯⋯。」
ディアナが話を終えると、父が怒りながら
「白龍様は我が領地の守護龍様だ。
殺されるなんて許せる筈がない!」
(え!白龍様は私の家の守護龍なの!?)
口をあんぐり開けたままのディアナに
「まさか、自分の領地の事を勉強してないとか?」まさかね〜。白い目で私を見る兄に、視線をスッと反らした。
家族には白い目を向けられたが、予知を見た事は受け入れてくれたし。(嘘もあるけど。)
何より白龍様の為ならば、遣りたい様にやってよし!の許可も出た。
ので⋯⋯。
領地の邸までは転移魔法でひとっ飛び〜。
幼少期の暇な時間は、魔法の本で魔法を覚えまくったのだ。
翌朝、家族に呆れられながらも転移した。
家族は以前より明るくなったディアナに。自ら行動する事に。
心の中では喜んでいた。
領地の邸にいきなり私が転移したから、使用人達は驚いた。
私が白龍様の湖に行く事を伝えたら場所を教えてくれた。
場所が解らないと転移出来ないので、歩くしかない。
どこでも○○ーなんぞかあれば、楽なのにな。
白龍様の棲む湖は山奥にあった。
湖に近付くと、背後に気配を感じ振り向いた。
そこにいたのは、輝く白髪に紅い瞳。
まるで前世の絵で見た、白龍様のような美しい男性がいた。
呆然と魅入っていると彼は腕を広げ、近付いてきた。
私は動けず、その腕の中に抱き込まれた。
「我が番。やっと会えたね。」と。
顔を上げ、、彼を見た。
じっと私を見つめる紅い瞳に小さな笑顔。
「白龍様?」
彼は頷き強く私を抱きしめた。
生きてる!白龍様が生きてるッッ⋯⋯。
涙が止まらない私の頬に白龍様が口付けを落とす。
「あの時、私に手を伸ばしてくれたでしょ?貴方にまた会いたくて、消えるのを止めたのですよ」
え!!死んでなかったの?!
いや、生きてて良かったけどあの後夢の中だけど、物凄く泣いたし。目覚めた後も夜泣いたんだよ?!
百面相する私の頬にまた口付けをする。
「私は長く生きてるでしょ?つまらない毎日に飽きてた。人間は私を都合よく、神にも悪にもする。」
「聖女達が来た時にはもうどうでも良かった⋯⋯。でも、君が手を伸ばしてくれたでしょ?泣きながら。」無実だと⋯⋯。
「だから番にしたんだ。君の魂は輝いていた。私はその魂に私を刻んだ。」
意味わかる?
「勝手にやっちゃったけど、君の魂は私の魂でもある。」
意味が解らない⋯⋯。キョトン⋯⋯。
白龍様が人さし指で私の胸の谷間をツンと押した。
服の下で、熱く輝いた。
恐る恐る谷間を覗くと美しい紫のクレマチスの花が咲いていた。
「私のものだよ。ディアナ。」
囁きながら私の唇に口付けを落とした。
意識が遠のいていく⋯⋯。
白龍様を捕まえようとして、私が捕まったのか⋯な⋯⋯。




