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転生貴族の食卓革命!  作者: まるまめ珈琲
第3章 味なき地に、火をともす
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第5話:お皿の上にある物語

 ルミナ様が、色のついた野菜に手を伸ばした。

 それだけのことが、これほどまでに心を震わせるなんて――自分でも、少し、驚いた。



 ただし、その指先はほんのわずかに触れただけで、皿から持ち上げることはなかった。

 それでも、拒絶ではない。興味が生まれた証。昨日まで一切口をつけようとしなかった食材に、彼女は目を向けた。


「これは、きれい……でも、ちょっとだけ、こわい」


 小さく、けれど確かに、そうつぶやく。

 その声に、ボクは否定の言葉を挟まなかった。無理強いは、ルミナ様にとって毒になる。


「こわいと感じるのは、大事なことだと思います。知らないものに触れるって、それだけで勇気が要りますから」


「……ボクも、はじめて見たときは、少しだけ怖かったですよ。でも、それが何かを知ったら、好きになれることもあります」


 そう言って微笑むと、ルミナ様はスプーンを持ったまま、ほんの少しだけ頷いてくれた。





 午後、厨房では新たな試みが始まっていた。

 今回は兵用の携帯食を「見た目」にも配慮して整える、という提案を試す。


 スープとパンだけでは、どうしても単調になる。

 ならば、目で食べる工夫を――そう考えて、軍厨房の余剰野菜を使って彩りを加えることにした。


「彩り……ですかい?」


 マルコさんが眉をひそめた。


「兵に見た目なんざ必要で?」


「必要です。……特に、長期駐屯や野営のときほど。心が荒れるときこそ、彩りは“意味”を持ちます」


 マルコさんは黙ってボクを見つめたあと、手元の鍋の蓋を開けた。

 昨日と同じスープの中に、人参を細く切って花形にあしらった根菜を浮かべてある。


「……こういうのでいいんですかい」


「はい。それで充分です」


 マルコさんは、何も言わずにうなずいた。

 武骨な厨房に、少しだけやわらかい空気が流れる。





 その日の晩、ボクはまたルミナ様の部屋を訪れた。


 今日は“物語”を皿の上にのせてみる。

 ただ整えるだけではなく、食材に名前をつけ、並びに意味を持たせる。

 ルミナ様の感性は、ただ“見た目の整い”に向いているのではなく、もっと深いところで何かを感じ取っている気がしていた。


「ルミナ様。今日のお皿は、森のお話です」


 ボクが蓋を開けると、皿の上には緑と白の野菜が並べられていた。

 森に見立てたパセリ。その間を通るように、じゃがいもの細切りが“道”を作っている。


「この道の先には、甘い木の実が落ちていた、というお話です。ここにあるのは……ほんの少しだけ、焼いた果実。甘味と香りを、閉じ込めてあります」


 果実は、ごく薄く焼いた干し果。色は目立たないよう調整してある。香りも、控えめだ。


 ルミナ様は皿を見つめたまま、すぐには動かなかった。

 けれど、目を伏せることも、顔を背けることもなかった。


「これは……」


 彼女の小さな声が、ふっと漏れる。


「……この“道”は、こっちに続いてるの?」


「ええ。でも、どこまで行くかは、ルミナ様の気持ち次第です」


「……ちょっとだけ、行ってみてもいい?」


「もちろんです」



 ルミナ様は、じゃがいもの細切りを一つ、スプーンですくって口に運んだ。

 咀嚼。小さな音。表情に出る緊張。


 けれど、飲み込んだあと、彼女はそっと息を吐いて――静かに笑った。


「やわらかい。ちょっとだけ……甘い?」


「じゃがいもを、少しだけ煮詰めました。香りは控えめに、でも旨味が残るように」


「ふうん……」


 ルミナ様は、森の中を進むように、今度はパセリをひとつまみ。

 そのあとは、ごく少しだけ焼き果実の香りをかぐ。


 そして、自分のペースでスープへ戻っていく。


 無理はしていない。試している。確かめている。

 その姿に、ボクは言葉を飲みこんだ。





 お皿の上に、ただの“料理”を置くだけじゃ足りない。

 時にそれは、安心であり、物語であり、“自分の居場所”でなければならない。


 ルミナ様にとって、食卓はまだ戦場だ。

 でもその中に、進むべき道を見つけられたなら――きっと、彼女は一歩ずつ進める。



 食べるという行為が、“こわい”から“気になる”へ、そして“知りたい”に変わるように。



 ボクは今日の皿を下げながら、もう次の森の地図を描きはじめていた。


いかがでしたでしょうか?


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