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転生貴族の食卓革命!  作者: まるまめ珈琲
第2章 煮え立つものは、想いか味か
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第4話:三日続けて飲む味

 定食屋の新しいスープは、特別な宣伝もなく、静かに広まりはじめていた。

 それでも、三日続けて同じスープを頼む客が出たのは、店にとってもボクにとっても、意味のある出来事だった。





「また来たな、あの爺さん。三日連続で“白”だ」


 昼下がりの厨房で、ヨナスがスープの鍋を見ながらぼそっと言った。


「そうなんだ。二日目に味を変えたけど、何も言わなかった?」


「うなずいてた。何も言わずにな」


「味が落ちたと思ったら、黙って帰るはずだから、たぶん……満足してる」


「なるほどな。坊ちゃん、ああいう無口な客を読むの、得意か?」


「まあね、好きだから。無口な人って、案外言葉以外にいっぱい教えてくれるんだ」


 スプーンの置き方、器の動かし方、最後に飲み干す速さ――全部、味の感想みたいなものだ。


 味は、続けて選ばれることによって初めて“信頼”に変わる。

 一度では奇抜、二度で納得、三度でようやく“常連”になる。





 その日の夜。片付けが終わったあと、ボクはヨナスに提案をした。


「明日、三日目に来るお客さんが、いつも通り“白”を頼んだら、少し変化を加えてみたい」


「変化?」


「最後の一杯だけ、香草を浮かべるんだ。前の味を邪魔しない程度に」


「……冒険だな」


「うん。でも、その一匙に気づいてくれたら、伝わるはず。“あなたの味覚を信じてる”って」


「変わったこと考えるな、坊ちゃん」


 ヨナスは頭をかいて笑ったが、反対はしなかった。

 その表情は、たぶんちょっとだけ、楽しみにしているようだった。





 翌日。

 件の老人は、また同じように昼すぎに来て、席に着いた。


「いらっしゃい。今日は“白”だな?」


 ヨナスが訊ねると、老人は軽くうなずいた。


 厨房の隅で見守っていたボクは、そっと細かく刻んだ香草をスープに浮かべた。

 乾燥させていない、採れたての香り。派手ではないけれど、口に含めばすぐにわかるはず。


 老人は黙って、スープをひと口。


 次の瞬間――小さく目を見開いた。


 けれど、そのまま何も言わず、すぐに二口目をすくった。

 パンをちぎり、浸して、ゆっくり噛んで飲み込む。


 その背筋が、ほんの少しだけ伸びていた。





 器は、綺麗に空になっていた。


 出ていく背中を見送りながら、ヨナスがぼそりと漏らす。


「……気づいたな」


「うん。でも言わなかった」


「言わねえ方が、ありがたみは増す」


「そうかも」


 ボクは微笑んで、洗い場に目をやった。


「この店ってさ、いま、すごく静かだけど、ちゃんと変化してるよね」


「騒ぐのは最初だけだ。続くもんは、静かに広がる」


「三日続けて飲むって、きっとすごいことだよ」


「“また来たい”より、“また飲める”って思ってくれる方が、ありがてえな」


 ヨナスが、まるで独り言のように言った。


 その言葉が、妙に耳に残った。





 夕方、ボクは厨房でスープを調整していた。

 明日からはまた、少しずつ変えていくつもりだった。


 ヨナスが鍋の前で腕を組みながら言う。


「坊ちゃん。“いつもの味”ってのは、作る方にも呪いみてえなもんだ」


「……どういうこと?」


「人間、一回うまくいった味があると、そればっかり守りたくなる。手も変えられねえ、材料も冒険できねえ。やがて“昨日と同じ”を作るためだけに動くようになる」


「それって、悪いことじゃないけど……成長は止まるかもね」


「そうだ。だから変える。少しずつ。気づかれるか気づかれねえかくらいの微差でな」


 ヨナスの言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているようだった。





 そして、翌朝の厨房。

 ヨナスが、棚から使いかけの香辛料袋を取り出して、火にかけた鍋に少量を加えた。


 いつもの“白”のはずが、ふっと香りが変わる。


「……それは?」


「干したにんにくと、砕いた乾き茸。うちじゃあんまり使わなかったが、ちっと混ぜてみたくなった」


 ボクは笑った。


「それって、三日続けて飲んだ結果だよね」


「どうだかな」


 ヨナスは短く言って、鍋の蓋を閉じた。


 蓋の内側で、また新しい“いつもの味”が生まれていた。


いかがでしたでしょうか?


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