表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

8話 特殊任務No.4

「では――スタートだ!」


私はバタフライを再展開。

視界を共有しながら、蝶はダクトをくぐり、半開きのドアを抜けて専用フロアへ滑り込む。


仕込んだ魔法は、風属性・コンパクトサイクロン。

規模は抑えたが、狙いは棚一つを吹き飛ばす程度。

必要最低限――けど、確実に注目は集まる。


あの時は、できなかった。

あの時の私は、誰かを犠牲にすることが怖かった。

でも、今回は違う。被害を受けるのは“私自身の責任”。


「行きます。」


――アクション!


直後、視界リンクが切れる。

一瞬の静寂、その後に――バァンッという乾いた破裂音と、床を這うような崩落音が耳を打った。


「仕込んだ魔法を発動すると、蝶は消えます。」


「上出来だ。見ろ、山崎が焦って出てきたぞ。――さぁ、突入だ。」


山崎とすれ違う形で、私は窓口を飛び越え、管理室へと侵入した。

神城は私の背後に立ち、静かに告げる。


「私は魔力感知で山崎の行動を見張る。花蝶君、君はログと盗難物の確認を頼む。パソコンに情報があるはずだ。」


私はすぐにモニターを操作する。けれど――


「パスワードが!」


「右のカードをスキャナーに通せ。」


指示されるがままに動く。すぐにアクセスが通り、画面が開いた。


まずは事件概要。

被害は3冊――解毒、治癒、延命、すべて回復系魔導書。

なるほど、価値はある。けど“破壊”じゃなく“回復”を盗むあたり、動機は単純じゃない。


続いて入室ログ。

――この日だけ、ログが空白になっている。いや、正確には最初から“記録が存在しない”。


「花蝶君、急げ。山崎が誰かに電話しながら戻ってきてる。」


焦る。でも、待って――


あった。

事件当日、出勤記録が山崎だけ。

しかも監視ログなし。これはもう、クロだ。


私はスマホで画面を撮影しようとし、2枚目を押したその瞬間。


「花蝶君、引き上げた。」


耳元にひやりとした声。

神城が、影のように背後を通り抜ける。


直後、ドアノブが回る音。


私はすぐにモニターを閉じ、窓口を飛び越え、しゃがみ込む。

そのまま床を這い、視界の死角へ滑り込んだ。


ドアがゆっくりと開き、足音が近づく。

静かに、息を殺した。


――これが第7支部のやり方。


一度、図書館の外に出て、大きく深呼吸する。

肺に入った空気が、火傷のように熱い。


「私……生きてますよね?」


ドクドクと脈打つ心臓。背中を伝う汗はまだ止まらない。

神城の声が後ろから聞こえた。


「あぁ。まったく、素晴らしい仕事っぷりだ。」


横目に見た神城は、相変わらず涼しい顔だった。

私はフッと笑った。


――これが第2支部から盗んだ任務でさえなければ、もっと誇れたのに。


でも、この達成感は本物だった。


その後―事務所へ戻り、事件の資料をまとめる。

パソコンの画面には、山崎の犯行を示す証拠が並んでいた。


「その資料、第2支部に送りつけてやろうか。」


……この人、本当に悪いことばかり思いつくな。


「これだけの証拠があれば、山崎さんが盗んだのは一目瞭然ですけど……」


私は資料にもう一度目を通す。

“正義感”とかじゃない。――ただ、あの場所に戻りたいだけ。


「こんなの送りつけて、本当に恩を売れるんですか?」


「リーダーの望月君は神経質だからねぇ……すぐ反応来ると思うよ。」


「本当に送りますからね。」


私はスマホを取り出し、ためらいなく送信を押した。


数秒の沈黙――


―プルルルル


「はやっ!?」


思わずスマホを落としそうになる。慌てて体勢を立て直し、そのまま電話に出た。


「あぁっ、ええと、第2支部の花蝶シノです!……要件をどうぞ!」


やばい、テンパった。額の汗が頬を伝う。


『シノ、お前は第7支部だろ。』


―ミスった。


「す、すみません!第7支部の花蝶シノです、要件をどうぞ!」


『チッ……お前に用はない。神城を出せ。』


私は口を開いたまま、神城を振り返る。

彼はニヤニヤと笑い、当然のように携帯を受け取った。


「やーやー、望月君、元気だったかな?どお、資料見てくれた?」


神城は私を一瞥して、音声をスピーカーに切り替えた。


『あぁ……あれは明日、こっちが動く予定だった案件だ。勝手な真似すんな。』


「バカだねぇ、明日じゃ遅いって。」


『誰がバカだ。こっちはお前みたいに行き当たりばったりでやってねぇんだよ。』


「でもさあ、容疑者に資料を渡してちゃ意味ないだろ?管理長の山崎、アイツが犯人だったらどうすんの―って、実際そうだったけど…。」


望月は黙り込んだ。

けれど、その沈黙すらスマホ越しに怒気をはらんでいるのが分かった。


「そこで一つ、提案があるんだ。多分だけど……明日になれば、山崎も君対策で証拠を隠しにかかる。だったらさ、望月君。君と、花蝶君と、私。三人で――手柄を取らないか?」


なるほど、そういう魂胆か。

一見すれば、これは第2支部の手柄になる。けれど私たちが関わっている以上、完全には独り占めできない。

神城、策士すぎる。


山崎もまた、同じくらいに手強い。

だからこそ、神城は動いたのだ。


『……ここでは話せないな。』


ああ、やっぱり駄目か。口説き落とすには足りな――


『国立図書館に来てくれ。話がある。』


心臓が跳ねた。横目で神城を見る。彼も少しだけ口角を上げていた。


「それじゃ、よろしく頼むよ。」


その後、再び準備を始めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ