7話 特殊任務No.3 決定打
「……で、神城さん。何かヒントとか、ないんですか?」
私は腕を組み、蝶の視界を遠ざける。ふてくされるように彼へ睨みを送ると、神城は口元だけで笑っていた。
「ヒントねぇ。実際、私が気づいてることは――君ももう、気づいてるはずだ。違うか?」
「……犯人が誰か、なら。」
神城の口角が、くいと上がる。
「言ってみな。」
「内部の人間……強いて言うなら、図書館職員。あそこに出入りするハードルが低い人間。でも証拠がないんでなんとも…。」
「惜しいね。実際、図書館の職員も入室には記録が必要なんだよ。ログ管理は全部、管理長の山崎が握ってる。」
私は黙る。言葉が出てこない。
それじゃあ、全員ログが残る。なら誰も犯行に及べない――
「……だが、1人だけ、いる。」
神城が人差し指を立てる。
「山崎本人だ。ログを記録する側ってことは、書き換えるのも消すのも、管理してる張本人なら可能だろう?」
私は息を呑んだ。
まさか、あの律儀そうな管理長が――
「もちろん、証拠なんてまだない。けど、可能性は……あるよね?」
神城の笑みは、妙に穏やかだった。
けれど、その目の奥だけが、氷のように冷たかった。
「でも、それもすべて妄想に過ぎません。証拠がないと。」
「その通りだ……しかし、さっきから山崎さん、管理室から微動だにしない。まるで何かを守ってるようにも見えないかい?」
「お願いしても、内部の映像とかは見せてくれるはずないですよ。こっち、第7支部ですし。」
その時だった。神城がすっと顔を寄せてくる。
至近距離。唐突すぎて、私は反射的に息を飲んだ。
「そのとーり…ならここは、第7支部らしく行こうか。」
「第7支部らしく、って……何ですかその不穏な前置きは。」
「それで…花蝶君、君のバタフライ、魔法を仕込めるんだったよね?」
「……まぁ一様。一匹につき一つ、好きなタイミングで発動可能ですけど。」
神城は、ふっと微笑む。その笑みに狂気が混じっていた。
「なら……そいつで中の本棚、爆発させてよ。」
―――は?
―はぁぁぁぁあ?
「ちょ、何言って――頭湧いてます!? 魔導書の保管庫ですよ!? 書類が灰になったら私が燃やされますけど!?」
「まぁまぁまぁ。燃やすのは一部の本棚、ね?混乱が起これば、管理長も席を離れる。そこをついて内部確認。どう?合理的だろ?」
「合理性の意味、履き違えてますよ!?」
言葉では拒絶している。けど、心のどこかで理解してる。
クソ…これが――第7支部だ。
「とにかく、それは後が色々面倒になります。最低でも風魔法で棚を吹き飛ばすくらいなら……。」
私は焦りながら、なるべくまともな案として提示する。
少しでも、爆破案から遠ざけたかった。
「言ったな、君。よし、それで行こう。ナイスアイデアだ。」
――へぇ?
……はぁ?
「……何なんですか、あなた。」
「いやぁ、言ってみるもんだねぇ。先に“超ヤバいこと”提案しておくと、“ちょっとヤバい”くらいなら通るって気づいたよ。面白いな、心理って。」
確かに。確かにそうかもしれない。
けど、そのやり口、完全に詐欺の手口じゃん。なんで堂々としてるの。
「騙したな?」
「おっと、怖い怖い。敬語、忘れてるよ、かちょうくん?」
その笑みに、カチンときた。
顔面に風魔法ぶち込んで、笑い飛ばしてやろうかと思った。
「でも…私が第2支部に戻るためです。ひよったりはしませんよ。」
「よし、君はバタフライの操作を。その後、山崎がいなくなったタイミングでそこの窓口から侵入する。」
「了解。」
「では――スタートだ!」