1話〜5話 総集
廃ビルの薄暗い廊下に足音が響く。金属質な床が軋み、音は壁に反射して、数を増していく。
自分のもの、仲間のもの、そして混じる、異質な――こちらを探るような足音。
現在時刻、深夜1:08。任務開始から約68分が経過。これまでに接触はなし。
しかし、沈黙が場の緊張感をじわじわと引き上げていた。
「止まれ。」
先頭を進むリーダーが、左手を掲げる。私たちは即座に動きを止めた。空気が張り詰め、鼓動すら敵に悟られそうで、私は息を浅くする。
耳を澄ます。風の音すらない空間で、微かに聞こえる別の足音。
場所は――真上。
「リーダー、どうしますか?」
「人質がいる。迂闊に突入はできない。」
この廃ビル内で違法魔法使いの活動が確認されたのは今夜のこと。
先に派遣された確認部隊が消息を絶ち、通信の復旧と同時に判明したのは、彼らが惨殺され、ただ一人、生き残った者が尋問を受けているという事実だった。
人質は4級魔法使い。敵の実力を鑑みて、今回私たち2級が投入された。
「シノ、こちらへ来い。」
名を呼ばれ、私は身を低くしてリーダーの隣へ移動する。手のひらには汗。だが、顔は無表情を保った。
「お前の固有魔法を使う。視覚共有で上の階を確かめろ。」
「……了解。来て、『バタフライ』。」
私の声に応じ、掌から透明な蝶が一羽現れる。ガラス細工のようにきらめき、静かに羽ばたいた。
これが私の固有魔法『魔蝶・バタフライ』。この蝶には、視覚共有をはじめ、凍結、爆破など複数の魔法を仕込める。情報収集の万能ツールだ。
蝶はふわりと舞い上がり、薄闇の中を上階へと向かっていく。私は目を閉じ、蝶の視界と自分の視界を重ねた。
『視覚共有、開始。』
世界が変わる。粒子の残像が揺れ、私は蝶の意識へと溶け込む。やがて、視界が一室を映し出す。
「どうだ、シノ。」
リーダーの声が耳元に届く。しかし、すぐには応えられなかった。額の汗が顎を伝い、制服の内側に落ちる。心拍が早まっていた。
「ひどい……。」
意図せず漏れた言葉。人質の少女は、椅子に縛られ、顔も上げられず、虚ろな目で周囲の違法魔法使いたちを見ていた。
服は破れ、顔には打撲と裂傷が浮かぶ。
敵の表情は平然としていた。怒りも快楽もない。まるで作業だ。淡々とした、冷たい暴力がそこにはあった。
「確認完了。人質、生存。敵、四名。うち一名が詠唱中。」
声を出すまでに数秒かかった。それほど、呼吸が乱れていた。
「詠唱の内容は?」
「不明です……少女の頭に手を当てて、なにか……。」
「頭に、手を……」
その時、リーダーに突然肩を掴まれた。視界が揺れ、蝶とのリンクが不安定になる。
「何ですか、いきなり……」
「……殺せ。」
「……は?」
「今すぐ殺せ。蝶で、人質を。」
「無理です。一匹じゃ敵全員なんて――」
「違う。あの人質の少女だ。今、敵は彼女の頭に触れた状態で、国家魔法監理局の機密を引き出している。魔法は“強制開示魔法”。」
「でも、それって――!」
「遅い!」
リーダーの声が鋭くなる。
「情に流されるな。あの女は、もう道具だ。生かせば、我々の魔法体系も、部隊配備も、隠密拠点も、全て敵の手に渡る。今、最も合理的な選択肢は、彼女を殺すことだ。」
私は言葉を失った。蝶はまだ空中を漂い、少女は微かに痙攣していた。敵の指は、まだ彼女の頭から離れない。
人質という言葉が急に白々しくなる。少女という単語が重たく圧し掛かる。
だが、考える暇はなかった。時間は、誰も待ってくれない。
「何をしてる! 早くやれ!」
静かな怒声が耳に刺さる。私は震えながら蝶越しに見つめた。少女は――ただ、助けを求めるでもなく、空虚に目を見開いたままだ。
その時だった。
「リーダー! 我々の存在が敵に……バレました!」
無線越しに仲間の声が飛び込む。その瞬間、何かが決壊した。
「クソッ! 突入しろ! ……だから無能は嫌いなんだ!」
私たちは一斉に上階へ駆け上がる。
そして、扉を蹴破り、踏み込んだ。
――だが、遅かった。
椅子に縛られた少女の首には、ナイフによる一刺し。首からは蛇口のように、血が止めどなく滴っていた。
部屋に、敵の姿はない。
「違法魔法使い……追いますか……?」
震えた声で問いかけた。だが、返ってきたのは問いの返事ではなく、叱責だった。
リーダーが鬼の形相で私の胸ぐらを掴み上げる。
「奴らが使っていたのは高等魔法だ。あんな魔法を使えるヤツは限られている。だからこそ――お前の判断が、我々の存在を“裏の組織”にまで曝け出す結果になったんだ!」
「でも……人質を……仲間を殺すなんて……」
「甘いんだよ。ここはお前のヒーローごっこをやる場所じゃない。国家魔法監理局に入った時点で、覚悟しておくべきだったんだ。……ほんっと嫌いなんだよ。お前みたいな、固有魔法の派手さだけで二級になったようなガキは。」
私は何も言えなかった。少女の血の匂いが、床から立ちのぼって、鼻の奥にずっとまとわりついてくる。
メンバーたちは苦虫を噛み潰したような顔で、現場を後にした。
そして、数日後――
あの任務から、まだわずかしか経っていないというのに、時間の感覚が妙に遠く感じた。乾いた空気の中、廊下に響く靴音が、やけに耳に残っている。
今日は任務連絡を受けたため、私は再びリーダーの前に立つ。周囲にはいつもの仲間たちが揃っていた。私も、その中の一人である“つもり”だった。
「今回の任務は、国立図書館の魔法使い専用フロアから、数冊の魔道書が盗まれた件についてだ。詳細は手元の資料に記されている。」
……手元の資料?
私だけ、配られていないそれを探すように視線を泳がせた。だが、どこにもない。誰も私に渡そうともしない。
「リーダー、私の資料がありません。」
一言、尋ねた。
その瞬間、リーダーの目が、無言で私を射抜いた。冷たく、淡々とした瞳。
「今回から、シノ。お前には任務から外れてもらう。」
心臓がひとつ、深く沈むのがわかった。
「お前は第七支部へ移動となった。……あとで部屋に来い。」
それだけ言い残し、リーダーは視線を逸らす。誰一人として、私と目を合わせようとはしなかった。
――終わったんだ。
あの夜の判断が、私の魔法使いとしての立場を変えてしまった。
国家魔法監理局 第二支部――それは精鋭が集う場所。そこから追い出されるという意味を、私は痛いほど理解していた。
第7支部――そこは国家魔法監理局の中でも、最も評価の低い部署だった。
噂は、よく聞く。だが、誰も深く語ろうとはしない。
支部長は3級魔法使い。等級は低くないはずなのに、その実態は――凡才。
固有魔法を持たない。才能も無い。
ただ命令違反と問題行動だけを繰り返し、現在ではたった一人の部下すら死なせて、孤立している。そして、机と椅子だけの部屋で、独り、報告書のホコリを払って生きているとさえ言われていた。
そして、私はそこへ“送られる”。
それはつまり――飼い殺し。
戻ってくる道はない。
二級という肩書きも、実力も、今この瞬間から何の意味もない。
名簿の上で生きているだけの、死人だ。
その後、淡々と作業が進んだ。
気づけば、大きなナップサックを背負って、第二支部の前に立っていた。
背後に聳えるのは、馴染んだビル。
だがその姿はまるで、私が戻るのを拒むように、遠く、冷たく感じられた。
振り返らずに、その場を後にする。
2級である私が、3級のリーダーに就く――そんなこと、考えたこともなかった。
国家試験に合格し、晴れて魔法使いになった日。
私の固有魔法「バタフライ」は、その汎用性が高く評価され、スタートから2級という破格の待遇を得た。
周囲から見れば、それは“努力せずに得た地位”だったろう。
鼻につく、嫌われ者だったかもしれない。
でも、現実は違った。
実戦経験の不足が露呈し、判断の甘さが任務を狂わせた。
その結果が、この左遷――否、処分。
固有魔法が何だ。階級が何だ。
「現場で使えない奴」は、こうして追い出される。
静かに、地面を見つめる。
アスファルトに滲んだ黒い染みが、どこか自分の人生のようで、やけに重く感じた。
第7支部の場所は、この住宅街の道をまっすぐ進んだ先。
ただの道なのに、足が進まない。いや、進めたくない気持ちのほうが勝っていた。
その時だった。
――プルルルル、とポケットの携帯が鳴る。
画面に表示された宛名は『第7支部』。
私はためらいながら、ゆっくりと電話に出た。
『そこから動くな。』
一言目がそれだった。
無意識に背筋が伸びる。
「……今回第七支部に配属されました、花蝶シノです。」
『君の前方奥に見えるのが、私の事務所だ。電話は繋いだままで構わない。ゆっくり前へ進みたまえ。』
低く響く声。
だが、どこか芝居がかった軽さがある。
本心が見えない。道化のような……あるいは、狡猾な仮面。
全身に謎の違和感を受けながら、私は三階建ての古びたビルの前に立った。
玄関横、歪んだ金属板に書かれた文字――『地理局第七支部』。
――違う。ここは“国家魔法監理局第七支部”。
だが、正面にそんなもの掲げれば、敵に「ここを狙ってくれ」と言っているようなもの。
だから、大抵はカモフラージュの名を使っている。ここも例外じゃない。
カラカラ……と音を立て、ドアを開ける。
もちろん自動ドアなどない。ただの鉄製の扉だ。
『一番上まで来てくれ。』
電話越しの声。短く、威圧感のある抑揚。
拒否という選択肢を、最初から与えられていないような口調。
「……はい。」
そう答えながらも、胸の内に圧迫感が残った。
相手は三級魔法使い。階級的には、私以下。
なのに――この威圧感。
まるで、自分より何段も上の存在に睨まれているような感覚。
階段を上がるごとに、違和感が強まる。
これは……感じたことがある。魔力による誘導だ。
人為的な魔力操作による“感知妨害”――でもなんで。
――まさか!
「魔力感知──」
言いかけた瞬間、視界がブレた。
「遅い。」
耳元で囁く声。もう、遅かった。
首筋に冷たいものが触れる。
背の高い男の指先が、喉元に突きつけられている。
動けば、撃たれる。
言葉を発せば、殺される。
そう、体がはっきりと理解した。
「君……弱いね。」
「私が……弱い?」
「私が君に気づいたのは、駅を降りた時だよ。
魔力感知を段階的に強めて、君の反応を見ていた。」
「君が異常に気づいたのは、私との距離――約10メートル。
その時点で、もう“即死”だ。」
その瞬間、喉元の指が押し込まれる。
「う……ぐぅ、がはっ……!」
呼吸が止まり、膝が崩れる。
床に這いつくばる私を、男が上から見下ろしていた。
黒いロングコートのポケットに手を突っ込み、にやりと笑う。
パーマの隙間から覗いた目は、蛇のようにギラついていた。
「ようこそ、国家魔法監理局第七支部へ。
私は君を――歓迎するよ。」
その言葉に、希望はなかった。
私に残されたのは、人生の終わりと、底知れぬ恐怖だけだった。
「私の名前は神城セイジ。よろしく、花蝶シノさん。」
数十分後、私は第7支部の事務所にいた。
ここは、絶望的に居心地が悪い。
まず、事務所にはたった二つの席しかなかった。一つは支部長のもの。無造作に伸びた髪で目元を隠しながら、パソコンと睨めっこしている。
もう一つは、きっと前任者の席だ。椅子は出しっぱなし、机は散らかり放題。端には、誰かの家族写真が立てかけられている。もう、二度と見られることのない笑顔がそこにあった。
私は、椅子を引くことすらできなかった。
あまりにも“死”の気配が濃すぎる。
考えてみればこの席、死亡したって噂の前任…
背筋がぞわついた。
誰も口に出さないだけで、この空間に漂っているのは、「喪失」そのものだった。
そして、椅子の前で立ち尽くしていると、背後からカタリと音がした、支部長が書類を置く気配がする。
その音がきっかけとなり、ようやく私は声を出せた。
「支部長……何か、することはありますか?」
背を向けたままの支部長が、ぬるりとした動きでこちらを見た。
目元は髪で隠れているのに、不気味なくらい「こちらを見ている」のがわかる。
「君さ……捨てられたんだよね? 第二支部から、こんなとこまで落とされるなんて。相当嫌われてるか……よっぽどの失敗でもしたのかな?」
言葉が刺さった。心を読まれているような、そんな感覚すらある。
だが、私は一歩も退かない。
「……だから、仕事をください。」
その瞬間、支部長の机に置かれた指が、パチンと音を立てる。
彼の目線は私の背後を通り過ぎ、どこか遠くを見ているようだった。
「仕事ねぇ……この支部には、そんなもの来ないよ。来るのはせいぜい、他所の尻拭いか、帳尻合わせぐらいだ。」
私は、現実を突きつけられ俯き、声を出さないでいた。それを見て支部長が一息つく。
「まぁ、一つあるとしたら。」
支部長が立ち上がり、ゆっくりと私の背後へ回り込む。
その歩みは蛇のように静かで、まるで音を吸い込むような足取りだった。
私の肩に、重たい手が置かれる。
「君、ある任務から外されたそうだねぇ? その内容、まだ覚えてるかい?」
「国立図書館で、魔導書が盗まれた件……です。」
「正解。それが、君の仕事だよ。」
――は?
何それ、意味が分からない。
私は外されたはずだ。それなのに、どうして?
支部長は机の前に戻り、書類の束を適当にめくりながら笑った。
「うちの支部に任務は来ない。だから、自分たちで拾うんだよ。任務をかっさらって、成果だけ持っていく。そうすりゃ、でかい顔できる。」
彼の視線が、真っ直ぐに私を射抜く。
「その任務、奪って恩を売ろうじゃないか。」
馬鹿げてる。そんなの、正規の仕事じゃない。
勝手に首を突っ込めば、他支部に睨まれる。それでも……それでも。
私は、唇を噛んだ。
だが、それでも。
このまま第7支部に埋もれるつもりはない。
――火がついた。
今度こそ、あの任務を掴みきる。
第2支部には言いたいことが山ほどある。恩を売って戻れれば、それが一番いい。
「分かりました。私もさっさと恩を売って、こんなボロ臭い支部から抜けさせていただきますから。」
「いい度胸だ、花蝶君。期待しているよ。」
支部長の口元がニヤリと歪む。
その笑みは明らかに、私を使い捨ての駒と見ている顔だった。
けれど、そのとき――
私も、同じような顔をしていた。
「さぁ…第7支部―任務開始だ。」
「花蝶君、すぐに荷物をまとめたまえ……出るぞ。」
突拍子もない言葉に、私は一瞬まばたきすら忘れた。
だが支部長はすでに立ち上がり、コートを手にしている。
その動作があまりに自然で、「準備が当然だ」と言わんばかりだったから、私も思考より先に体が動いた。
必要最低限の荷物をカバンに詰め込み、椅子を蹴るようにして立ち上がると、支部長の背中を追って事務所を飛び出す。
「出るって……どこに向かうんですか? 私、その任務の詳細すら知らされてませんよ?」
急ぎ足で並びかけると、支部長は一瞥もくれずに前を見たまま答えた。
「決まっているだろう――国立図書館だ。」
「えぇ……」
足が一瞬すくみそうになる。国立図書館はまさに事件の現場だが、図書館の警備は厳重で、記録魔法も張り巡らされている。勝手に出入りすれば、それだけで罰則ものだ。
それでも支部長は、一歩も迷うことなく足を進めていく。その背中には、理由も、正義も、目的すら感じられなかった。ただ――面白がっているだけのような、そんな軽やかさ。
私は、ほんのわずかにため息をついた。
ああ、やっぱりこの支部……まともじゃない。
「支部長……待ってください。」
「神城でいい。支部長って肩書き、私にはどうにも似合わないからね。」
妙に軽い声。名乗る名前まで、自分で選び直すような人間が、まともなわけがない。
私は早足で追いつき、横に並びながら言う。
「なら神城さん。……国立図書館の魔法使い専用フロアって、私たち入れるんですか? 正式な手続き、必要ですよね?」
「何を言ってんだ。ここにいるのは魔法使いだぞ? ちゃんと正式なアポさえあれば――」
「あるんですか?」
私はピシャリと食い気味に聞いた。神城は一歩足を止めて、肩越しにこちらを振り返る。そして――ふっと、唇の端だけで笑った。
「取ってるわけないだろ。」
その言葉に、私は数秒間、現実逃避したくなった。
こいつ、本気で言ってる。
「……じゃあ、どうやって入る気なんですか。」
「交渉、説得、あるいは、ちょっとした非道徳的説得ってやつかな?」
「それ、脅迫って言うんですよ。」
「言い方の問題さ。伝わりゃあ同じ。」
神城はまた前を向き、何事もなかったように歩き出す。
私は再び、深いため息をついた。
けれど――こういう無茶をやれる人間が、一周回って強いのかもしれないとも思った。
少なくとも、黙って見ているだけの上司よりは、ずっとマシだ。
私は歩調を合わせながら、心の奥で小さく舌を巻いた。
――数時間後、国立図書館。
「よぉし、入るぞ。」
「はい……」
私は肩にかけたカバンをかけ直し、足を一歩踏み出す。
目の前に広がるのは、静かで重厚な建物。
ここは東京都・台東区、上野公園内。国立博物館、科学博物館、西洋美術館――
それらに並ぶ“文化の牙城”に最近追加された、新たな施設。国立図書館。
表向きには、国が設立した最大級の図書館。
だが、実際の目的は別にある。
魔法使いの数が急激に増えた今、杜撰な魔導書の流通はリスクでしかない。
その管理を国家が担うべきだ――そう判断した結果、生まれたのがこの施設。
ここは魔導書の“金庫”であり、同時に、魔法使いに対する“監視の目”でもある。
当然、魔法使い専用フロアへ入るには、厳重な審査が必要だ。
事前予約、国家資格、提出書類、管理官との面談、認証魔法の通過――
一つでも欠ければ、門前払いが確定する。
「本当に、抜けられるんですか?」
私は半ば呆れ、半ば不安混じりに訊ねた。
神城はふっと笑い、私の視線を意に介さず言う。
「見てな。」
そのまま、魔法使い専用フロアの管理人のもとへと、ずかずか歩いていく。
予約も書類もない。ただ、まるで当然のように――。
やっぱりこの人、頭のネジが何本か足りてない。
けれど、何かを“やってのける”雰囲気もあるから、余計にタチが悪い。
私は息をつき、知らないふりで少し距離を空けながら、あとを追った。
見てるだけで胃が痛くなる。まさか本当にこのまま突撃するつもりなのか。
「どうもー、魔導書管理長、山崎さん。ちょっと確認したい魔導書がありましてねぇ……そこ、開けてもらえます?」
――直球すぎだろ。バカなのかこの人。