2話 プロローグNo.2
――だが、遅かった。
椅子に縛られた少女の首には、ナイフによる一刺し。首からは蛇口のように、血が止めどなく滴っていた。
部屋に、敵の姿はない。
「違法魔法使い……追いますか……?」
震えた声で問いかけた。だが、返ってきたのは問いの返事ではなく、叱責だった。
リーダーが鬼の形相で私の胸ぐらを掴み上げる。
「奴らが使っていたのは高等魔法だ。あんな魔法を使えるヤツは限られている。だからこそ――お前の判断が、我々の存在を“裏の組織”にまで曝け出す結果になったんだ!」
「でも……人質を……仲間を殺すなんて……」
「甘いんだよ。ここはお前のヒーローごっこをやる場所じゃない。国家魔法監理局に入った時点で、覚悟しておくべきだったんだ。……ほんっと嫌いなんだよ。お前みたいな、固有魔法の派手さだけで二級になったようなガキは。」
私は何も言えなかった。少女の血の匂いが、床から立ちのぼって、鼻の奥にずっとまとわりついてくる。
メンバーたちは苦虫を噛み潰したような顔で、現場を後にした。
そして、数日後――
あの任務から、まだわずかしか経っていないというのに、時間の感覚が妙に遠く感じた。乾いた空気の中、廊下に響く靴音が、やけに耳に残っている。
今日は任務連絡を受けたため、私は再びリーダーの前に立つ。周囲にはいつもの仲間たちが揃っていた。私も、その中の一人である“つもり”だった。
「今回の任務は、国立図書館の魔法使い専用フロアから、数冊の魔道書が盗まれた件についてだ。詳細は手元の資料に記されている。」
……手元の資料?
私だけ、配られていないそれを探すように視線を泳がせた。だが、どこにもない。誰も私に渡そうともしない。
「リーダー、私の資料がありません。」
一言、尋ねた。
その瞬間、リーダーの目が、無言で私を射抜いた。冷たく、淡々とした瞳。
「今回から、シノ。お前には任務から外れてもらう。」
心臓がひとつ、深く沈むのがわかった。
「お前は第七支部へ移動となった。……あとで部屋に来い。」
それだけ言い残し、リーダーは視線を逸らす。誰一人として、私と目を合わせようとはしなかった。
――終わったんだ。
あの夜の判断が、私の魔法使いとしての立場を変えてしまった。
国家魔法監理局 第二支部――それは精鋭が集う場所。そこから追い出されるという意味を、私は痛いほど理解していた。