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14話 目的

数日の特別休暇を経て、私は再び第七支部のドアをくぐった。

今日、私の処遇が決まる。そう聞かされていたからだ。


ドアは相変わらず重くて軋む音を立てた。

中に入ると、事務所は変わらず雑然としていて、その中央に、いつもの男がいた。


「やぁ、花蝶君。真面目に来るとは偉い偉い。」


ソファに腰を落としたまま、神城は相変わらずの調子で口角を上げた。

その目は、相変わらず前髪の陰に隠れている。


「それで、神城さん。私は――第二支部に、戻れるんですか?」


私はソファにも座らず、正面に立ってそう訊いた。余計な言葉はいらない。答えだけが欲しい。


「そのことだけど……君の第二支部への復帰は、正式に許可されたよ。」


一瞬、胸がふわりと浮く感覚がした。


「……本当に?」


「本当さ。だが――同時に、君が第二支部へ行く必要も無くなった。」


「……え?」


一気に冷水を浴びせられたようだった。

今の言葉の意味を、脳がうまく理解してくれない。


「……それ、どういうことですか?」


私の声だけが室内に浮かび、やけにクリアに響いた。


神城はニコリと笑い、私の肩越しに向かって言った。


「それじゃあ、入りたまえ。」


すると重たい空気と共に、ドアが軋む音を立てて開く。


現れたのは、見慣れたあの顔だった。


「……やりやがったな、神城。」


「望月さん!?」


彼の目は怒りを抑えきれずに揺れていた。だが、それ以上に疲弊していた。


「望月、第二支部リーダー……ようこそ、第七支部へ。」


神城が口角を上げて、芝居がかった拍手を送る。


「お前……! 第七支部と協力した情報、上にバラしやがったな。協定違反の名目で降格だとよ、まさか第七支部まで落とされるとは…。」


「ね? 花蝶君。君の上司は君を追ってここへ来た。もう第二支部に未練はないだろう? これからは、三人で仲良くやっていこうじゃないか。」


笑っているのは、神城だけだった。その笑みに、どこか底知れないものが滲んでいた。


望月はふぅと深いため息をつき、事務所をぐるりと見渡す。


「子汚ぇ事務所だな……片付けもされちゃいねぇし、カビ臭ぇし。ほんと、最悪。」


ぶつぶつ言いながら、一つの机の上に目を留めた。そこには、色あせた家族写真が飾られていた。


「……おい神城。雫さんの席、まだそのままにしてんのか?」


「雫……さん?」


私が訊き返すと、神城は一瞬だけ口を閉じ、だが望月が口を開こうとした瞬間――


「亡くなった前任の席だ。」


神城が食い気味に言い放つ。語気は強く、遮るように。


その言葉に、部屋の空気が一段と重くなる。


「……それも含めて、話すつもりだよ。第七支部の“本当の目的”を。」


私は息を呑んだ。

「本当の目的」――その言葉が、頭の奥で何度も反響する。

神城は何かを隠している。尋常ではない強さ。曖昧な言動。そして、この第七支部そのものが、どこか異常だ。


「私は……魔法使いの味方ではない。否、誰の味方でもない。」


唐突すぎる言葉に、思考が凍った。どういう意味だ?


「ありがちだろ?ある日、重大な秘密を知って、敵陣に潜入するとか……まんま、そのパターンだよ。」


「その、“秘密”って……」


「まだ言えない。下手に話せば、君たちの命に関わる。」


「それは……その、雫さんって人も……?」


一瞬、神城の眉が動いた。


「……そいつが死んで、確信に変わった。それまで仮説に過ぎなかったものが、現実になった。だから、今動くべきだと思ったんだ。」


「……だから人を集めたんですね。」


「ああ。もう察しているかもしれないが、簡潔に言おう。――私の敵は、《国家魔法管理局》。そのトップだ。」


私は生唾を飲み込む。

それが真実なら、神城の言っていた“もっと悪い奴”は―私たちの、すぐそばにいる――それが神城の言う「敵」だというのなら。


「ここには、信用に値する人間だけを集めたつもりだ。望月君、君は私と同じ時期に現場に出た同僚だ。君の実力と覚悟、私は理解している。」


同僚だったのか……なら、あの口の悪さも納得できる。だが、私は――。


「花蝶君、君は今回の図書館任務で十分に証明してくれた。洞察力、固有魔法、そして決断力。私は君の“使い方”をもう理解している。なにより、その性格がいい。――信用に値する。」


一瞬、胸がざらつく。それは嬉しさでも、誇りでもなかった。ただ、選ばれたという事実だけが重たく響いた。


「――ああ、やっと理解できた。」


望月が頭をかきながら、ため息まじりに笑う。


「お前がわざわざ俺に『シノをこっちに寄越せ』って言ってきた理由、やっと腑に落ちたよ。上層部に先に抜かれるのが嫌だったんだな?こいつの固有魔法――強いから。」


「その通り、敵に回ると怖いからな。

と言うわけで、これからはこの3人でやっていきたいところなんだけど……残念ながら、任務がない。せっかく花蝶君に実践を積ませた買ったけれど……だから、また盗んで来ようか任務。」


神城の口調は、さっきまでとまるで違っていた。

国家を敵に回す決意を告げた男とは思えないほどに、軽くて、飄々としていて、腹の底が見えない。

だが、その軽薄さの裏にある確かな「本気」だけは、今の私たちにはわかっていた。


望月も黙っていた。ただ一つ、笑みのような、呆れのような、そんな顔で神城を見ている。


私は、この支部のやり方も、空気も、そしてこの、変な人たちも。


――不思議と、嫌じゃなかった。


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