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『青嵐クロニクル~35人の青春群像~』  作者: あるき
4月:「新しい風が吹く」
7/122

4月7日(月曜日)

「……よし、今年もいい天気だな。」


朝7時前、俺、清水 悠人は、まだ人通りの少ない校門をくぐりながら、大きく伸びをする。今日は新学期初日。いよいよ3年生だ。昨日までの春休みが終わって、今日からまたクラス替え発表やら何やらで慌ただしくなるはず。クラス委員として走り回った2年生のころを思い出すと、ちょっと落ち着かない気持ちにもなるけど、それよりも期待のほうが大きい。


「おはよ、清水!」


声のほうを見ると、斉藤が校舎入口付近で待っていた。相変わらずきちんとした髪型と姿勢で、書類らしきものを抱えている。委員長としていつもクラスをまとめてくれた彼女も、今日からは“3年生の斉藤”だ。


「おはよう。早いな、もう来てるとは」

「うん、なんかソワソワして眠れなくて。清水こそ早いじゃん」

「ま、委員長コンビとしては最初にクラス分け見ておきたいしね。……まだ貼り出されてない?」

「昇降口前に掲示板あるけど、さっき見たらまだだった。あと数分ってとこかな」


そう言いながら、斉藤は教室に向かおうとしたが、「あ、まだどこがホームになるか分かんないよね」と苦笑い。確かに今までは2年5組の教室に自然と行けばよかったけど、新しい教室は何階かも分からない。まさにこの時間帯、同じように学校へ来た生徒たちがどこに行けばいいか戸惑っているはず。そこで、いつもの生徒会補佐モードが働いたのか、斉藤は「ちょっと昇降口でみんなに声かけてくる!」と足早に去っていく。こういうところ、ほんと責任感強いなあと感心してしまう。


「じゃ、俺も行くか」


ふらっと昇降口へ出てみると、他のクラスの顔なじみや後輩もちらほら集まり始めている。入学式は午後だから、新入生はまだいない。代わりに先生方がバタバタと準備をしているのがガラス越しに見える。青嵐高校の年度始めの空気は独特のにぎわいを感じるんだよな。


「清水、おはよー!」  

声をかけてきたのは、同じ野球部仲間の江口。それに中村と山田も揃っている。幼なじみ3人が固まると自分もホッとする。


「おはよう。みんな早えな。クラス発表、気になって眠れなかったとか?」

「いや、普通に朝練のつもりだったけど、今日は始業式で練習なしだって言われてさ。」

「でも気になるのは本当。マジで、同じクラスだったらラッキーじゃん?」


江口と中村がそんな話をしている横で、山田が「どこでも楽しくやるけどね」と笑う。どいつもこいつも、ほんと気が合う仲間だ。俺も彼らと一緒になれたら最高だけど、そこは運だからなあ。…なんて考えていると、急に周囲がざわめき始めた。どうやら先生たちが掲示板を張り出しているらしい。途端に生徒たちがぞろぞろと集まってきて、前のほうはプチ人だかりだ。


「よし、行くか!」


4人で「おおっ!」という気合いとともに前に進む。朝の薄日差しの下、真新しい紙が何枚も貼られているのが見える。「3年1組」「3年2組」……と順番にクラス名簿が並んでいて、ひとつひとつ視線を追っていく。思わず息が止まりそうになる。


「あったあった、俺たちの名前…」


俺は「3年5組」って欄を見つけて、まず自分の名前を確認。清水 悠人…いたいた。ふう、どんなメンツか…。江口や中村や山田の名前は……?  

「えーと江口は…3年5組だ!」  

すぐ上に「江口 健介」を発見! やった、同じクラス! 中村も…同じく5組、あ、山田もだ。まじか、3人とも一緒とは思わなかった。思わず小さく拳を握る。後ろで江口たちも歓声をあげていて、軽くハイタッチ。ここで一気にテンションが上がった。


「やば、これ最高すぎだろ。野球部仲良し組、まさかの再集結じゃん!」  

「マジかよ、奇跡じゃね? 隼人も一緒なんだろ?」  

「うん。あと、寺田も5組だ…ああ、朝倉は4組か。」  

「そっか、朝倉は違うクラスかぁ。でもまあしゃあないな。」


そんなふうに口々に言いながら、「これで放課後すぐ集まれるな!」「体育祭のとき同じチームだ!」って、もう頭の中はお祭り状態だ。とりあえずホームルームが始まるまで時間があるから、新しい教室へ行ってみようってことになり、4人で階段を駆け上がる。廊下には同じように喜んだり落ち込んだりしてる生徒の姿があちこちにあって、今年も青嵐高校は春から賑やかになりそうだ。


教室に入ると、すでに何人か座っている姿が見える。見渡すと、「寺田」「小林」「杉本」「岡田」…などなど、見覚えのある面々や、別のクラスで顔だけ知ってる人もいる。「あ、この子が同じクラスになるのか」と思いながら軽く会釈をすると、相手もペコリと返してくれる。なんとなく緊張するけど新鮮だ。


江口と中村が「どの席座る?」とウロウロしているが、まだクラス全員が来る前だし指示もないから適当に中央あたりに荷物を置く。山田は後ろのほうをキープしたいらしく、「教科書とか出すの楽だし」と理由にならない理由を言って笑っている。それにしても3年になって席替えをどうするのか、担任次第かな。そもそも、誰が担任なのかすらまだ分からない。


しばらくすると、廊下のほうから足音が聞こえ、グレーのスーツを着た先生がドアを開けて入ってきた。初めて見る先生…? と思ったら、「皆さん、おはようございます。今日から3年5組の担任になりました、今井です。国語を担当しています」と少し低めの声で挨拶。今井先生って聞いたことあるな、上の学年を持ってたベテランの国語教師らしい。噂では結構厳しいけど生徒思いって聞いてた。


「はい、そしたらまず席につきましょうか。出席番号順で名簿呼ぶんで、呼ばれた人は順に座ってください。落ち着いたら、ホームルームを始めます。」


そんな感じで手早く出席を取ったあと、一人ひとり簡単な自己紹介をさせられる流れに。中には新しいクラスで既にテンション高い子もいて、笑いが起こったりして和やかな空気。俺も「清水 悠人です。前は5組でした。サッカー部…いや、もう引退しましたが、まあやることあれば手伝います」とか簡単に言って終える。江口や山田が「サッカー部じゃねーだろ」とか突っ込んできて笑いが起こり、ちょっと恥ずかしかった。でも悪くないスタートだ。


ホームルームが落ち着いたあとは、クラスの書類配布や担当教師の紹介など、春の始業式定番の行事が続く。校長先生の話や生徒会長の挨拶も体育館で聴いて、戻ってきたころにはもう昼近く。教室も少しずつ賑やかになってきて、みんなお互いの席や荷物の場所を確認したり、スマホで連絡先を交換したりしている。


江口と中村は運動部仲間と早速「今日の放課後、練習始動だよな」と盛り上がっていて、山田は隣の席になった女子と笑い合ってる。俺はといえば、今井先生から「委員経験があると聞いてるけど、どうだ? 今年もやるのか?」と軽く尋ねられ、「え…あ、まだ分かりません」とどもってしまう。担任に目をつけられたかな? ま、別に嫌じゃないんだけど、3年になったら勉強も忙しいしどうなるかなあ。


そうこうするうちに昼休みになり、クラスの何人かが「もうどこで食べる?」と集まり始める。新しいクラスで、まだ慣れない人も多いけど、こういう時間が仲良くなるきっかけだってわかってる。俺は江口や山田、それに寺田や岡田も交えて、教室で弁当を広げることになった。今まであまり話したことなかった岡田が真面目に受験の話をしてきたり、寺田が「引退したら勉強も本気でやらなきゃ」と言いながらもスポーツトークで盛り上がったりと、自然と新クラスの輪ができあがる気配を感じる。


午後は新しい時間割の説明や教科書受け取りなど、淡々とした行事が重なる。まだ担任の今井先生以外の科目担当は顔を合わせていないが、「数学は岡本先生だ」とか「英語は佐久間先生かな」なんて噂が飛び交っている。どの先生が来るかで授業の雰囲気が大きく変わるから、こういうのも毎年の恒例行事だ。


ホームルームが終わると、今日はもう下校になる。あっという間の半日だったけど、新しいクラスメイトとちょっと話したり、教室の席順を確認したりしただけでかなり疲れた。でも、このまま部活に行くやつもいれば、クラス委員や係を決めるために残って相談する子もいるらしく、校舎全体がまだざわざわしている感じだ。


「清水、帰るの? 俺らこのあと顧問に呼ばれてるから、先に行ってていいぞ」

「おう、じゃあ先に帰って飯でも食うかな。じゃあまた明日!」


江口と山田は野球部のミーティングがあるらしく、中村も付いていった。俺は…サッカー部を既に引退してるし、特にやることもない。学級委員とかも決まるのはもう少し先だろうから、とりあえず今日は帰宅して明日以降の課題や教科書を整理しよう。夏になったら進学モードに切り替えて勉強しなきゃならないけど、まだ焦る時期でもないか。


校舎を出ると、満開だった桜はだいぶ散り始めて、花びらが校庭に舞っている。チラチラと吹く風が心地よい。ああ、また一年が始まるんだなって、しみじみ思う。あと12か月もすれば卒業か。3年生は受験で忙しくなるけど、同時に最後の学校行事やクラスメイトとの思い出もたくさん作りたい。新クラスで関わる人も増えるはずだし、きっと刺激的な日々になるだろう。


「よし……今年も委員やってもいいかもな。みんなと一緒に盛り上げたいし」


この一年が充実したものになるように、微かな決意が胸の奥にわきあがる。桜の花びらが風に乗って舞い落ちる中、俺は校門を抜けて坂道を下りながら、明日からの毎日にワクワクしていた。声をかけ合うクラスメイトの姿を横目に見ながら、「3年5組、面白くなりそうだ」と心の中で呟く。自分の役割が何になるかは分からないけど、周りを支えていくのが好きな自分らしいやり方で、このクラスを楽しんでいきたいのだ。


そして、ふと視線を上げた先に、青い空が広がっていた。少し強めの風が吹いて桜の枝を揺らす。散りかけの花びらが、まるで新しいステージに立つ俺たちを祝福するように漂って見える。明日から授業が本格化し、新たな一年が始まる。高校最後の学年、最後の春。一日一日を大切に過ごすためにも、自分の持ち味を存分に発揮しながら仲間とともに成長していこう。そんな思いを胸に、俺は弾むような足取りで家路へと向かった。

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