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『青嵐クロニクル~35人の青春群像~』  作者: あるき
4月:「新しい風が吹く」
6/122

4月6日(日曜日)


「……明日で春休み終わりかぁ。早かったなぁ」


布団の中でごろごろしながら、俺、中村 隼人は、スマホの画面をぼんやり見つめる。時刻は朝9時。いつもなら野球部の練習があったりするけど、今日は久しぶりの完全オフらしく、みんなが「最後の休みくらいゆっくりしろ」って気を利かせてくれたんだ。それにしてもこの時期になると、気持ちがちょっとそわそわして落ち着かない。明日は始業式でクラス替えの発表もあるから、楽しみなような、少し不安なような……。


「あー、何するかな。江口は朝から自主練って言ってたし、山田はバイトだって言ってたな」


幼なじみの2人はすでにそれぞれ行動開始してるらしい。俺はというと、部活を引退するまでは基本的に野球メイン。勉強はそこそこで、仲間とワイワイやってる時間が好きだ。だけど3年生になるってことは、進路や受験の話題がリアルになってくるわけで……うーん、ちょっと考えるだけで頭痛がしそう。


「母さーん、なんかメシある?」

「おはよう隼人! キッチンにパンと卵あるから適当に食べてね。お父さんは地域行事で出かけちゃったし」

「あいよー」


リビングに行くと、母はスマホをいじりながら何やら調べ物をしている様子。どうやら近所で新しくできるスーパーの情報らしい。俺も軽くトーストをかじりながら、テレビのチャンネルを回す。ワイドショーでは「新年度が始まって学生も社会人も大忙しですね」なんてコメントしてて、まるで自分たちのことを言われてるみたいでちょっと笑える。


「そうだ、明日のクラス発表、何時くらいに掲示板に出るのかな」

「確か、始業式の朝イチだったよね? 8時半とか9時前には貼り出されるんじゃない?」

「だよなぁ。あー、江口とかと同じクラスになれなかったら寂しいし、逆に朝倉とか寺田が同じクラスになるなら楽しそうだし……どうなるかマジ読めないよ」

「ほんと、それ。ま、誰と一緒でも隼人はなんだかんだ楽しめるでしょ?」

「いやいや、多少あるじゃん、相性とかさ。あー不安だな~」


なんて言いつつ、内心はけっこう「どうにかなるか」って気もしてる。俺はあんまり考えすぎるタイプじゃないし、仲いいヤツがクラス違いになったって休み時間や放課後に絡めばいいだけだ。ただやっぱり、朝からクラス発表を見る瞬間ってのは独特の緊張感があるよな。


適当に朝食を済ませて部屋に戻ったが、やることが浮かばずベッドに倒れ込む。今日はオフとはいえ、体は動かしたい気持ちもある。けどわざわざ一人で練習やジムに行くのも面倒くさい。誰か誘おうかなと思ってスマホを手に取ると、ちょうどクラスのグループトークで何人かが「春休み最後の日! 暇な人ー?」って呼びかけているのを発見。


「お、タイミングばっちりじゃん」


書き込みを見てみると、根岸や井上あたりの女子組が「駅前でランチしよう」「買い物付き合って~」なんて盛り上がってるみたい。男性陣だと川崎が「スタジオ入るかも」とか言ってるけど、バンドやってない俺が行っても微妙かな……。斉藤や清水は「今日は家で明日の書類準備する」って言ってるし、なんとなく乗り遅れ感。


けど、そこに江口が「練習終わったら暇かも」と書き込んでるのを見つけて、すかさず個別チャットで送ってみる。


**俺**「なあ江口、午後からメシでも行かね? 山田もバイト終わりで合流できそうなら一緒にさ」

**江口**「お、いいね。ちょうど練習終わるの14時くらいだ。そしたら駅前集合にする?」

**俺**「OK。適当に山田にも声かけとくわ」


こういう即断できる仲間がいるのってほんとありがたい。山田はコンビニバイトで夕方には上がるって言ってたから、待ってる間に江口と二人でぶらつくのも全然いいし。それで3人集まったら軽くゲーセンでも行くか。そんなふうに予定が決まると、急にソワソワしてきた。


それまでの数時間、どう過ごそうか。母に買い物を頼まれてた気がするけど……まぁ帰り道でもOKだろう。せっかくのオフなんだから、少しは自主勉強でもするか? でも机に向かうと眠くなるんだよな。……ま、ちょっとだけやってみるか。適当に英語の長文でも読んでれば、少しは気休めになるだろう。


そう思い、参考書を手に取って読んでみる。真面目な奴らがこれを何時間もやってると考えると、尊敬しちゃう。俺なんか「あー全然わかんねえわけじゃないけど眠い」ってなるのがオチ。しかし、3年になっても成績がこのままじゃヤバいかも……。野球の推薦で行けりゃいいんだけど、正直実力が甲子園レベルでもないし、どうなるんだろ。最近、江口も「引退したらみんなで勉強モードだよな」なんて言ってるし。俺もそろそろ覚悟しなきゃいけないんだろう。


「あー、もう! 明日からちゃんとやる。今日はオフだから勘弁してくれ!」


苦笑いしながらスマホをポチポチいじってたら、あっという間にお昼を過ぎる。よし、そろそろ準備して駅前に向かうか。江口の練習が終わるのは14時くらいだけど、俺は早めに着いてゲーセンでも回っておこうかな。スマホを見ればクラスのグループLINEは相変わらず賑やかで、井上や根岸なんかは今すでに女子会を満喫してるっぽい。みんな春休みの最後を思いっきり楽しんでるんだなぁ。


家を出る直前、母が「晩ごはんどうするの?」って聞いてきたので、「たぶん19時くらいには帰る」と伝える。母は「始業式の準備忘れないでね。提出物とか大丈夫?」と優しく念押し。うちの親はあまりガミガミ言わないタイプで、俺はそれに甘えてる部分もあるけど、やっぱ助かるなって思う。クラス替えがあるし、もしかしたら提出物のチェックが明日朝イチであるかもしれないしね。一応ちゃんと確認しなきゃ。


外へ出ると、春の陽気がめっちゃ気持ちいい。桜はだいぶ散り始めてるけど、まだ少し残ってて風に花びらが舞ってる。こんな景色を見てると「いよいよ新学年か」としみじみする。あと数ヶ月で部活も引退して、それからは受験一直線……なんだけど、正直あんまり想像つかない。みんなバラバラの道に行くんだろうな。今はまだ考えないようにしてるけど、卒業して離れ離れになるってやっぱ寂しいよな。


駅前の噴水広場に着いたら、既に何人かの知り合いがいて軽く手を振った。別のグループだから一緒に遊ぶわけじゃないが、こうして顔を合わせるだけでテンション上がる。高校生活っていいよなと思う瞬間だ。ゲーセンに入り、軽くUFOキャッチャーに挑戦してみるも、ぬいぐるみは全然取れない。まぁこんなもんだろ、と苦笑いしてスマホを見ると、江口から「今終わった! 着替えて15分後に行くわ」って連絡が来てる。


「よっしゃ、そんじゃゲーセン入口で待ってるか」


ウロウロしてると、たまたまクラスの北川が友達と一緒にゲームコーナーで遊んでるのを見かけた。彼女は文芸部でいつも静かなイメージだけど、こういうところで笑顔を見せてるのを見ると、なんかほっこりする。クラスが変わってもこういう偶然の再会ってあるんだろうな。


そのうち江口がやってきて、「悪い悪い、ちょっと練習長引いた」と笑顔を浮かべる。汗で前髪がほんのり濡れていて、スポーツマンって感じがする。どこか一緒に昼メシでも食おうってことで、駅前の牛丼屋に入る。こういうシンプルなのがありがたい。


「お前さ、明日のクラス替えどう思う? やっぱ気になる?」

「そりゃちょっとは気になるっしょ。特に俺ら同じ運動部仲間が離れたら寂しいよな。」

「だよなあ。まぁ、クラス違っても放課後は一緒に練習だし、山田も入れりゃいつでも集まれるけどさ。」

「確かに。ま、なんとかなるだろ。早く夏の大会に向けてモチベ上げたいし」


二人でそんな話をしながらがっつり食べたあと、ちょうど山田から「バイト終わった、今向かう!」って連絡が来たから合流。いつもの幼なじみトリオでゲーセンの続きへ向かったり、適当にぶらぶらしたりする。いつもと変わらない光景だけど、明日は始業式って考えると全部がちょっと特別に思えてくるんだよな。


気づけば夕方。そろそろ帰るかってことで3人で駅前に戻り、また明日な~と別れる。江口は「明日はどんなクラスでも盛り上げようぜ」と言って拳を突き出してきて、俺と山田も笑顔でグータッチ。やっぱりこのメンバーは落ち着くし、支え合いって感じがする。


家に戻ると、母が「おかえり。夕ごはんもうちょっとでできるよ」と台所から声をかけてくれた。俺は「ただいまー」と返事をして、自室へと足を運ぶ。鞄を置いて思わず机の上の教科書を眺める。明日はいよいよ3年生だ。受験が本格化する学年だけど、正直まだピンと来ない。でもまあ、心配しても仕方ないし、どうにかなるさ。部活も勉強も、この仲間たちとなら乗り越えられるだろう。


「よーし……始業式の準備、書類は大丈夫だな」


プリント類を確認してカバンに入れる。終業式に受け取ったプリントもOK。こうしてちゃんとチェックしてみると、自分でもちょっと“成長した?”なんて思いたくなる。明日クラス発表を見て、知ってる名前を見つけてホッとしたり、意外な組み合わせにワクワクしたりするんだろうな。


「なんとかなるって。よし、明日は早めに行って掲示板見るか!」


そんな独り言とともに、俺は夕食を食べるためにリビングへ。テレビの天気予報を見ると、明日も晴れみたいだ。桜もまだ残ってるかもな、なんて考えると胸が弾む。いよいよ3年生。高校最後の年を、思いっきり青春してやろう。仲間と笑い合いながら、悔いなく駆け抜けるのが俺の目標だ。今日はぐっすり眠って、明日からまた走り出すために力を溜めておこう。そんなふうに心の中で決意を固めながら、夕飯のいい匂いに誘われて、俺は足早にリビングへ向かった。

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