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『青嵐クロニクル~35人の青春群像~』  作者: あるき
5月:「迷いながら進む道」
51/122

5月21日(水曜日)

「明日、生徒総会か……」


ホームルームが終わった後の教室で、斉藤優希はひとりごとのように呟いた。

配布プリントの最終チェックも終えた。議事進行の担当者にも連絡済み。先生にも提出物は出し終わっている。


完璧に見える。でも、心の中は少しだけ、乱れていた。


「優希〜! ちょっと来て来て!」


教室の後ろの方から声をかけてきたのは、**井上美咲**だった。いつも元気で、クラスの中心にいるタイプ。


「今ちょっと……あ、でも何?」


「えーっとさ……あのさ、聞いてほしいっていうか、ちょっと相談?」


「相談? なにかあった?」


「うん……ぶっちゃけ恋バナなんだけどさ……」


「……また?」


優希は小さく笑った。

恋バナは女子にとって重要なトピック。だけど、今の優希には、そのテンションに乗る余裕があまりなかった。


「ちょ、マジで今回は本気なやつ!」


美咲が座っていた机に、優希もつられて腰を下ろす。


「……で、誰の話?」


「高橋涼」


「……ああ、また?」


「いやいや今回は違うって! 最近、吉田麻衣と話してるとこ、よく見るんよね。体育のあととか、下校のときとか。なんかこう……ふたりだけの空気あるっていうか」


「うーん……ただの仲良しじゃないの?」


「違うんだって! この前も涼が“テスト前さ、誰かと図書室で勉強すると集中できる気がする”とか言ってたの。で、麻衣が“それ、私も”ってすぐ乗っかってて!」


「……でもそれ、私と清水もよくやってるけど?」


「うわっ、出た。ほらやっぱ、清水とのフラグ立ってるってば!」


「いやいやいや、それはない」


「その否定の速さが逆に怪しいやつ〜!」


そんなふうに笑いながら、2人でわちゃわちゃしていたそのとき――。


「……なに話してんの? 女子ってまじでうるせーなー」


近くの席にいた川崎蓮が、ギターケースをかつぎながら通りがかる。


「蓮は黙っててよ、今は女子トークの時間」


「ふーん、どうせ“誰が誰を好き”とかって話だろ? 青春だねぇ」


「うるさいっ!」


蓮はひらひらと手を振って教室を出ていった。


その後ろ姿を見ながら、美咲が小さくぼそっと言う。


「……なんか、あいつってああ見えて繊細だよね」


「え、意外な意見」


「うち、この前図書室でさ、蓮が北川詩織と本の話してるの聞いたんよ。“歌詞にしようと思ってる”って、めっちゃ真剣だった」


「へえ……」


その名前に、優希はちょっとだけ意外な響きを感じた。

北川詩織。文芸部部長。物静かで本が好きな女の子。教室ではあまり目立たない。


美咲が少し真剣な顔になる。


「……人間関係って、表面だけじゃわかんないよね。涼と麻衣、蓮と詩織、清水と優希……」


「ちょ、またそこ戻る?」


「だって気になるんだもん。あんたら、タイミング良すぎるんだよ。移動教室とか、下校時間とか、自然に一緒になってるし」


「……あれは、ただの仕事上の連携です」


「うっわ、超堅い返し。逆に怪しいって!」


「もう〜、勉強したいんだけど!」


優希は思わず声を上げた。机の上には英語の単語帳。開いてはいたけど、頭に入ってこない。


「明日、生徒総会なのに……全然集中できない」


「そりゃそうでしょ。人間関係って、頭使うし、心も使うし、結局いちばん疲れるやつじゃん」


「……うん、ほんとそれ」


そのとき、前の席から、控えめな声が聞こえた。


「……わかるな、それ」


振り向くと、千葉真央がノートを閉じていた。


「え? 真央も?」


「うん。私、あんまり人と話すの得意じゃないから……でも、最近ちょっとずつ仲良くなれる人もいて。それってうれしいんだけど、同時に不安にもなる」


「不安?」


「相手がどう思ってるかって、結局わかんないから。……でも、だからこそ、大事にしようって思うんだけどね」


美咲が「真央〜、名言〜!」と拍手して、場が少し和んだ。


そんな空気の中、教室のドアが静かに開いた。


「お、まだいたの?」


現れたのは**清水悠人**だった。ファイルを持っていて、委員長仕事の延長っぽい。


「おつかれ。明日の会場確認してきた。マイクのテストも済んだよ」


「あ、ありがとう……」


「てか、みんなでおしゃべりしてた?」


「恋バナ大会開催中でした〜」と美咲。


「……斉藤も、たまには肩の力抜いた方がいいよ」


「……それ、今日3人目に言われた」


「じゃ、俺がトドメ刺しとくわ。“人間関係に疲れたら、逃げてもいい”って」


「うわ、それ正論」


清水は少しだけ微笑んで、言った。


「でもさ、優希がいるからクラス回ってるんだよ。感謝してる」


「……やめて、泣いちゃう」


優希はそう言いながら笑って、それがなんだか本当に泣きそうなほど嬉しかった。


そのまま教室に残って、3人で資料の最終整理をした。


明日は生徒総会。完璧な準備をしたつもりでも、やっぱり不安は拭えない。


だけど、こんなふうに人とつながってる時間があるだけで、ちょっと心が楽になる。


帰り道、ふと思い出した美咲の言葉。


「人間関係って、いちばん疲れるけど、いちばんあったかい」


そうかもしれない。そう思えた今日だった。

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