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『青嵐クロニクル~35人の青春群像~』  作者: あるき
4月:「新しい風が吹く」
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4月2日(水曜日)

「……何時だろ」


目が覚めると、午前8時半を少し過ぎたところだった。春休みのせいか外はやけに静かで、窓から射し込む陽ざしがまぶしい。昨夜は結局、クラスの LINE通知が気になって夜更かししてしまったから、こんな時間に起きるのは久々かもしれない。けど、まだ眠気は残ってるな……。


私、斉藤 優希は、ベッドからゆっくり体を起こして、枕元に置いてあったスマホを手に取る。ロック画面にはグループチャットの通知が数件。こんな春休み中でも、クラスのメンバーはわりと夜型だったりするから、深夜に盛り上がったトークなんかが一気に流れてたりするんだよね。


「ふあぁ……何か飲も」


部屋を出てキッチンへ。冷蔵庫からアイスティーを出してコップに注ぐ。ごくごくと飲んでみると、冷たさが口の中に広がってちょっと目が覚める。春休みの朝は時間がゆっくり過ぎる感じがして、なんだか変な感覚だ。いつもなら学級委員長としてクラスのことに追われてるし、朝食すら急いで済ませて登校するのに……。だけど今は学校が休み。決まった予定もないと、逆に落ち着かない。


テーブルに座り、スマホをチェックする。グループチャットには、昨日の夕方から深夜にかけてのメッセージがずらり。開いてみると……案の定、


「蓮、また夜までギター弾いてたらしい」

「誰か明日カラオケ行かない?」

「模試の申込みどこでやんのー?」


みたいな話題が入り混じってて、賑やかだ。うちのクラス、ほんといろんなタイプがいて面白いけど、その分私がまとめ役になる場面も多い。新学期は4月7日の始業式にクラス発表があって、そこからまた委員を決めたりするのかな。3年生になるし、私もそろそろ引退……でも、性格的に見過ごせなくて何かと動いちゃうんだよな。みんなに「また斉藤が頑張りすぎてる」って言われても、結局やるしかないって思っちゃう。


「ほんと、このままだと自分の勉強が……」


自分で呟いて、ちょっとため息がこぼれる2年生までは、学級委員とか生徒会補佐とか、いろんな行事に全力で関わってきた。それを後悔してるわけじゃない。だけど、もう3年生になる。志望大学だって定めないといけないし、正直、そろそろクラスのことばかりじゃなく、自分を優先しなきゃヤバい気もする。


そんな不安を抱えつつ、スマホのLINEを開くと、同じく学級委員を務めていた清水悠人から個別メッセージが届いていた。


**清水**「優希、昨日のクラスLINE見てた? なんか何人かが明日あたりに集まろうって言ってるみたい」


**私**「見たよー。でもまだ確定してないよね?」


**清水**「うん。で、みんな日中がいいって言う割に時間も場所も決まってなくてさ。ちょっとだけ調整手伝ってくれない? ほら、いつもお得意でしょ?」


「うわぁ……」と思わず声が漏れる。春休みくらい楽させてほしいと思う反面、清水が頼ってくるってことは他のメンバーもなんだかんだ困ってるんだろうなって想像がつく。以前から何かイベントがあると、私と清水が連携してまとめることが多かった。2人とも委員長コンビで動きやすいし、他のメンツも「あの2人に任せとけばどうにかなる」と思ってる節があるんだよね。


「まあいいか……今日もヒマっちゃヒマだし」


私は気を取り直して返信する。


**私**「OK。じゃあLINEで簡単にアンケート作ってみるから、清水はメンバー招集よろしくー」


数分もしないうちに「助かる!」というスタンプがポンと返ってくる。やれやれ、頼まれると断れない性格だなと自分で思いつつ、サクサクとグループチャットに「集合場所と時間アンケート」みたいなのを投下。そうしたら「おおっ、さすが委員長!」「マジ神!」みたいな言葉が飛び交って、ちょっと嬉しいような、複雑なような……。


「よし、とりあえず決めるまで少し待とう」


そう呟きつつ、時計を見ると9時過ぎ。両親はもう仕事に出ていて家には私ひとり。兄は大学生で、一人暮らししてるから実家にはいない。この時間から家にいるのって、なんだか不思議な感覚だ。よし、ちょっとは自分の勉強でもやろうか……と机に向かおうとすると、


**LINE通知**「ピコーン♪」


「……早速きたか」


グループチャットをのぞけば、江口とか山田とか、運動部系のメンバーが「10時から家で映画観ようぜ」「いや、昼から外でランチどう?」みたいに好き勝手書き込んでる。昼からみんなで遊ぶの? それならもうちょっと後ろ倒しでも……と思っていると、次々に意見が飛び交って収拾がつきそうにない。見ているだけで頭がこんがらがりそうになる。


「仕方ない……まとめてあげるか」


私はまたアンケート内容を修正して、「午前中は無理な人多そうだから、午後に集まる? 場所はファミレス? カラオケ?」などと追加項目を設定。次々に飛んでくるスタンプやコメントを目で追いながら、要望を少しずつ整理する。この地味な作業をしているうちに、気づけば30分以上があっという間に過ぎていた。勉強どころじゃないな、ほんと。


ふと、グループチャットで小林が「バイト17時からだからそれまでなら参加オッケー!」と書き込んだのを目にする。彼女も家計を助けるためにバイトしてるのは知っているけど、こうやって皆が集まる時間とバイト時間を調整するの、大変そうだよな。北川は文芸部の集まりがあるって言ってたし、寺田は部活を引退したけど後輩の練習見たいから午後イチしか無理、とか……いやー、ほんとにバラバラ。うちのクラスの個性は尊敬するけど、委員としては時々しんどい。


「まあ、みんなが会いたいってのは仲がいい証拠かな」


そう思ったら、ほんの少し微笑みがこぼれる。こうやって春休み中でも雑多に連絡し合ってるのって、友達同士だからこそだし、高校生活ならではのワイワイ感がある。あと1年後には卒業で、きっとこんな風に気軽に集まるのも難しくなるだろうし。


結局、午前中のうちに彼らの意見をなんとかまとめた結果、「今日は14時に駅前集合、近くのファミレスでご飯&お喋り会」という方向に落ち着いたっぽい。細かいところは集まってから決めるとして、これで一応、予定が固まった。「あー、よかった……」とホッとすると同時に、もう11時前になっていた。


「よし、集合まで3時間か。ちょっとだけ勉強……いや、お昼どうしよう」


私は一度机の前に座ろうとしたが、頭が情報整理でフル回転してちょっとクタクタになってる。もう春休み終わりも近いし、勉強しなきゃいけないのは分かってるけど、少し休憩してからにしよう、と自分に言い聞かせて立ち上がる。こんな調子だから、いつまでも自分のことが後回しになるんだよね。でも、私には「みんなが助かったって思ってくれるならそれでいいや」って気持ちもあるから、なんだかんだでこれが私の性分なんだと思う。


それから私は部屋に戻り、制服のリボンが散らばってるクローゼットを整理し始める。新学年に向けて、少しは身辺をきれいにしておこうと思ったのだ。途中で「あ、このプリントまだ配りっぱなしだ」「これはどこにファイリングするんだっけ」と懐かしい書類が出てきて、またしても時間が溶けていく。まるで部屋の片付けあるある。ポスターやプリントの端っこに書かれたメモに目が留まって、「あのときこんなことしてたな」なんて、思わず懐かしい気持ちになる。


思えば、行事のたびにクラスみんなをまとめたり、行事委員や係の仕事を一緒にやってきたから、わたしの部屋にはクラスの資料がごっそりだ。文化祭の企画書、体育祭の応援歌の歌詞カード、あとは生徒会で使った資料もある。どれも思い出深いけど、数が多すぎて保管場所がなくなる一方。そろそろ処分できるものは捨てないと……でも捨てるのもったいないような気がするし。うーん、悩む。


そんなこんなで気づけば12時近く。お腹がグーッと鳴る。結局、勉強は一ページも開いてない。軽く昼食を取って、準備をしてから駅前に行けば14時ぴったりくらいに着きそうだ。部屋の片付けも中途半端だけど、もういいや。やることは山積みなのに、結局どれも半端に終わる私……とちょっと自己嫌悪しながらも、「まあ、今日はこれでいいでしょ」と自分を甘やかしてしまう。


「行ってきまーす」


玄関先で誰もいない家にそう声をかけて、ドアを閉める。これが平日だとほんと学校に行くのが当然だったのに、今は春休みでクラスメイトと遊ぶために家を出るんだってのが変な感じ。でも、この1年が始まったら、もっと忙しくなるかもしれない。クラス委員を続けるかは分からないけど、3年生になったら進路のこともある。どんな風に高校生活が変わっていくのか、正直言ってまだ想像がつかない。


だけど、今日みたいにクラスのみんながワイワイ集まって笑い合えるのって、今しかない宝物の時間だよね。だから自分のことで焦りつつも、みんなと一緒に過ごす時間を大切にしたいと思う。私らしさって、たぶんそういう部分なんだろうな。


外に出ると、爽やかな春の日差しが気持ちいい。青空と新しい季節の香りに後押しされるみたいに、私は歩き出す。さあ、今日はどんな一日になるんだろう? みんなと合流して、またあれこれ調整役に回るのかもしれないけど、それでもいい。高校3年の春なんて、一度きりしかないんだから。少しでも多くの思い出を作りながら、自分の道だって探してみせる。


「……よし、ちょっとは楽しもう!」


そうつぶやいて私は駅の方向へと足を速めた。見上げる空は昨日よりも少し高くて、新しい風が吹いているように感じた。クラス替えを目前にして不安もあるけど、今日もみんなと笑顔で過ごせるなら、それが一番の幸せかもしれない。やるべきことはたくさんあっても、私には私なりのスタイルがあるんだから。そう思うと、足取りが軽くなるのをはっきり感じた。

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