第1話「社会人になった2人」
私には彼氏がいる。
今はお互い高校を卒業し、社会人として仕事と単身生活の両立をしているといったところ。
中学の時に鳥羽くんという男の子に出会い、前から好きだったがなかなか気持ちを伝えられずにいた。
でもなんとかバレンタインの日にチョコレートを渡すことに成功し、両思いであることも確認することが出来た。
その時にずっと一緒にいようと話していた頃もあったのだが、高校に進学してから勉強が難しくなり部活も忙しい日々が続く。
私は演劇部に入部し、鳥羽くんは野球部に入部して3年間を過ごす。
鳥羽くんは、一生懸命練習に取り組み逃げる姿勢を全く見せなかった。
そのためなかなかレギュラーこそ掴めない状態が続いたものの監督は、2年の夏の時にグラウンドで鳥羽くんにこう言っていた。
「‥国際聖栄高校は学力も問われるが野球部としてもトップクラスの人達が集まっている。だからどうしても鳥羽くんが試合に出られるチャンスは限られている。でも諦めずにこれからも頑張ってほしい。ピッチャーで球速157キロは十分速いし、コントロールも一級品だ!」
この時鳥羽くんは、頭を下げながら小さな声で監督に返事を返す。
「評価してくださってありがとうございます。ですが僕は他の人みたいにスタミナが足りません。だからもっともっと練習して3年にはレギュラーの座を掴んでみせます。」
そして2年生まで練習試合以外、マウンドに立つことがなかった鳥羽くんだったが、3年の夏の県大会の1回戦からレギュラー入りを掴んだ。
しかし序盤は良かったものの、5回から球威が落ちてしまい、四死球が目立つようになり連打も浴びてしまう。
気づけば奪三振は11個マークしたものの7回6失点でチームは初戦敗退となり、あっけなく最後の夏は終わってしまった。
私はこの試合、現地で応援していて涙が零れ落ちてしまいながらこう思っていた。
『‥結果は残念だったけどよく頑張ったよ。』
鳥羽くんの日々の努力が奇跡を起こし、なんと公式戦に1回しか出場していないのにドラフト会議で育成指名ではあるもののプロ入りが決定したのである。
その一方で私は演劇部で女優になりたい気持ちが芽生え始めていく。




