漂う芳香の中での冒険 五日目
親愛なる我が従弟殿。
今日は僧院中が甘酸っぱい香りに包まれている。
大主教猊下の礼拝の日でもあったのだけれど、多分誰もまともに猊下の説法なんて聞いていなかったんじゃないかな。そのくらい良い香りなんだ。
聞くところによると、厨房でこの秋採れた林檎を煮ているらしい。そういえばこの僧院の敷地には、たくさんの林檎の木が植えられていた。
ラヴィッジでも林檎は収穫されていたし、貯蔵のために煮てもいただろうと思うけれど、この僧院は人が多い上に、貧しい巡礼者に振る舞ったりもするそうだから、とにかく量が違うようだ。恐らく、ここで採れたものだけではなくて、近隣の貴族からの寄進もあるのだろうね。
さて、私は礼拝が終わるなり、従者を捲いてこっそり厨房に向かった。今日は全ての修道僧が大聖堂に集まっていたから、皆が退出していくこのときこそが、人混みに紛れる絶好――と言うより唯一の機会だと思ったんだ。
ここでの私は、他の修道僧と同じように僧服を着て過ごしている。けれどそれで目立たないかと言えば、実はそうでもないんだ。何しろ、私の歳でここにやってくる修道僧はいないので。
私はもう何年も前から領主を務めていたし、両親や傅役の教育の賜物で、大人と遜色なく話したり振る舞ったりできていると思っているのだけど(お陰で同じくらいの年頃の友人ができない)、いかんせん、背格好だけはどうにもならない。
つまり他の誰よりも小さいので、人がまばらだと結局目についてしまう。
だから、猊下主催の大礼拝と厨房の林檎祭りが同じ日であることが、聖者バルサムによってもたらされた好機のように感じて、芳香に導かれるまま厨房に潜入した。すぐに見つかったけれど。
でも私は、大きな鉄鍋から掬ったばかりの、火傷しそうなくらい熱々の林檎の蜂蜜煮をその場で一口分けてもらえたんだ。林檎の甘さも素晴らしいけれど、食べるものがあんなにも熱いということが、私にはとても珍しくて新鮮だった。
その後、追ってきた従者に物凄い剣幕で叱られた。こんなことが知れて、次の冬、貴方を狙う人間があの林檎の鍋に毒を入れたら何人が死ぬと思うのです!? という、確かに洒落にならない説教だった。
そういうわけで、もう二度と同じことはしない。
たった一口のための冒険だったのだけど、私は満足したよ。