親愛なる我が従弟殿へ 一日目
親愛なる我が従弟殿。
……もう、私には君に「親愛なる」などと呼び掛ける資格は無いのかもしれないけれど。
でも、これが私の偽らざる気持ちなので、敢えてそう書くことを赦してほしい。
ここケンプフェリアの僧院に蟄居を命じられて、初めての冬を迎えた。
思えば、ここは君のいるラウウォルフィアの目と鼻の先だ。ということは、ずっと領地のラヴィッジで暮らしていた私は、これまでになく君の近くでこの雪を眺めていることになるんだね。
今私が見上げているのと同じ雲が、君の目にも映っているのかもしれないと思うと、とても不思議な気持ちになる。
というのも公式行事を除けば、これまで私たちが顔を合わせ、言葉を交わした回数は、いったいどれほどだったか。
十回も無かったと思うんだ。
そう考えると、この状況がとても特別なような気がしてしまうのだけれど、君はどうだろう?
会えないのなら、どこにいたって同じだろうか。私が少し感傷的に過ぎるのだろうか。
すぐ隣の都市にいるとはいえ、この手紙がいつ、君の許に届くのかは分からない。
それになにより、君が私の手紙を開いてくれるのかすら、私には分からないけれど。
これからしばらく、君に宛てて手紙を書くことにしたよ。この静かな季節の、ほんの手慰みと思ってくれればいい。
いつか穏やかな心を取り戻した君が、読んでくれることを祈りながら。