12文字
翌日午前中から上の空だった。
12文字……
お昼のチャイムがなった。隣の可南子はいつものように席を寄せてくる。俺は今朝、母さんが作って出て行った、キャラ弁を蓋で隠しながら口に運ぶ。丸いおにぎりに、五角形にカットされた海苔が貼ってあって、サッカーボールを表現している。
「俺はサッカーには興味がないんだけどな」と呟く。相変わらずの器用さに毎回ビックリするが、親バカの度がすぎて他の生徒に見せられない。しばらくは12文字について考えるのは止めて、食事に集中することにした。
可南子と帰宅して、昨日猫五郎さんから教えてもらったサイトに入り、適当に3回パスワードを入力したが、当然全部弾かれてしまった。結局その日も解く事ができなかった。ネット上に何かヒントが落ちてはしないか色々回ってみたのだが、パスワードどころか、このサイトがあることすら知られていない。
お手上げだった。
数日後……、もやもやとしたまま日本史の授業を受けていたときだった。12文字……。考え始めてもう一週間になる。後日、猫五郎さんの話では数字12文字らしいとの話だ。
教壇では、我がクラスの担任でもある末松先生が日本史を熱弁している。日本史の教師というより、彼は日本史マニアだと思っている。たまに教科書に載ってない事もテストに出してくるから要注意だ。
「……そこでだ、1614年11月24日、家康は豊臣に和議を……」
「まだ11時36分か……」
末松先生の声に、隣の可南子の独り言が混じる。その時、俺は天啓に導かれた感覚を覚えた。
「日付だ!」椅子を後ろに蹴飛ばし、立ち上がって思わず叫んでしまった。「あっ! すいませんっ」俺は慌てて椅子を戻して座る。末松先生が、チラリとこっちを見たが、何事も無かったかのように、またすぐ熱く語り始めた。
西暦年月日と時間だ! 時間を入れて12文字だ。可能性はあると確信した。呆れたかのような顔を向ける可南子をよそに、俺は小さく拳を握った。
可南子を置いていくように走って帰宅した俺は、その勢いで2階に上がり、すぐにパソコンを立ち上げた。入力する時間は一体いつなのか、色々と思いを巡らせながら帰宅したが、事前に問題のサイトに書かれた絵がイングランドとフランス王国の軍旗だと下調べがついていたので、そこから可南子から借りている『ガーラ戦記』の舞台を思い出した。俺は机の引き出しから『ガーラ戦記』を取り出して、冒頭に書かれている西暦と日にちをもとに年代をピックアップした。
145204251100
1452年、4月25日、11時、00分。ガーラ戦記では昼前と書いていたので、時間は適当だ。中世ヨーロッパ末期、たしか百年戦争がもう少しで終結する頃になる。
ガーラ戦記では、主人公のランドルフと、友となるウォーレンが出会う序盤の熱い場面だ。
色々なヒントを元に辿り着いたパスワードだ。これで解錠出来なければ、もう詮索するのは諦めようと思っている。俺は一縷の望みを託し、緊張のためか若干震える指でエンターキーを押す。
すると途端に窓の外から光が射してきた。