チャットルーム
『小次郎さんが入室されました』
以前、可南子が教えてくれたチャットルームだ。
他のサイトを循環しながらそのサイトを訪れる仲間を待った。以前は盛況だったらしいが、今は随分と過疎化が進んだチャットルームだ。だが夜の八時に入ってくるメンバーが気に入っていて、だんだんルーティンになってきている。
ちなみに可南子はサイトを教えるだけ教えて、自身は参加していない。相変わらず気ままなやつだ。
『光さんが入室されました』
小――今晩は、光さん
光――やあ、小次郎さん今日はまだ一人?
小――このサイト、すっかり過疎化しちゃいましたね
光――それか、違う時間に盛り上がってるのかもね~
小――光さん、何か良いことあったんですか
光――えっ! なんで?
小――いや、なんだか文字から嬉しさが滲んでいるんですが
光――文字から感情が読めるなんて、さてはプロだな
小――プロって、何の
光――バイト代はたいて、新しいモデルガンを買ったのさ
小――またですか! いくらしたんですか?
光――二万五千円! M93Rっていうガスガンさ。かわいいなぁ、こいつ~~
小――銃を片手にチャットしているんですか? 器用ですね……
銃を抱きしめながらチャットしている十九歳が俺の頭に浮かんだ。
『猫五郎さんが入室されました』
光――おっつー、猫さん
小――お疲れ様です、猫さん
猫――どうも~
小――最近面白いサイト見つけましたか?
猫さんはネットのヘビーユーザーらしく、時折面白いサイトのURLを落としていってくれる。光さんと同じ歳らしい。
猫――丁度不思議なサイトを発見したよ。でもウィルスに感染しても知らないよー
小――不思議なサイトですか、ちょっと怖いですね……
光――俺は新しい銃の試し打ちに励みますので、この辺で落ちま~す
小――お疲れさまでした
猫――乙~
『光さんが退室されました』
小――僕も猫さんのサイトを見てきますんで
猫――乙~
『小次郎さんが退室されました』
俺は、先程『猫五郎』さんから教えてもらったサイトに飛んでみた。プロバイダーの資料には一応堅牢なウィルス対策はしているつもりらしいので、大丈夫だろう。ネット初心者の俺は、ハイパーリンクが貼ってあるそのURLを、何気なくクリックした。そのサイトは、ある画像の下に入力フォーム、エンターキーとキャンセルキーが置かれたシンプルなものだった。その画像はある二つの旗がせめぎあっている様に見えた。
そして入力フォームは半角英数で12文字の制限。当然何を入力したら良いのか分からない。色々と数字や文字を打ち込んで見たものの、全く解錠しない。
当たり前だ。そんな簡単に開錠できたらパスワードの意味がない。3回連続でパスワードを間違えると、その日は入力出来なくなった。結局その日はそのサイトをブックマークして、後はガーラ戦記の続きを読みながら寝落ちしてしまった。