アリシアとの日常
行き場を失った俺は辺りを見渡した。そばには骨喰藤四郎が無造作に置いてある。豊国神社に置いてあるはずの一振りが、なぜここに置いてあるのか分からなかったが、腰に鞘も佩いていたので、拾い上げて納刀した。そしてアリシアの手を握り、胸からカードキーを出して自室に戻った。
部屋に入った途端、窓から月明りが漏れる。俺はアリシアの手を放して、慌ててパソコンに向かい、マウスを動かした。
「消えてる……」
『どうしたの? トウシロウ』
例のサイトとチャットルームは閉鎖されていた。その瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。母さんが帰ってきたのだろうか。
「開いてるよ」と声をかけると、ノブを回して入ってきたのは、私服――というか現代の服を着た可南子だった。「可南子!」
「戻ったようね、お二人さん」
可南子がそう言うと、アリシアは俺の手を握って背後に回り、問う。
『聞きたかったけど、誰なの? この人』
『この人は……、タイムマシンを作って、俺とアリシアを引き合わせた人だよ。話をきいていると、どうやら俺とアリシアの子孫みたいだ』
『タイムマシン? 子孫?』
アリシアの世界では、まだタイムマシンという概念すらないのだろう。
『時空を飛び越えて、未来や過去に行ける機械だよ』
『時空? 機械?』
『それは後で教える。だけどこの人、可南子は、恋人でも何でもないよ』
『そう……』
少しずつ俺の手を握るアリシアの力が緩んでいく。警戒心が薄れてきたのだろう。
「仲が良くて、なによりよ。お二人さん。家族会議で決まった、これからのことについて話すわね」
アリシアはしばらく俺の家で、留学生として暮らすこととなった。ビリンガムでのアリシアはAE(人工存在)搭載のアンドロイドが代わりを務め、本物のアリシアの国籍や必要書類などの細かい手続きは、可南子が裏で色々と手回ししたらしい。恐るべし未来人。
ところでそのアリシアは美少女留学生として、クラスは騒然となった。男子からは歓待を受け、女子は男子の異様な盛り上がりに憐憫や怒りを隠せなかったが、アリシアが自己紹介の時、片言の日本語で「俺と婚約している」と言ったせいで、クラスメイトの目は、俺と可南子、アリシアの3人に注がれた。針の莚だ……。
しばらくは、言葉の通じる俺が隣にいることになった。クラスの男子のうらやむオーラがひしひしと伝わってくる。席は可南子とアリシアに挟まれた格好だ。アリシアは今だ可南子のことを信用していないようだ。可南子が俺の事を好きなんじゃないかと疑っている。
当然お昼も机をくっつけて食事をとることになる。女の子二人に挟まれて、話題の振りように困った。
「トウシロウ、あーんってして」アリシアの日本語は日々流暢になっていく。
弁当は母さんが作ったものなので、弁当の内容は一緒なんだが、アリシアがタコさんウィンナーをフォークで刺して、しきりに言ってくる。どこの間違った本を読んだのだろう。ひょっとして、母さんの入れ知恵かもしれない。
俺は周囲の男子が放つ、うらやむ視線を充分に受けながら、アリシアのタコさんウィンナーを口に入れた。
「どう!? 美味しい?」
「う、うん、俺の弁当のウィンナーより美味しいよ」物は同じなんだけど。
その時、ロッカーを内部からコンコンと叩く音が聞こえた。
「ねぇ、藤四郎君、開けてよ。一緒にご飯食べようよ。ねぇ藤四郎君」
黒木だ。俺は登校時、クラスの担任からロッカーのカギを借りて、あらかじめカギをかけていた。
「俺は剣道部に復帰したんだから、もう関係ないだろ。自分のクラスで食え」
「やだ! 俺も美少女に囲まれてお昼を食べたい! 友達じゃないか!! あと、開けてぇ、トイレ~」
その懇願するような声に、アリシアと可南子がクスリと笑った。
最後まで読んで下さった皆さん、ありがとうございます!
次回作は、一週間ほどお休みして、ライトノベル風な長編を一本、投稿したいと思ってます。
それではまた~。




