もう一つのタイムマシン
『やったわ、これで私の家族も……』そのくすんだ金髪の女性、セリナ・ジェイスは安堵のため息を吐きながら、胸を押さえた。『それにしても、まさかほぼ同時にタイムマシンを開発した人がいたなんて』
アリシアは両手で顔を押さえ、力なくその場に腰を落とした。
『申し訳ありません、お嬢様。あまりにも相手が強かったため、手加減が出来ませんでした。ただ肉を斬った感覚は……』そう言いながらローランドは剣を置いて片膝をつき、平身低頭した。
俺の意識は、なぜだかはっきりしていた。以前ローランドが城の五階で、アリシアにひざまづいていた姿をイメージしていた。ひざまづいている間、ローランドはアリシアの目を見ることがなかった。そしてローランドが片膝をついた音を聞いた瞬間、痛みを置き去りにして、素早く立ち上がる。その好機を逃さない。傍に置いていた竹刀袋を手に取り、ひざまづいているローランドに一瞬で肉薄する。そして何万回も振り続けた瞬速の面を竹刀袋に入れたままの竹刀で放った。常人の目に留まらないはずの、その竹刀の太刀筋は、短剣での防御が間に合わないローランドの頭に、会心の当たりを与えた。短剣を弾かれ驚きの表情のまま白目を剥いたローランドは、そのまま崩れるように昏倒した。
俺は残心しながら見下ろす。
気絶しているローランドを確認して、自分の胸ポケットを覗き込むと、傷一つない淡く光るカードキーが入っていた。
このカードキーのおかげで助かったのか……。
『トウシロウ!!』
へたり込んでいたアリシアが、俺の首筋に飛びかかってきた。
その瞬間、セリナ・ジェイスとローランドの姿が消えた。ここにいる全員の記憶ともども。
可南子の首元から信号音が鳴った。可南子は首元に手をやり、中空を見つめる。
「どういうことだ可南子。ここはいったいどこなんだ?」俺は自分が置かれた状況が、のみ込めなかった。
「ちょっと待って」可南子は、左手のひらで俺の質問を制した。そして何度か頷いて悲しげな表情を見せた。「……そう、そういうことだったのね」スタイルが分かりやすそうな、ボディスーツに身を包んだ可南子は、呆然としていた俺の顔を見ると、ようやく頬を緩めた。
「話せる範囲で答えてあげる。まずはチャットルームに出没していたのも、ガーラ戦記でイギリスへ誘導したのも私」
「ガーラ戦記は分かっている。なぜ俺を中世イギリスに行くよう仕向けたんだ?」
可南子はアリシアを指差した。「貴方はそのアリシアさんと結婚しなくてはいけないの」
「……、はぁ!?」俺は頓狂な声を出してしまった。「俺がアリシアと結婚しないと、未来にとって都合が悪いのか!?」
「そう。お父さんが発明したタイムマシンは、完成した瞬間から過去や現在、未来が不安定になったの。今まですべての物が確実に存在していた過去と現在、未来が、確率という形で存在するようになったの。だから私は自分が存在する確率を100%に近づけるため、AIが算出し起点となった2015年で、あなたにアリシアさんをあてがったってわけ」
「そういうことをしたら、歴史が変わってしまうだろう。俺とアリシアが出会うことで……」
「いいえ。そのままアリシアさんがあなたと結婚してくれると、私と父さんは確実にタイムマシンを開発するわ。それが今の時代……、私たちの時代なんだけど、ほとんど影響を及ぼさない最良のシナリオだったのよ。ただ、藤四郎とアリシアさんを自然とくっつけることに苦労したわ。でもその影響を受けた家系が別に存在していたようね。私のコンピュータが教えてくれたわ」
俺は可南子の言葉が少しずつ分かってきた。「いくつか聞きたい」
「何? 話せる範囲でね」




