舞
そう言ってローランドは、言下に二剣で急所である喉と心臓を突きで狙う。彼の突きは、時々剣道場で相手する大学生や社会人のそれと比べると若干遅い。やはりそれだけ剣や鎧が重いのだろう。だが彼の体格からすると、それを補って余りあるコンビネーションと力がある。
俺は身体を斜に構え、左に逃げた。その動きだけで、ローランドの目はさらに炯炯としてきた。口角も上がり、楽しくてたまらないといった様相だ。戦闘狂と呼ぶにふさわしい気を放っている。
俺を突きそこなったローランドの二剣は、左に逃げた俺の首と脇腹を狙って薙いだ。俺は刀を盾にした。二剣と刀がせめぎ合う。彼は首を狙っていた剣を緩め、上段から俺の頭を狙った。俺は飛びすさんで、ギリギリのところでかわす。重装備だが、彼の動きは「剣術」というか、「舞」だ。上下左右あらゆる方向から、フェイントを交えながら剣が確実に急所を狙ってくる、変幻自在の剣筋。その太刀筋を見切るために今のところ防戦一方だった。まだ隙が見つからない。周りが森の中ということもあって、コンビネーションの幅は向こうも狭められている。
『ふふ……、ふはは、面白いな! 本気の私の剣をここまで簡単にいなす奴は、ほとんどいなかったぞ!』
『狂っている……』二剣を寸でのところでかわす俺の口から漏れる。少しずつ回転が速くなってきたローランドの剣捌きに、俺は反撃のタイミングをつかめず、ジリ貧だった。
やばい……。心の中で呟く。
ローランドは兜をかぶっていない。その代わり重厚な鎧を着ている。あの鎧を、はたしてこの刀が貫けることが出来るかどうか確証はない。さすがに首を切り落とす覚悟は無い。頭に竹刀を打ち込めば気絶させることが充分可能だろうが、背中に背負った竹刀袋から竹刀を取り出す間がない。
汗もかかずに、ローランドはひたすら喜々と二剣を振るっている。スタミナは十二分にありそうだ。大汗かいている俺とは大違いだった。しばらく剣道から身を引いていたのが仇となっている。ローランドとの剣戟に、じりじりと押されていた。
『やめなさい! ローランド!!』アリシアの叫びも届かない。
その時、背後から光さんの声が聞こえた。「小太郎君、目を閉じろ! 閃光弾だ!」
突然のその声にローランドの動きが止まり、反応した俺はローランドから距離を置く。
俺はローランドに背を向け、アリシアめがけて走り出した。そしてアリシアを抱きかかえると、背後から強烈な光が森を照らす。
「ありがとうございます!」と言い残して、俺はアリシアを抱きかかえたまま森を駈け下りる。自室前にたどり着くとアリシアを下ろし、急いで胸ポケットからカードキーを取り出し、アリシアの手を引っ張って自室へと駆け込んだ。
「……逃げきれた」
疲れ切った俺は、安堵の溜息を漏らしながら、土足で自室にあがった。




