アリシアの翳
『小次郎さんが入室されました』
その夜、久しぶりにチャットルームに入った。
光――おひさー小次郎君
猫――おひさー
小――いやぁ、おひさです光さん、猫さん。すいません、しばらく空けちゃって
光――何していたの? 一ヶ月ぶりぐらいじゃん
小――猫さんのサイトに入り浸ってました
猫――俺の言っていたサイト? 怪しいと言っていた
小――ええ、そこで知り合った女の子と毎晩話していますよ。昨日は彼女の家に泊まってきました
光――なにーー!!!!!! 出会い系だったのか! しかも泊まったって、俺より先に大人の階段を登っちまったのかよ! ちょっと行ってくる!!
「!」が多い……。ちょっとニュアンスが違ったが、俺の言っていることに間違いはないはず……。
猫――えっ、出会い系だったの?
小――いえ、話すると長くなるのですが
俺はサイトの使い方をかいつまんで話した。
光――うーん、信じられない……
猫――へぇ~、よく年月日を入れることに気付いたよね
光――いや猫五郎さん、びっくりするところはそこではなくて!
小――誰がどういった目的でタイムマシンを創ったか、ですよ猫さん。そう、いわゆるタイムマシンらしき物を
光――とりあえず俺も行ってみますね! すいません猫さん、またリンク貼ってください
猫――あいあーい
小――光さん嬉そうですね
猫――俺もちょっと行ってみようかな、そいじゃまた
小――はい、また~
『猫五郎さんが退室されました』
『光さんが退室されました』
『小次郎さんが退室されました』
『トウシロウ、ところで今度はどこに行くの?』
アリシアは、いつもの泉の前で待っていた。昨日、挨拶もなしに城から立ち去ったので、若干機嫌が悪いようだ。
『とりあえず決めてないよ。まだ言葉に困っているからね。もうちょっとスムーズに会話できるようになって、ここを発とうと考えている。……ところで突然なんだけど』俺は意を決して訪ねてみた。『アリシアは婚約者とかいないの?』彼氏は、いないという事は察していたが、急にアリシアの顔に影が差した。
『ううん、いないよ。でもいまは恋人とか作れないの。相手はもう決まっているだろうから』
彼女は俯きながら言った。若干語尾が震えている。
会話が止まった。俺は明らかに彼女に恋をしている。だがアリシアには決まった人がいるという。この止まった空気をほぐすため、俺は無理矢理、言葉を口から紡ぎ出そうとしたが出てこない。
『しきたりだから恋愛すらできないの』
『しきたり……』
なんだよそれ。しきたりって。という言葉が出かかったが俺はそれを飲み込んだ。ここは俺の時代ではなく、アリシアの時代なんだ。俺が未来のことを気軽に話さないのと同じように、口を出してはいけない時代なんだ。
『今日ももうお別れの時間だね。トウシロウ、ありがとう。今まで色々と面白かった』そう言って俺の手を強く握ってきた。
『あ、あはは、なんだかもう会えないみたいな言い方だね』引きつった笑みを浮かべながら、俺は頬を掻きつつ言った。だが、アリシアからは返事が無かった。そのままアリシアは話す事無く、いつもの別れの場所で、アリシアはいつもより長く手を振って帰っていった。




