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02 やはり追放か


~リューティス王国・レオハート家~


 洗礼の儀から5年後。


「──遂にスキル覚醒が起こらなかったか。グリムよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい父さんッ!」


 今日で俺、グリム・レオハートは10歳になった。

 5年前に与えられたスキル『片手剣』が覚醒する事がないままに、今日という日を迎えてしまった。


「このレオハート家に生まれながらまさかスキル覚醒が起こらないとはな。由緒あるレオハート家が始まって以来最大の汚点だ。家にも私の顔にも泥を塗りおって。クズが」

「ハハハハッ! “兄さん”マジで覚醒しないとか才能なさ過ぎでしょ! 僕なんて6歳で覚醒してもう騎士団に入っているのにさ」

「くッ……!」


 本来なら、誕生日って1番特別な日だよな?


 でも俺は今日という日を迎えたくなかった。まだスキルが覚醒していなかったから。直前まで大丈夫だと自分に言い聞かせていたが、それも呆気なく終わった。


 淡く抱いていた希望すらも消え去った今、父さんも母さんも俺の事をまるでゴミでも見るかの如く見下していた。弟も俺を馬鹿にして笑っている。


 仕方がない……。


 スキル覚醒が出来なかったのは無能である自分のせい。由緒あるレオハート家の者である上に、騎士団大団長を務める父さんの息子にも関わらず俺はスキルを覚醒する事が出来なかったのだから。


 そしてそんな俺より2つ年下の弟は既にスキル覚醒しているどころか、もう騎士団に入団している。最早天と地以上の差――。


「貴様は我が一族の最大の恥だグリム。スキル覚醒も出来ない様な無能な落ちこぼれはいらん。即刻このレオハート家から出ていけッ!」

「そ、そんなッ! 待って下さい父さん……!」

「こんな無様な人間の弟なんて僕も恥ずかしいよ」

「王国では既に貴方は笑い者になっています。覚醒すればそれも一気に拭えましたが無理でしたね。レオハート家どころかリューティス王国の恥も曝したのよ貴方は」

「直ちに私から国王へ伝え、このゴミを処分してもらう」

「ま、待って、止めて下さい父さんッ……! 母さんもッ!」



 こうして、家族からも王国からも追放された俺は、誰も寄り付かない辺境の森へと飛ばされた――。

 


♢♦♢


~辺境の森・エデン~



 何で?


 何でこうなったんだ?


 何時から狂い出してしまったんだ俺の人生は……?


 洗礼の儀を行ったあの日、念願の剣のスキルを手に入れた俺はかなり努力した。勿論レオハート家や父さんの顔に泥を塗らない為に。そしてそれ以上に、自分も誇り高い騎士団大団長にとても憧れていたからだ。


 俺は毎日訓練を積んだ。

 父さんと同じ騎士団員の人達に毎日稽古をつけてもらって。


 時には父さんが俺に剣を教えてくれるという事もあった。


 始めのうちは父さん直々の稽古は少なかったが、6歳、7歳、8歳……と、歳を取るごとに父さんの稽古がいつの間にか増えていた。恐らく、俺のスキル覚醒が中々起こらなかったからだろう。


 スキル覚醒が起こる期間はスキルを与えられた5歳から10歳までの丁度5年間。憧れで目標でもある父さんとの稽古は想像以上に厳しかったが、それと同時に嬉しさもあった。


 だがそれも初めのうちだけ。


 俺が9歳になったぐらいの頃、気が付けば稽古は毎日父さんになっていた――。


 日に日に父さんが俺を見る目がとてもキツく冷酷なものに変わっていたのが子供ながらに分かった。俺もスキル覚醒をさせようと懸命に頑張っていた。騎士団大団長になるべく、そして憧れの父さんに少しでも近づく為に。


「ゔッ、ゔゔッ……!」


 畜生畜生畜生。

 情けなくて涙が出てくる。


 どんなに辛くて苦しい訓練でさえ涙など流したことはない。家族にも王国にも見放され、こんな辺境の森へ飛ばされた事も確かにそうだが、何よりも自分の不甲斐なさに心底腹が立つ。


「ゔゔッ! くそぉッ!」


 右も左もさることながら、この土地自体が何処に存在しているのかも分からない辺境の森。追放される際、家族と国王からせめてもの譲歩だと命だけは守られた。父さんにも騎士団にも王国にも泥を塗った俺は、本来であれば即刻死刑でも可笑しくなかったとの事。


 知らないよそんなの。何だこのいらない気遣いは。どうせなら潔く殺してくれれば良かったのに。


『グルルルッ!』

「……⁉」


 世の中は残酷だ。


 何処からどう見ても絶望にいる俺に対して、気持ちを切り替える時間どころか一息入れる間もなく絶望を被せてくるとは。


「ゔッ、ぢくじょうッ! 人が泣いてるにも関わらず“スカルウルフ”まで俺を」


 狼の姿をした骨のみのスカルウルフ。俺でも勝てるランクの低い下級モンスターだけど、流石に“この数”はマズい。


『グルル!』

「1、2、3、4……。全部で9体も」

『ガルルッ!』


 モンスターに待ったなし。

 スカルウルフは俺目掛けて飛び掛かってきた。


 ――ザシュン!

 俺は持っていた剣でスカルウルフを斬った。


「まず1体。でもこれを全部相手にするのは無理だ」


 今ので残り8。くそぉ。動き回りながら確実に1体ずつ倒すしかない。幸いここは森。周りには大量の木がある。それを上手く利用して身を守りながら戦うんだ。


『『ガルルルッ!』』


♢♦♢


「ハァ、ハァ、ハァ……!」


 どれだけ時間が経った?


 数分? それとも数時間? ずっと神経を集中させているから分からない。だけど、何とか6体も倒せた。残りは3か。


 こっちはしっかり姿を捉えているが、向こうは完全に俺を見失っている。このまま木に身を隠しながらもう少し近づこう。そして確実に1体ずつ仕留めッ……『――グルルルッ!』


「なッ⁉」


 ――ガキィン!

 視界に捉えていた3体のスカルウルフではない、背後から現れた新たな1体。完全に不意を突かれた俺は、飛び掛かってきたスカルウルフの鋭い牙を何とか剣で防いだ。


「ぐッ、危なかった!」

『ガルルッ!』


 これはかなりピンチ。

 仰向けに倒れる体勢の俺にスカルウルフが飛び乗っている状態。どうにかこの状況を立て直したいけど、今ので向こうにいたスカルウルフ3体が俺に気付きもうこっちに向かってきている――!


「くっそ! 早くどけッ!」


 俺は倒れた体勢からスカルウルフの腹を思い切り蹴飛ばし、一瞬の隙をついて体勢を立て直したが、既にこっちに向かっていた1体のスカルウルフの噛み付きが俺の腕を捉えた。


「ぐあッ⁉」


 ――カラン、カラァン……!

 だがしかし、反射的に身を躱したお陰で、鋭い歯が掠めて多少傷を負ったものの、腕を食い千切られたかもしれないと言う最悪のシナリオは回避する事が出来た。


『グルルル!』

「ま、まずい、兎に角距離を取らないと」


 俺は直ぐにその場から走り出した。攻撃を受けた弾みで剣を落としてしまった。でも取り敢えず拾うのは後。先ずは何より身を守らないと。 


 全力で走った俺は何とかまた奴らを撒く事に成功した。けど全く安心は出来ない。上手く身を隠しているがまだ直ぐ近くにスカルウルフ達がいるし、今は剣も持っていない。


 畜生。


 せめて剣が……何か武器があれば戦えるのに。


 俺は無意識のうちに辺りを見渡していた。剣の代わりになる様な物が無いかと。


 だが現実はそんなに甘くない。そう都合よく武器など落ちている筈がッ……『――パキ!』


 しまった。


『――!』


 何処までもツイてない。不運にも、踏んでしまった小さな木の枝の音によってバレてしまった。


「くっそ、何でこうなるんだよッ!」

『ガルルルッ!』


 自分の運の無さに嫌気が差しながらも、俺は再び全力で走った。


 さっき負った腕の傷がズキズキと痛む。ずっと気を張っていたから疲れも出てきた。呼吸するのも苦しいし、体も重くなってきた。何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?スカルウルフにも追いつかれそう。このままじゃ逃げ切れない。


 あー。最後は呆気なかったな俺の人生。まだ10歳なのにさ。


 急に全てがどうでもよくなった俺はそのまま走るのを止め、後ろへと振り返った。


 もういいや。疲れた。


「……っておいおい。なにこれ?」

『『グルルル』』


 諦めて振り返った俺の視界には、いつの間にか数十体を超えるスカルウルフの群れが集まっていた。


「ハハ、何だよこれ。思わず笑っちゃった」


 ここまでくると本当に笑える。良かったなぁ。こんな事だけど最後に笑う事が出来て。もう後は好きな様にッ……『――カラン!』


 



ん……?



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