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85 勝負の行方は唐突に

♢♦♢


「ユリマぁぁぁ!」


 ユリマが磔にされている十字の台までもう少し。

 距離自体は大して無いのに、次から次へと押し寄せて来る団員達の群れのせいで中々前に進まない。海の中を泳いでいるみたいだ。


「たかが1人の人間に何を手こずっている! 早く仕留めろ!」

「「うおぉぉぉ!!」」


 1人1人はまるで強くないけど如何せん数が多過ぎる。フーリン達の方からは凄い波動を感じるし、いつの間にかエミリアの方まで敵の騎馬隊が向かって行くのが見えた。皆の事も気掛かりだが、何よりも先ずはユリマを助け出す事。


「魔法隊放てぇぇ!」

「……⁉」


 そんな事を思っていたのも束の間。ユリマの無事を確認する為に一瞬視線を動かしただけなのに、戻したら視界の端で魔法隊が既に攻撃魔法を発動させていた。


 ――ズドン! ズドン! ズドン!

「ちッ、小賢しいな」


 無数に飛んでくる魔法攻撃。全てを躱し切ったと思ったら今度は騎士隊が突っ込んで来る。ずっとこの連携攻撃を俺は繰り返されていた。分かっているのにやはり数が多くて埒が明かない。このままでは体力を消耗するだけだと判断した俺は、少し無謀ながらも一気にユリマの元まで跳ぶ事を選んだ。


 ここからなら2回も跳べばイケる。空中でこの数に狙われるのはかなりヤバいけど、そんな事言ってる場合じゃない。ユリマだってまだ無事か分からないんだから。


 改めて決意を固めた俺は剣を思い切り振るって周囲の敵を薙ぎ払うと、僅かに生じた隙を突いて思い切りジャンプした。


「対象が跳んだぞ! 狙い撃てぇ!」


 指揮を取る者の声が響いたが、俺の突然の行動と言う事もあり運良く敵の初動がワンテンポ遅れた。既に俺は着地寸前。着地点は何処も敵で埋め尽くされ、跳んできた俺をそのまま串刺しにしようと団員達が武器を掲げて狙って来たが、俺は再び剣を振るって敵を吹き飛ばし着地した。


「よし。かなり近づいた。後1回でイケるぞ」

『多少無茶な判断だが結果オーライだろう。このまま助け出せそうだ。それよりも、やはりあの者から只ならぬ魔力を感じるな――』


 ドラドムートが不意にそう言葉を漏らす。俺の視線も自然と奴の方へ。


「ああ。ここに来てアイツを見た時から俺も感じていた。しかもその力がどんどんデカくなっている」


 俺の視線は他ならぬヴィルを捉え、奴から溢れ出る底知れない不気味な気配を嫌と言う程感じ取っていた。


『アレは間違いなく深淵神アビスの魔力であろう。直に見るまで俄に信じ難い事であったが、どうやら主の弟であるあのヴィルとか言う少年は確かにアビスの力を持っている様だ』

「やっぱそうなのか。でも取り敢えず今はユリマだ。次でアイツの所まで一気に行く」


 俺は再び跳ぶ為、向かってくる団員達を一掃した。そこから生まれた隙を突いて思い切り大地を蹴った俺は一直線にユリマの元までジャンプした。


「ユリマぁぁぁ!」


 ――ズガァァァン! ズドォォォン!

 宙に跳び上がった直後、おれの背後の方から大きな音が2つ同時に響いて来た。


「エミリア、フーリン」


 その凄まじい音が聞こえたのはエミリアとフーリンがいた所から。2人がどれだけの激戦を繰り広げたか勿論分からなかったが、巻き上がる粉塵の間から俺は見慣れないフーリン? らしき天槍ゲインヴォルグを持った紅色の人影と、地面に倒れる七聖天のジャンヌの姿をこの目で捉えた。


 どうやらフーリンがジャンヌを倒した様だ。


 そう悟った俺は次にエミリアの方へと視線を移すと、そこには神々しい魔力を纏いながら杖を前方に構えていたエミリアの姿と、そのエミリアの周りに倒れる数十人の団員達の姿を確認出来た。倒れる団員達の最も奥ではもう1人の七聖天、デイアナがエミリアと対峙する様に銀色の弓を構えていたが、俺がエミリア達を見た数秒後にデイアナはゆっくりと膝から地面に崩れ落ちていってしまった。


 直後、空中にいる俺に気付いたであろうエミリアは俺に向かって手を振ってきた。どうやらエミリアもデイアナを倒したみたいだ。


「放てぇぇぇッ!」

「やべ……⁉」


 完全にエミリアとフーリンに気を取られていた俺は、突如下から聞こえてきた声で我に返った。最初と違い、予め俺がまた跳ぶ事を想定していたであろう魔法隊が今度は完璧のタイミングで魔法を撃ち込んできた。案の定空中では躱す事が出来ない俺は、手にする双樹剣セフィロトを勢いよく振るって飛んでくる魔法を吹き飛ばした。


「やっぱり狙われたか」

『まだ来るぞグリム』


 俺は体勢を保つのが難しい空中で何とか魔法攻撃を掻い潜り、遂にユリマが磔にされている十字が乗る台を視界に捉えた。後はあそこに着地するだけ。そう思い俺は飛んでくる攻撃を払いのけながらやっとの思いでユリマの元へ辿り着いッ……「来るのが遅いよ兄さん――」


「なッ……⁉」


 ――ガキィィィン!

 台に着地する刹那、死角から突如現れたヴィルの一振りによって、俺は勢いよくぶっ飛ばされた。


「くっそ、何処から現れやがった……」


 間一髪剣で受け止められたけどお陰でユリマとまた距離が出来ちゃったじゃねぇかよヴィル。くそ。


「ハハハハ。よく反応出来たじゃない。幾らなんでも今ので死んだら興醒めだからね。それにコイツは1度俺の邪魔をしてる。簡単に兄さんに取られる訳にはいかないよ。兄さんを殺した後でコイツも切り刻む予定なんだからね」


 そう言いながら不敵な笑みで俺を見るヴィルからはとてつもない程強大な力を感じた。


「そんな事させる訳ないだろ。そもそも何勝手に俺に勝つ気でいるんだよお前は。弟のくせに図々しいぞ」

「ハッハッハッハッ! 何それ、笑えるんだけど兄さん。逆に何で自分が負けないと思っているんだよ。兄だからって傲慢だよそれは」

「何でお前が深淵神アビスと繋がっている?」

「繋がっているという表現はちょっと違うかな。正確には俺がアビス様であり、アビス様が俺なんだよ。

スキル覚醒したあの日、俺はあの日からアビス様の“声”が聞こえる様になったんだ。もっともっと力を手にしろと。そうすれば俺の思い描く世界になるからとアビス様が教えてくれたんだ――」


 スキル覚醒した日だって……? まさかそんな昔から既にアビスが……。

 

 思い出話を語る様に喋るヴィルからは悍ましい力がひしひしと伝わってくる。これが間違いなく深淵神アビスの存在なのだろう。まだ気配しか感じないのにとてつもなく強力な力を感じる。


「世界が滅びる事がお前の望みなのか、ヴィル」

「ううん。世界なんて別にどうなろうが興味ないよ。ただ俺は誰よりも強い力を手にしてそれを証明したいだけ。でも皆俺が思っていた以上に弱くて無力な奴ばかりだったんだよね。リューティス王国で最強と謳われたあの父さんでさえも。クソみたいな世界だよここは。本当に詰まらない。


だからさ、俺は思い描いたんだよね。こんな詰まらない世界は1度壊してしまおうと。


それはそれでシンプルに面白そうだと思ったし、何よりアビス様もこの世界を手にしたいとずっと思っていたから協力する事にした。

もうこの世界での最後の楽しみは、兄さんを殺す事だけだよ――!」


 次の瞬間、ヴィルは強大な超波動をその体から溢れ出させた。


「こ、この波動は……!」

『間違いない。この力はアビスのものだ。奴が復活するのはもう目前であるぞグリム』

「ハッーハッハッハッ! せいぜい楽しませてよね兄さん!」


 ――ガキィン!

「「……⁉」」


 殺意を溢れ出したヴィルが俺目掛けて動き出したと同時、突如ユリマが磔にされていた十字が破壊され、そのまま瞬時に何者かがユリマを抱きかかえて去って行った――。

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