塾の闇
「なんか夢、将来なりたいものはないのかい?」
受験生、中学3年生たちに聞いておきながら、
自分で言ってて嫌になる。
俺の子どものころの夢。
プロ野球選手。中学生の頃は甲子園。
だが今はどうだ。
子どもに夢を聞いている俺自身、すでに夢に敗れているのだ。
33歳、中堅学習塾勤務。
まぁいい。
今はそんな世の中の大半の人間が味わうような
町中に掃き捨てられている安っぽい感傷に浸っている場合ではない。
毎年のお決まりのセリフを生徒言う。
「夢はないのか?夢を叶えるためには努力だ。
夢がないなら何にでもなれる準備、つまり努力が必要だ。
俺が君らに与えられる努力は勉強だ。それだけ自信がある。さぁ、夏期講習全力でがんばろう」
よし、決まった。
これでこいつらは夏期講習で一番高いプランを取るよう
親に「お願い」してくるだろう。
子どもに「お願い」されて、断れる親がどれだけいるだろうか。
これで少しは夏のボーナスに期待できるかな。
33歳、独身、中堅学習塾勤務、錦木聡
今日も心に塾の闇を抱く。