第六話 まさかの戦い
一日一回の投稿をマストとしていますが、複数話の投稿も目指してみます。
俺は、自分は他人より怒らない人だと思っている。
基本的に誰かに腹を立てることがないし、それは今朝のことだって例外じゃない。ユウたちにも、流石に思うところがないわけではないが、怒りなんて大層なものは沸いていなかったというのが本音だ。
だが、そんな俺にも、許せない奴がいる。
それが、『実の父親』と『至福のデザートの時間を邪魔した奴』である。
こともあろうことか果物の甘さとは別ベクトルの甘さは本当に久し振りだったのに、それを、この野郎――――
「だぁってろ! ガキが、すっこんでろ! 潰すぞ!」
酔いと怒りで語彙力が残念なことになっている男は、俺のことをガキとしか呼ばない。どうやら俺の正体に気付いていないようだ。酔っていて判断が鈍っているのか、それとも元から知らないのか。
「やってみろ。お前の溶けた脳みたいに体もクリーム状にしてやる」
パフェの喪失感で、自分も語彙力がアレなことになっているが、気にしないでおこう。
さて、俺としてはこのまま暴れてボコボコにしてもよいのだが、今朝のエルフ狩りとは状況が違う。
男が好き放題にやって霞んではいるが、俺の動機は正当防衛ではない。あくまで私憤である。このまま相手を殴り蹴りしたら、流石に俺が悪人となる。ことに俺は、元とはいえ勇者パーティーの一員とか言う『the・人類の味方』みたいな立場もある。
それに、店の被害も考えなきゃいけない。どうしたものか……
「表に出やがれ! 俺の剣でズタズタにしてやる!」
おいおいおい、全部解決しそうじゃね?
●
そうして店の前で向かい合う俺と酔った男。『賑やか島』の常連や、通りすがりの野次馬が見物人として集まっていた。
男は俺を見てバカにするような笑みを浮かべながら、どこから取り出したのか、何やら禍々しい剣を鞘から抜く――――ちょっと待て、本当にどこから取り出した?
「俺が勝ったらお前とあの娘、合わせて20万ゴルダを払え。ついでに、そうだな。二人は1日、全裸で俺に付き従って貰おうか」
「えぇ……」
一切脈絡もないクズっぷりを見せる、正直俺が思っていたよりも頭のネジが外れていた男。周囲の目とか気にしないのだろうか。絶対コイツ何らかの前科あるだろ。ドン引きしたお陰で怒りが治まって冷静になってきたわ。
そもそも俺の正体に気付いていないのなら、幼女に決闘まがいみたいなことを吹っ掛けてることになるんだが。情けなくね?
「え、じゃあ、まあ、俺が勝ったら……カリファ、どうする? 100万ゴルダくらい請求しとく?」
「いや、いいよ!? こっちも困るよ!?」
見物人の中に紛れているカリファに目を向け、聞いてみる。
そうか? 俺の中では割とガチで逮捕すべきなレベルの危険人物なんだけど。ぶつかった程度のことを発端にして、よくここまで話をデカくできるな。
そもそも店を出るときに顔を知っているくらいの常連仲間に聞いたのだが、すれ違い様に男を避けようとしたカリファに、わざとぶつかっていたらしい。それであの横柄な態度か。ちょっとセコすぎない?
「まあいいや。じゃあ、俺が勝ったらお前が食った飯の支払い、あと皿やら料理やらの弁償。そんでカリファに土下座して謝れ……ちゃんと覚えられた?」
「良いだろう。『ガーバイド街の剣豪 ヴォネッド』に喧嘩を売ったこと、後悔させてやるぁ!」
何だろう、実はコイツめっちゃ面白い奴なのかな?
そうして男――――ヴォネッドは剣を構える。1日でこんなことが二度も起こることなんて、そうそうないだろう。
自惚れでもなんでもなく、誠に遺憾ながら俺は人類最強クラスの実力を持っていると自負している。ガーバイド街の剣豪だか知らないが、見た目の威圧感以外は負けない。
「ヒャハハハハハ! 死ねァ!」
そうしてヴォネッドは――――俺の想像していた十倍の速度で突撃してきた。
「ぬぅん……!?」
虚を突かれた――――有り体に言えば油断していた俺は、反射的に体を捻ることで、ギリギリで剣を回避する。
しかしヴォネッドの剣技は止まらない。休む間もなく第二、第三、第四の剣撃が俺を襲う。
「あ、ぶ、ねぇ!」
思わぬ事態に気圧されながらも、回避、そして回避、最後の振り下ろしに対して、真剣白羽取りのように両手で剣の腹を挟み込む。両手が少し痺れる程には力のある振り下ろしだ。
柄にもなくそこそこの力を入れたが、今朝は指先で破壊された剣と違うのか、禍々しい剣身にはヒビも入っていない。
迂闊だった。言うこと為すことの小物感から、不覚にも力量を見誤っていた。
思っていた数十倍は強い。少なくとも、今朝のエルフ狩りの四人組など相手にならない程度には。
「『黒雲よ、天の怒りよ、眼下を芥へと還せ――――」
膠着状態からすかさず言葉を紡ぐヴォネッドに、俺は目を見開く。
意味があるのか分からないような言葉の羅列。それは――――間違いなく、魔法の発射準備、即ち詠唱。
「――――ルインサンダー』」
その禍々しい剣から超強力な電撃が迸り、俺の体を焼き焦がした。
「ガハッ!?」
俺の体を、少なくないダメージが襲う。油断していたところに畳み掛けてきたとはいえ、ここまでの被害を負うものとは思っていなかった。野次馬たちも身の危険を感じ取ったのか、逃げ惑う人が増え始める。
間違いない。このヴォネッドとかいう男――――俺を殺す気で戦っている。俺にも全裸で云々言っていた割に、剣に魔法に明確な殺意が宿っているのを察した。
……ならば仕方ない。実力を見る前は適当にあしらってやろうと思っていたが、こちらも結構本気でやるとしよう。
はよ魔法使いになれや(禁句)
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