第三話 右手の薬指
男数人――――正しくは四人が、一斉に襲いかかる。力量、そして技量は……大したことなさそうだ。見切れる。
剣を持った二人が前方より接近。大丈夫、目視できる。刀身を指で摘まみ、力を加えて動きを止めたあと、そのまま刀身を割る。
男たちが動揺するのも束の間、先程まで剣を持っていた二人の腕、その手首を掴み、力任せに振り上げる。
「なあっ!?」
「自殺志願でもなけりゃ口閉じとけ。舌を噛むぞ」
宙に浮いた男二人を、そのまま地面に叩きつける。
意識を失った。残り二人。
「ひっ!」
怖じ気づいたのか、ナイフ持ちの一人が怯えて固まる。俺はそいつに向かって走り、タックルを決める。
撥ね飛ばされた男がまたも宙を舞うが、俺は軽いので重症ではないだろう。意識は刈り取らせてもらったが。
その時、
「動くな!」
エルフ狩りの最後の一人が、エルフの少女の首にナイフを突きつけていた。
迂闊だった。アイツは、俺の正体に最初に気付いた奴か。
僅か数秒で力量差を理解し、俺が弱いという考えを変え、冷静に人質を取る。エルフ狩りなんてしてる奴らだから、脳が溶けたような連中の集まりかと思っていたが、割と土壇場でも頭が回る奴がいるらしい。
だが、惜しむべきは、
「『エルフの少女を置いて逃げる』が最適解だったことだな。まあ、そうしても逃がさなかったけど」
エルフ狩りは立派な犯罪。決して人間にとって友好的な存在とはいえないエルフにこういうちょっかいをかけると、本当に種族間戦争とかに発展しかねない。だから、見つけ次第捕縛が鉄則だ。余計なことをしてくれたものである。
先程よりも速く――――具体的には男が俺の動きを視認できない程度には速く走り、男の懐に潜り込むと、両手の手首を掴む。
そして、男二人を叩きつけた時よりも強く手首を握り締める。
「ああああああっ!? 痛ええええっ!」
男の手首からヒビが入るような音が伝わってくるが、回復魔法を使えば治る範囲だ。気にしない、気にしない。
ナイフと、エルフの少女を捕らえていたロープを手放したことを確認し、手早く足をかけてうつ伏せに転ばせると、腕を捻り上げる。
即意識を落とすことも出来るが、この男が一番話が出来そうだ。後回しになっていたのは偶然だが、とりあえず色々と聞かせてもらおう。
「正直に答えろ。お前らの仲間は、この四人で全員か?」
「ああ、そうだよ! だから放せ!」
「ふぅん……?」
仲間がこれで全員という違和感を捨て置き、もう一つ質問をする。
「何故エルフ狩りに、この場所を選んだ?」
「ああ!? 噂で聞いたんだよ! この辺りで待ち伏せしてりゃ、エルフのガキが来るかもしれねえってな!」
「ほう。誰から聞いた?」
「噂っつってんだろ! 知らねえよ! いいから腕を放せ!」
ふむ。どうやら本当に知らないようだ。ともあれ、『エルフ狩りへと情報を流した存在』がいることは問題だな。
まあ、ここから先は俺が立ち入る問題でもなかったな。
「ほれ、立て。腹に一発行くぞ」
「え? 待、ごぼぁ!?」
とりあえず男を強引に立たせ、腹を一発殴って意識を刈り取る。
「クソ、化け物が……」
「……俺だって好きでこんな力を手にした訳じゃねえよ」
意識を失う前の男の憎まれ口に、本音で返す。
無駄に力は強くなるし、立っ端はガキのまま止まるし、良いことなんて1つもない。
今はどうでもいいことを考えつつ、男からナイフを拝借して、エルフの少女を束縛していたロープを切る。
「た、助けてくれて、ありがとう!」
「いいよ。嬢ちゃん、家まで帰れるか?」
「うん、大丈夫! あの、お礼したいんだけど……」
「あー、俺は今からこいつらを衛兵……えーと、まあ、王国に連れ帰らなきゃいけねえから、また合ったらお礼してくれ」
そういいながら、男たちが持っていたと思われる予備のロープで四人を強引に縛りつつ、俺の体と固定する。
「すごい、力持ちなのね……私と年も変わらないくらいなのに……」
「いや、だから俺は成人……まあいいか」
エルフは基本的に長命。若い姿のまま何十年も生き続けるらしいが、幼少期は人間と同じくらいのペースで成長すると聞いたことがある。
つまり俺は、本当に幼女だと思われているのだろう。もう訂正するのも面倒だ。
「まあ、そういうわけだから、気をつけて帰れよ」
「あっ! ちょっと待って!」
エルフの少女が近付き、俺の右手を取る。
そして、どこから取り出したのか、植物の茎で出来た指輪を、俺の右手の薬指にはめた。
「この指輪をつけたまま、またここに来て! そしたら、お礼をしてあげる!」
「……この指輪は……?」
エルフの少女は、その時が来れば分かると言わんばかりに、にっこりと笑って言った。
「私の名前はエリザ! 今日は本当にありがとう!」
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