第二話 見た目で判断しないこと
さて、なんとも情けない話だが、俺は国に帰らなければならなくなったわけだ。
勇者パーティーは魔王城へ向けて旅立っていたのだから、当然国まで戻ろうとすると、結構な距離がある。
「ま、一日走ってたらそのうち着くだろ……」
そういうわけで俺は、森林の直中を疾走している。
勇者として、王から多大なる支援を受けているユウは、設定した場所に一瞬でテレポートできる使い捨ての魔道具を支給されていたはずだが、当然ユウが俺に渡してくれるなどということはなかった。
魔道具――――簡単に言えば、魔法を技術として用いることで完成された道具。そのままだ。確か、空間魔法で転移先の座標をどうたらこうたらして作られているらしいが、よく分からん。
――――そう、魔法。どこを向いても、魔法、魔法、魔法だ。人間の生活の奥深くにまで、魔法は根付いている。
過去に色々あって、俺は幼少期からずっと魔力を持たない。だからこそ、魔法使いの夢も諦めざるを得なかった。
そういった経緯から、一方的な逆恨みには近いのだが、人々の暮らしの基盤たる魔法の存在を疎ましく思わないでもない。その癖、自分も魔道具を使うから情けなさが加速する。
しかし、だ。これでも俺は元勇者パーティーの一員、それなりに金はある。慎ましく生きていれば十年くらいは金に困らないだろう。
ならば、今すぐ第二の人生に舵を切る必要はない。物は試しで、魔法使いを目指してみるのも悪くないかもしれない。
そうして俺はこれからの人生設計に思いを巡らせていた――――その時。
「嫌ぁっ! 誰か助けて!」
「っ!?」
悲鳴が聞こえた。
声質から察するに女性、それも子供だ。この切羽詰まった声は、遊びか何かで発せられるものではないだろう。
だが、そもそもこんな森林、それも魔王城に近い危険地帯。魔物もちらほらいるような環境だ。人もほとんどいないのに、よりにもよって子供がいるだろうか。何らかの罠と考えていいのでは?
いや、罠だとしたら効果が薄い。先程も言った通り、ここは人もほとんど通らないような場所だ。人を誘き寄せるのが目的だとしたら、もう少し人に見つかりやすい場所で罠を仕掛けるだろう。
「まあ、死にはしないだろ……」
罠でなかった場合、流石に後味が悪すぎる。行けば分かるということで、悲鳴が聞こえた方向へと走った。
●
草むらを勢いよく飛び越え、悲鳴の元へと辿り着いた。
「ゲヘヘヘ、助けなんて来るわけねえだろう、嬢ちゃん」
「嫌! 放して!」
まず目に入ったのは、如何にも悪そうな様相の男が数人。一人の少女を捕らえている。まさしく子供と言っていいほどの幼さの少女は、懸命に男たちの手を振りほどこうともがいていた。
勢いそのままに着地と同時にスライディングのような状態で、男たちの前に見参する。
男たちは、一瞬虚を突かれたような表情をしたが、俺の姿を見て、再び余裕を見せた。
「おう、どうした嬢ちゃん。この子のお友達か?」
「嬢ちゃん言うな。これでも俺は成人男性なんだよ」
「ゲハハハ、冗談は…………あぁ!?」
俺の言うことを毛ほども信じていなかった様子の男だが、その内の一人が血相を変える。
「お、お前は、アイン・ツヴァドラ!?」
「なんだ、知ってたのか。名刺でも渡さなきゃいけねえのかと思ったぜ」
勇者パーティーの一員であった時点で、全員かなりの有名人だ。俺のことを知っていても不思議じゃない。しかも俺は、勇者パーティーの中でも特に目立つ。
「ど、どうしたんだよ?」
「ただの子供に何をビビってるんだ?」
「馬鹿、知らねえのか!? あいつは勇者パーティーの一員、『城壁のアイン』! 見た目はちんちくりんの幼女だが、勇者パーティーに入ってる時点で化け物だ!」
何やら揉め出した男たちをスルーし、捕らえられた少女に目を向ける。状況を飲み込めていないような表情をしている……まあ、絶体絶命→助けが来た→見た目が幼女→男が俺にビビってるという絶望と希望の往復をしていたら、微妙な表情にもなるだろう。
少なくとも、俺のことは知らないようだ。それを証明するかのように、少女の耳は――――尖っている。人間ではないようだった。
エルフ。
人間に近く、されども確実に違う種族である亜人、その一種。閉鎖的な種族であり、人間ともほとんど関わりを持たない。
――――そのため、もしエルフの子供などを捕らえることが出来れば、早い話、高く売れる。
「エルフ狩りか……絶滅したと思ってたんだが」
数年前に、一攫千金を狙った者たちが、エルフを捕らえようと森へと繰り出していた。だが、そもそも広大な森林で、閉鎖的な種族のエルフを捕らえることは難しい。当然、そのようなことを続けるものは徐々に減っていったのだが……。
「チクショウ、何でこんなところにお前みたいな化け物がいるんだよ!」
「いや? ついさっき勇者パーティーをクビになってな。今は国に戻っているところだ」
つい反射的に答えてしまう。あれ? これ言ってよかったのか? お喋りなのも考えものだな。まあいいか。
しかし、それを聞いた男たちは顔を見合わせたあと、再び先程の余裕の笑みを浮かべた。
「ゲハハハ! つまりお前は実力がなかったってことか! おかしいと思っていたんだ! お前みたいな幼女が勇者パーティーにいるなんて、何か嘘をついてるとしか思えねえ!」
「お前ら、耳も売ったのか? 俺は成人男性だって言ってんだけど……」
確かに俺は見た目は子供そのものだし、俺の桃色の長髪を見れば、幼女と間違うかもしれないが、俺は体もれっきとした男だし、そもそも実年齢は21だ。
その言葉を聞いているのか聞いていないのか、男たちは次々と剣やナイフを抜き、こちらに向ける。
「お前の強さが紛い物だったのなら、話は単純だ! お前をボコボコにして、エルフのガキを連れ帰る!」
「あー、なんと言うか、お前らがエルフ狩りなんてやってる理由が分かった気がするよ」
男たちがエルフ狩りである時点で、見逃す気はなかったんだから、むしろ話が早くて助かる。
俺は、いつものように盾を構え――――ユウから持ち帰ることを禁じられていたことを思い出す。
まあ、大丈夫だろう。
「エルフ狩りなんてこと、救いようのない大馬鹿者にしか出来ねえもんなぁ?」
一言多い系ロリ風ショタ(見た目だけ)。
こちらが今作の主人公になります。
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