第一話 追放は突然に
異世界転移モノじゃない作品も連載したくなったので、やってみます。
「アイン・ツヴァドラ。今日をもって君を『血戦の楔』から追放する」
「……ぁえ」
咄嗟に半端な返事しか発せなかった俺に、目の前の美青年は言葉を繰り返す。
「何度も言わせないでくれ。僕達のパーティーに、君は不要だと言ったんだ」
「……いやいや。勇者さんよ、さすがに冗談のセンスを磨き直した方がいいんじゃねえか?」
俺は思わず僅かに腰を上げ、クビ宣告をしてきた彼に詰め寄る。
しかし、彼は揺るぎない目でこちらを見返した。
「その態度ということは、何故自分が追放されるかも分かっていないようだな。なら、教えてやろう」
「おう、俺みたいなのにも分かるように教えてもらおうじゃねえか」
無意識のうちに喧嘩腰になりながらも、ユウ・シャーハティに続きを促す。
「僕達勇者パーティーの目的は、魔王軍と戦うことだけではない。可視化された『人類の希望』そのものにならなければならない」
「ああ。だからこそ、俺たちが集められたわけだな」
曰く、神が創造した唯一の武具である聖剣に選ばれた人物、『勇者』。そして、選ばれた勇者が存在する国の王が、パーティーの一員として戦闘のスペシャリストを雇うことで、勇者パーティーは結成されている。
そして現在、勇者パーティーが魔王を打倒すべく魔王城へと侵攻する最中、そのリーダーたる勇者ユウは俺へと言い放った。
「つまり、君みたいな容姿を持った者は、勇者パーティーとして不適切なんだよ」
「……おいおい、今日は冗談が多いじゃねえか。ご機嫌なのか?」
思いもよらない方向から俺を斬って捨てるユウを睨み、頬杖をつく。
まあ確かに、俺とて自分の顔に自信があるわけではない。少なくとも、世間では千年に一度の美貌だとか言われているらしい、目の前の金髪の美青年と比べたら、天と地ほどの差があるだろう。他のメンバーも絶世の美少女揃い。それは俺も理解するところだ。
だからと言って、そんな馬鹿げた理由で人生を左右されて、黙っていられる訳がない。
「だいたい俺が抜けたとして、『血戦の楔』の戦力はどうなる。これでも俺は、タンクとしてパーティーに大きく貢献していたつもりではあるんだが」
「問題ない。君ともう一人、前衛を務めているのはこの僕だ。前衛など、この僕一人で事足りる。君自身は『血戦の楔』を支えてきたつもりなのかもしれないが、それは思い違いというものだ」
「興味深いじゃねえか。勇者ってのは、いきなりタンクとしての役割もこなせるようになる万能グッズのことを指すのか?」
酷い言い方になるが、勇者とは聖剣に選ばれただけで手に入れることが可能な肩書きだ。努力なしで無条件に強くなれるような何かに変身したのではない。
俺の役割は、敵の攻撃を惹き付け、後衛に攻撃が及ばないように守り、相手の隙をつくる役回りだ。確かに地味だが、贔屓目で見ずとも俺がいなければ勇者パーティーは瓦解するとまで思っている。魔王城へと近付くにつれ、魔王軍の動きが激しくなってきている今は特にだ。
少なくとも、一朝一夕で完成するような技術ではないと自負している。
そのことを諭していたつもりだったのだが、返ってきたのは想像の斜め上を飛び去るような発言。
「違うな、そもそもタンクという役割が必要ないと言っているんだ。相手が如何に強大だろうと、僕の聖剣で一撃に伏してしまえばいい。防御など、牙の抜けた獣がする愚行だ」
「なんとも斬新な超理論だな。学者でも目指したらどうだ?」
かなり悪意を込めて発した皮肉だったが、ユウはにべもなく言葉を続ける。
「むしろ君の存在が、僕の動きを阻害する。君は足手まといでしかないんだ」
「随分悪し様に言ってくれるじゃねえか。流石のお前でも、魔王軍幹部クラスになれば一撃どころか、そもそも倒せるか否かの問題だと、俺は踏んでるんだが」
「話にならないな。往生際の悪い君のために一応言っておくが、これはパーティー全員が納得した上での意向だ」
反射的に目を見開く。リーダーであるユウの独断によるものとも考えていたが、まさか全員が俺の追放に納得済みだとまでは思っていなかった。
そして、そのあまりにも早すぎる話に、どこか黒い策謀を感じ取り――――。
「……チッ、流石に全員の意向なら、従うしかねえようだな」
「ようやく自身の不足に気付いたか。ならば早急に失せたまえ。君を視界に入れることすら不快だ」
「そうさせてもらおう。せっかく降って湧いた余生だ。好きに生きてみるさ」
俺が踵を返そうと腰を浮かすと、ユウは嘲笑と共に俺に言葉を投げ掛ける。
「そうだな、子供の頃からの夢だった魔法使いでも目指してみたらどうだ? 君の粗末な魔力量でなれるものならな」
「はん。首を飛ばした奴に対しても、嬉しい助言してくれるじゃねえか。流石は勇者様ってところか?」
「速急に消えろ。それとも聖剣の錆にでもなるか?」
これ以上話すことはないと言わんばかりに、俺を冷徹に睨むユウの視線を受け流し、立ち去ろうとする。
「分かった――――だが、最後に聞かせろ」
観念してユウに背を向けたところで、俺はユウに聞かねばならないことを思い出した。
「本当に、お前ら全員の意思で、これを決めたんだな?」
「……当然だ」
「そうか。まあ、今まで世話になったな。これからも達者にやれよ」
それだけ確認すると、俺の方を見向きもしなくなったユウに一応これまでの旅の義理も込めて一礼すると、俺はその場をあとにした。
一時間ほど経ったら、次話を投稿します。
基本的に、1日1話の投稿を目指していきます。
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