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第六話 おかしな警官

「何てことをしてくれたんだ、お前達は!?」


 人の多そうな場所=警察署に辿り着いた紺を出迎えたのは、大勢の武装した警察官と、彼女に怒号を浴びせる署長であった。

 警官達は戸惑いながらも、命令通りに紺に銃を向けて取り囲んでおり、近くには何故か手錠をかけられた黄の姿があった。

 この意外な展開に、紺が黄に問いかける。


「ねえあんた・・・・・・何かこいつらに迷惑をかけるようなことをした?」

「いや僕には身に覚えが全く・・・・・・」

「惚けるなお前達! お前ら私達より先に、あの化け物鳥を討伐してしまっただろう! こっちは折角戦闘艇を出したのに・・・・・・」


 その署長の言葉に、二人はますます困惑する。

 近場には、一台の大型の車両である。それはまさに戦車であった。いや車輪がタイヤになっている辺り、機動戦闘車と言った方がいいだろう。

 警察署の敷地にあった、宙を浮く車両と違い、SF要素の無い普通の戦闘車というデザインだ。

 最も実際の性能も同じなのか、起動していない今は判りようもないが。


「いや・・・・・・あれはどっちが先にやればいいとか、そういう話しじゃないでしょ? 私が来たとき、警察も逃げだしてたし。あのままだと、犠牲者が増えたかも知れないし、誰かが早めに片付けた方が・・・・・・」

「刑法にそんな規定はない!」


 ごく一般的な論理を口にする紺を、署長は一蹴する。実際にそういう規定がないのかどうか、法律をよく知らない作者にも判らない。

 だが仮になかったとしても、それは当たり前すぎて、法案に書くまでもないということではないだろうか?


「この街の警察は私達だ! 私達以外の者が、街を救うなんて非道、絶対に許されることじゃない! そんな非道を許すぐらいなら、街の人間皆殺しになった方が人道的にまだよいわ! ああ、この町民達も可哀想に・・・・・・こんな部外の者に、自分が救われたなんて知ったら、皆が生きる意欲を失う! 警察以外の人に救われた自分を恥じて、一体どれだけの人が自ら死を選ぶことになるか・・・・・・これはもうひと思いに私達が介錯してやるしかない。このような事態に追い込んだ、お前たちの罪がどれだけ重いか、判っているのか!?」


 どう言葉をかければいいのか、あまりに突拍子のない持論を口にする署長。

 紺も、部下の警官達も、近くで見物していた町民達も、呆然としている。


 一方の署長の方は、今の発言や態度には、かすかな悪意も悪ふざけも感じられず、まさにこれが常識だと言わんばかりに,堂々としたものである。


「お前達だけは絶対に許さない! この街を絶望に追いやり、私達に愛すべき民を、この手にかけなければいけなくしたお前らは・・・・・・。ここまで行けば、逮捕も裁判も必要ない! お前達、こんな外道に容赦するな! この場で蜂の巣に・・・・・・」


 ゴスッ!


 署長の正気を疑う言葉は、鉄拳と共に止められた。

 苛立った紺が、走り出して、一瞬で間合いを詰めて、彼女の顔面を殴打したのだ。

 紺の右拳が血に濡れ、署長の顔が拳の接触面からずり落ち、ゆっくりと全身が崩れ落ちる。

 仰向けに倒れた署長は、鼻が潰れ、やや顔が沈んだ状態だ。死んだかと思われたが、微かに痙攣しており、まだ僅かに息があるようだ。


「何だ? 手加減したのか?」

「いや・・・・・・こいつどうも、全身を結界で固めてたみたいね。おかげで手がめっちゃ痛いわ。殺すつもりでやったけど、これはきちんとトドメ刺した方がいい?」


 結構容赦ないことを言う紺。

 実はこの時点で、武装警察官たちも、署長と同様に、特殊な結界発生装置を装備しており、自身の防護力を強化していた。


 全身をコーティングする、その薄めの結界は、常人が装備した場合、拳銃弾程度なら少し痛い程度、小銃弾だと多少の怪我ですむぐらいにまで、防護力を高めてくれる。

 それと二重にプロテクターを装備した警官に、重傷を負わせた、あのカラスの突撃力が、どれほど恐ろしいものだったのか・・・・・・。


「それは・・・・・・やめた方がいいんじゃ? 何か空気が悪いし・・・・・・」


 周りを見渡すと、大勢の警官や町民達が、実に困惑した様子で紺達を、もしくは倒れた署長を見つめている。

 上司が重傷を負っているというのに、すぐに病院を呼ぼうとする者もいない。

 いやそういう考えが浮かばないぐらいに、彼らは困惑しているのかも知れない。この事態に、自分たちはどう判断を下せばいいのか?


「ああ・・・・・・確かにそうね。じゃあ行こうか?」

「おう・・・・・・じゃあ皆さん、失礼しました・・・・・・。あっ! 悪いけど、この手錠外してもらえる?」


 そう言った後で、律儀にお辞儀をして去って行く二人。

 彼らを止める者はおらず、それどころか、言われるがままに、鍵を渡してしまい。更に彼らの道中にいた者が、慌てて道を空ける事態。


 かくして、俗世間に復活した女神は、初めて訪れた街を、あまり堪能できないまま、波乱のまま去って行くのであった。


(しかしあの女・・・・・・殴ったときに、変な感触がしたわね。あいつの頭の中に、何か混じってたのかも・・・・・・?)









 特に追ってくる者もいないので、ゆっくりとした足取りで、街を出て農道を進む二人。

 やがて農地を外れに近づき、農道が街道に交わる位置に付いた。


 その傍に、自然に出来た風でない、周辺が区画整理された水辺がある。近辺には水田があるため、これは万一のための溜め池なのかも知れない。


 池の側には紺達にも読める文字で「釣りをする場合はマナーを持って!」なんて書かれた看板もある。

 どうやら釣り禁止はされていない、釣り人達にも憩いの場所となっている溜め池のようだ。


 そんな池を見て、紺はふと足を止める。


「ああ~~丁度いいわ。少し溜まってたのよね・・・・・・」


 そう言って池の岸にまで進み、そこでスカートを上げ、その池の水面に、自身の不要な水分を放出していった。

 人様の土地の池で、随分と大胆な事をしてくれる女子である。


 そんな大分不潔な行為に、かなり眺めに時間を使いながら、紺は後ろにいる黄に話しかける。


「それにしても・・・・・・一見豊かそうな土地に思えたら、随分とやばい奴が顔を利かせている事ね・・・・・・これがあいつの言っていた、民への圧政かしら?」

「さあ? それにしては、町の人達は結構良い生活をしているような、小綺麗な姿だったけど。でもまあ、あいつはああしておいて、正解だったと思いますよ。一撃で殺せなかったのは、残念だけど・・・・・・。それより僕は、あの妙なカラスが気になるんだけど?」

「ああ。あれね・・・・・・ああ言うのって、今時多いのかしら?」


 放出を終えて、スカートを直す紺が、その黄の言葉に頷く。

 結局あの、見た目は普通のカラスにしか見えない、鳥型モンスターは結局何だったのか?


 自分の事を忘れてしまった二人には、当然モンスターに関する知識も、ほぼない状態だ。


 久しぶりに人里に降りたら、モンスターの襲撃自体に遭遇した件。

 今の時代のこの国には、あんなモンスターが、頻繁に出没する危険な状態なのか?

 それともめったに現れないモンスター被害に、本当に偶然にも、紺達がバッタリ遭遇しただけなのか? 


 現時点全ては謎のままである。


「まあ・・・・・・まだ外の世界に出たばかりだし・・・・・・その内何か判るでしょ。とりあえず、次の街に行くわよ」

「・・・・・・次の町で指名手配されてないといいですけど」


 さっきの町で、結構尋常じゃないことをしたのに、特に緊迫し様子もなく、気楽に進む二人。

 果たして彼女らの次の道中にあるの、果たして何なのか・・・・・・






 それと彼女の件とは別に、彼女が通ったあの農業地方都市に、ある不思議なことが、この後で二件起こることとなる。


 一つ目は紺達が列車に轢かれ、倒れた場所。彼女達の身体から流れた血が、たっぷりと染みついたあの一帯の畑。

 あれがどういうわけか、次の生産時に、過剰な程の豊作を連続させることとなる。

 味良し・形良しで、とても大きい作物が、通常の半分の生育速で、次々と収穫されたのだ。

 これに農業員達は不審に思ったが、特に何か悪いことがあったわけでもない。

 あの町はこの一帯の畑を、恵の畑と呼び、何世代にもわたってありがたみ続けるのであった。


 そしてもう一件は、紺が自らの廃棄水分を放出したあの溜め池。

 これも先程の畑と同じような現象。

 味よし大きさ良しの、一級の魚が、釣り竿や網にとても大量に捕獲できるようになったのだ。

 獲っても獲っても、魚たちがいなくなることはなく、これには大勢の釣り人は勿論、釣りに興味もない人々も、副業で魚を採り始める。

 おかげでここは溜め池としての役割を持たなくなり、町にとって、とても重要な水産資源地となるのであった。


 あのカラスもそうだが、これらの異変もまた、それ以上に不思議な話しである。


 最もそんなこと紺達が知るよしもないし、彼女達が関わる話しではないだろう。恐らくは・・・・・・



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