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第四話 風魔のカラス達

 この街のすぐ側には、農園に挟まれて、大きな養鶏場があった。

 横長の二階建てのアーチ型で、遠目から見ると、大きなビニールハウスにも見えてしまう形の、かなりの大規模施設。

 その材質は、あの鉄道橋同様に、石材なのか土製なのか謎だ。


 その養鶏場の一角の壁が、今盛大に破壊されている。まるで砲弾が何発も撃ち込まれたかのように、一階から二階にかけて、大きな穴が開いている。

 その穴から、無数に積もった瓦礫を飛び越えて、何百羽もの鶏たちが、何かから逃げるように、勢いよく飛び出してきている。

 その様子を見て、これを捕まえることも出来ず、数人の着物姿の農夫たちが、どうすればいいのか判らず慌てふためいていた。


「おい! ここがそうか! 報告にあったモンスターは!?」

「あの中です! 養鶏場の中で、鶏を何羽も食い千切って・・・・・・」


 そこに駆けつけたのは、十数人の警官達。そこにはついさっき紺達と出会った二人もいる。あの件から帰ってすぐに、随分と忙しい話しだ。

 しかもさっきと違い、制服の上にプロテクターを着込んでおり、頭部には軍用のヘルメットらしきものを被って、さっきより武装度が上がっている。


 鶏たちがどんどん付近の畑や、街の中へと走って行く。警察達の足下を通った者がいたが、彼らにはそれを気にしている余裕はない。

 警官達は、腰にある拳銃を取り出して、緊迫した様子で、養鶏場を前に構え出す。

 ちなみにその拳銃の外観は、こちらの世界の価値観からすると、まるでSF映画に出てきそうな奇抜なデザインであった。


「すぐには撃つな。しばし様子を・・・・・・」


 バササッ!


 指揮官らしき警官が喋っている間に、件のモンスターが、突如として建物の中から、自身でつけた壁の穴から飛び出してきた。

 突如街中に姿を現し、これだけの事態を起こした謎のモンスター。それが今は、目の前に全容を現した。


「・・・・・・うわ・・・・・・本当にただのカラスだ」


 誰かがそう呟いた。

 壁の穴から飛び出してきたのは、モンスターという呼称とは程遠い、見た目は本当に普通の鳥であった。全身真っ黒な羽毛と嘴の、どこにでもいる普通のカラスである。

 それが全部十羽、鳩小屋から飛び出したかのように、壁の穴から一斉に出てきたのだ。


 一応報告には聞いていたが、本当にこれがモンスターなのか?という疑問が、場に一気に広がっていく。

 そのせいで、彼らは敵の先制を許してしまった。


 十羽のカラスが、警官達を前に、一斉にホバリングを始めた。

 警官達を前に、まるで団扇を仰ぐように、翼を羽ばたかせ続けるカラスの群れ。

 これだけのカラスが、まるで蜂のようなこんな動きをするのは珍妙だ。そもそもカラスは、こんな空中静止が上手い動物であっただろうか?


 だがそんな考えを浮かべる暇もなく、異変は起きる。


 ビュオオオオオオーーーー!


「「うおおおおっ!?」」


 カラスが仰いでいる方向から、一斉に吹き荒れる突風。それはどう考えたって、鳥の翼の筋肉で出せるような勢いではない。

 まるで台風が通過したかのような、凄まじい風が、一瞬でその場に発生したのだ。

 その風で一体の土埃が舞い上がり、近くの木の枝葉が盛大に揺れる。


「風魔法か!? しかし何で・・・・・・」


 魔法が使えるモンスターで、あのような姿のものなど、図鑑でも見たことがない。それを言おうにも、その前に警官達が立っていられなくなる。

 風に煽られてバランスを崩し、皆次々と転倒していく。中にはそのまま、タイヤのように地面を転がっていくものまでいる。


 途中で風が弱まり、何人かがどうにか立ち上がろうとするが、そんな彼らから先に、次の攻撃が飛んだ。

 何羽かのカラスが、ホバリングを止めて、空中で姿勢を変える。

 それは全身を嘴を先に前方に真っ直ぐ伸ばす。そのまま小さな羽ばたきと共に、カラス達の身体が、矢のように勢いよく前方に飛んだ。


 ドゴ! ドゴ! ドゴ!


「「!!??」」


 矢のような形で、尚且つ砲弾のような威力で、常識ではあり得ない突撃をするカラス達。彼らの嘴が、数人の警官の腹や胸に、直撃する。


 特殊な素材で出来たプロテクターの装甲が、一気に凹む。

 貫通こそしないものの、その衝撃は彼らの体内に強く響く。中には骨の折れる音が立てる者もおり、その衝撃で再び倒れ込んでいった。


「くそっ! 撃て!」


 次に立ち上がった者達が、一斉にカラス達に向けて発砲していった。


 パン! パン! パン!


 銃声は通常の火器銃器と同じだが、発射されるのは白く輝くエネルギー弾。それらが次々と空の上のカラス達に放たれる。


 カラス達はそれらを、機敏に飛び回りながら避けていく。さっきから通常の鳥ではあり得ない動きばかりする。

 一羽だけ弾が当たった者がいたが、少し空中を弾け飛んだだけで、すぐに体制を整えて、再び飛び回る。

 多少のダメージはあるようだが、あれ一発では倒すには至らないようだ。


 そして何羽かが、さっきと同じ姿勢をとり、再び警官達に突撃していった。

 あのカラスは何なのか、何も判らぬまま、戦闘は続いた。







 当然のごとく、街の中は大騒ぎである。あの風の魔法を使いこなす謎のカラス達は、腹を満たすと、辺りを見境なく攻撃するのである。


 人間に何か恨みがあるのか、それともありふれた力を楽しんでいるだけなのか判らないが、今は明確な敵意を持って、人間やそれが作った人工物を破壊して回っているのだ。


 数羽のカラスが、空中を円を描いて飛び回ると、それを中心にして巨大な竜巻が発生し、それが幾つもの家を薙ぎ払っていった。


「あ~~~れ~~~お助け~~~!」


 中にはそれに巻き込まれて、どこかへと飛んでいく者までいる。なんだか緊張感のない悲鳴が聞こえるが、そんな口調と違って、事態は深刻だ。


 大勢の警官や、武装した住民がどうにか抵抗しようとするが、あまり活躍できずに、どんどん負傷者が増えていく。

 そしてこの街はもう駄目かと、荷物を纏めて、街から出ようとする気の早いものまで続出していた。


 そんな中、この緊急事態に真っ先に取り組まなければいけない者達が集う場所。

 街の警察署では、上層部の意見を聞く時間などなく、直ちに決断を下さなければいけない状態であった。


 街の中心にある領主館から、少し離れた位置にある、和風な屋根がアンバランスについた、大型の建築物。

 敷地には、タイヤのない不思議な形状のバイクや自動車らしき、機械の乗り物が幾つも駐車している。


 いやたった今、一台のバイクが、この警察署に駆け込んできた。

 何とそのバイクは、車輪を回転させて動くのではなく、空中を十数㎝ほど浮かんで、ジェット気流を吹いて、超低空飛行的な形で、街の道路を進んでいるのである。

 最初に紺達が浮かんだイメージと違って、大層な科学力である。


 さてそんな警察署の、会議室にて。

 その一番奥に座った、署長と思われる若い女性警官が、目の前に並んでいる警察幹部達を前に、この緊急会議である命令を下した。


「この緊急事態において、焼夷弾を使用する! 奴らが暴れている地域一帯に、集中砲火を浴びせて、奴らを待ちごと焼き払う! すぐに戦闘艇の準備をしろ!」


 この決断に、皆が僅かに動揺した。

 今敵は街の中に侵入して暴れているのだ。底に焼夷弾を撃つということは、街中に巨大な火をつけるということだ。

 この国には今、正式な軍隊がない。その代わりに、各署警察に軍隊並みの装備が支給されている。

 そしてこの警察署の中には、そういった物騒な武器もあった。


「わっ、判りました・・・・・・。これから付近住民の安全を確認次第、出動の準備を・・・・・・」

「そんなくだらないことに時間をかけるな! 今すぐに出動させて、あの化け物鳥たちを、まるごと焼き払ってしまえ!」


 僅かだった動揺が、今度は大いなる動揺に変わった瞬間である。こいつは何を言っているのか? 皆が反発をする前に、まず困惑した。


「何をおっしゃっているのですか!? 町民の状況が、まだ完全に把握できていません!それで万が一、住民に犠牲が出たらどうすると!?」

「把握? むしろ犠牲が出なかったら、どうする気というのだ? それで具体的にどのぐらい死ぬ?」

「さっ、さあ・・・・・・それは・・・・・・最悪数十人規模の犠牲が出かねないと・・・・・・」


 何か発言の内容がおかしいと皆が思ったが、誰もがこの新任の署長に、堂々と言うものはいない。

 立場というものを気にして、とりあえず曖昧に堪えてみる。だがそれを署長は、簡単に一蹴した。


「ふむ少ないな・・・・・・だが朗報に変わりない。 ならばこそますます焼夷弾を投入せねば!」

「「!!??」」


 皆が絶句するのも気に留めず、署長はその判断が当たり前という、信じられない反応である。


「何を言っているのですか署長! 突然訳の判らないことを!」

「それにあの付近には、養老院もあります! もしかしたら逃げ遅れている者がいるかも・・・・・・」

「ならばよい! むしろそれによって、彼らを救うことが出来る! それならば、砲撃部隊には、街に出来るだけ火が多く回るように撃ち込むよう命令せねば! とにかく今は時間が惜しいのだ! 今すぐに出動させよ!」

「ええ・・・・・・?」


 手段のためなら人の犠牲を厭わない冷酷・・・・・・というのとは、どうも何かが違う署長の、不可解な今の発言。

 これは彼女に何か考えがあるのか?と疑問に思いながらも、警官達は渋々その命令に従っていった。

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