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第二話 列車事故

「ところでこれ、ザルソバは連れていっても大丈夫なのかな?」

「さあ・・・・・・今の世の中、あいつが街中歩いて大丈夫なのかも判らんし。とりあえず話をつけて、しばらくここで待ってもらうか」


 さて決意を決め、話しが纏まってから、一時間も経たない内に、急速な展開で、彼らは森の外まで出てきていた。

 あの家に何かやり残したこともないし。この広い森も、彼らの身体能力ならば、飛び越えることなど容易い。

 本人たちがその気になれば、いつだって外に出れたのだ。


 実にあっさりと、森の外の、人里近い開けた大地に降り立ち、久方ぶりに大木の影に隠れていない、太陽の輝きを一気に浴びる二人。

 こうして、この世界を救ったという伝説の女神が、千五百年の年月を飛び越えて、遂にこの世界に姿を現した、世紀の瞬間である。


「うわ~~ホントだわ! 変な橋がある!」


 森の外に近づくにつれ、徐々に木々のサイズが小さくなっていき、やがては何処にでもある普通の森となっていく最後の場所。

 その木々が途切れた先には、広大な農園と、何故かその農園を跨ぐ大型の橋があった。


 橋と言えば、普通は川などを横断しているものだ。

 だがここには、少し離れた位置にある小川ぐらいに水辺はない。位置的にもサイズ的にも、大型の橋が必要な程ではない。


 だがその橋は、何故か水辺ではなく、農園のある大地を横断する形である。

 しっかりと大地に打ちつけられた、大木のように太く長い橋脚が、二列一線で幾つも打ちつけられており、その上を一度に十人ぐらいは幅をとれそうな橋が、大地より十メートル程上に建設されている。


 別に人の交通を遮るものがないこの場所で、何故あのような大橋を作るのか?

 あれでは橋の影で、農園の作物の生育に影響が出そうなものであるが。


 しかもそれは長さも半端ではなく、左側か右側の線路の先が、遥か地平線まで行くのかと思うぐらい伸びており、橋の終わりが全く見えない。まるで巨大な芋虫が、大地を蹂躙しているようだ。

 これだけの規模の橋を作るのに、一体どれほどの人員と建築費を投じたのであろうか?


「そうだろ? さっきあいつを送り出したときに、あれを見て驚いたよ。僕千五百年のことは殆ど覚えてないけど・・・・・・でもさすがにあれはなかった気がする」

「う~~~ん、本当に不思議な橋ね。ていうかランスロットを送る前に、聞いとけば良かったのに」


 そう言いながら、どんどんそれの橋脚に近寄っていき、あまつさえ何とその柱にしがみつく二人。

 折り悪く、今この場には農夫や通行人の姿がなく、二人の奇行を止めるものはいない。


 それを良しとして、まるで蜘蛛や蜥蜴のように、スイスイとその柱を登り始めたのである。

 石材なのかセラミックスなのか、材質不明の巨大な柱。少なくとも金属製ではなさそうだ。

 その謎の物体を、持ち前の身体能力で簡単に登り切り、あっさりと橋の上に上がり込む。


「何なのこれ? 人が歩くためのものじゃないの?」


 その橋の上は妙であった。普通ならば、人や馬車が通りやすいよう、平らになっているはずなのに、何故かそこは大きな溝が伸びている不思議な様子。

 その大きな溝は、二列になっており、この先の見えない長すぎる橋の上を、同じようにずっと伸びている。

 二人は並んで、その二列の綺麗な溝を眺めていたが、ふと紺はあることを思いだした。


「ああ、思い出した! これって確か“線路”ってやつだ!」

「線路? ああそうだ、思い出してきた・・・・・・確かこの上を、列車というでかい乗り物が・・・・・・」


 グシャ!


 二人の会話は、瞬時にそこに現れた謎の存在によって遮られた。

 この謎の溝=線路の上を、彼方から弾丸のような速度で、とてつもない巨大物体が通り抜けたのだ。


 先端が尖った箱形の物体が、幾つもの似た形の箱形の物体を引っ張り、芋虫のような形状で、かつ大蛇のように長く、その線路の上を走って行ったのである。


 まさにその物体の通過点内にいた二人は、それが通り抜けると共に、この巨大な橋=鉄道橋から、揃って撥ね飛ばされた。

 無数の赤いシャワーを散乱し、二人分の人の肉体が、あり得ない形に曲がり潰れ、鞠をついたかのように盛大に飛び、橋下の畑に転落していった。


 その畑が、収穫直後で何も植えられていないのは、幸と呼ぶべきだろうか?

 その落下点で止まった二人の身体は、あまりに酷い、大人でも吐き気をもよおす姿に大変身している。

 二人は悲鳴を上げることもなく、もしかしたら痛みすら感じる隙もなかったかもしれない。


 渡辺 紺(わたなべ こん)渡辺わたなべ おう


 千五百年ぶりに外の世界に出た姉弟(?)は、その数分後に、時速七百キロのリニアモーターカーに撥ね飛ばされ即死。享年は不明。






 さて国の救世主と期待された、太古の女神が、世界に姿を現して早々に、撥ねられて死んだのと同じ頃。

 同国内の大分離れた土地での光景。広い森林による緑が大地を覆い(紺がいた奇怪な森ではない)、時折川や湖沼などの水辺や、農村や山村などの集落も見える、美しい自然の大地。


 よく見ると森林の木々の生育密度が薄かったり、その木々がどれも樹齢十数年程度と思われる若い樹ばかりなのが目につくが、今はその辺は置いておこう。

 その美しい大地を、上から巨大な影を落とす者が現れた。それは黒雲でも、巨大なドラゴンでもない。一隻の船である。


 船が飛んでいるというのは比喩ではなく、本当である。しかもその船は、流線型で全体が装甲で覆われ、甲板の面積が一般の船より狭い。

 形状からして、空飛ぶ潜水艦ともいうべきで、この物語を見る我々の観点からすれば、まるで宇宙戦艦のような出で立ちの船である。


 全長百数十メートルはあるその大型の船には、当然人が大勢乗っていた。

 視点は移り、その空飛ぶ鉄の船の内部の、とある一室。


 そこはこちらの観点からすれば、豪華旅館の和室のような部屋。

 一般の乗員が寝泊まりする部屋にしては、あまりに広すぎる上に、内装が豪華すぎる部屋である。


 この部屋には外に繋がる窓がなく、実質密室である。奥の壁には本物と見違えるような画力の、山野の風景画が壁に貼り付けられている。

 これで外の風景が見える部屋を、擬似的に再現しているのだろうか?


 勿論外からの光などなく、行灯を象った電灯器によって、まるで夕方の空のように、ぼんやりと明るい部屋。

 その部屋の真ん中に、一人の女性が、敷かれた布団に座り込む姿勢で佇んでいた。

 明らかに一般人が買えるレベルでない、豪華な着物を纏ったその人物は、壁に駆けられた、空中に浮かぶSF的なTV画面を、じっと見つめていた。


『以前から報告されていたとおり、この旧ゲード領の新しい国王が、本日になって到着されることが、大蛇(おろち)帝国より公表されました。情報によれば、既に帝国を発って、こちらに近づいているようです。その新しい国王の詳細に関しては、大蛇皇族であるということ以外、現時点では未発表です。我らが国ゲード王国が、大蛇帝国によって陥落・占領されてから十四年、これで完全な形で、我が国は大蛇の属国として、政権が掌握されることになりました。この件に関して、未だに国民たちの間で、不安の声が上がっており・・・・・・』


 テレビに映る、和装の美人リポーターが、淡々と今この船が向かっている国の現状を話している。

 そしてそのリポートを聞き続ける内に、そのテレビの前の女性が、僅かにだが震えているのが見えた。

 そして一言、誰もいないこの部屋で、誰も聞き取れないような小さな声で呟くのであった。


「私にできるのでしょうか・・・・・・国王なんて・・・・・・」



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