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反省

その日の夕方、小ぶりの植木鉢が10個、早速部屋に運ばれてきた。

仕事が早いわバレットさん。嬉しい。


だけどこれ、あんまり練習にならなかったのよね。

なんでかって、ずいぶんとアッサリ出来てしまったからよ。

植えられていたのは薬草だったみたいなんだけど、ひとつひとつ手に持って、芽よ出ろ育て!って念じただけで、ぴょこんと芽が出てにょきにょき伸びてぽんぽんと小さな花が咲いた。

もっと梃子摺るかと思っていたのだけどね…。


夕飯の配膳をしていたフェニさんが目を丸くしていたわ。

「さすがですね、アリスさま」

…そうね。我ながらすごいと思うわ。

「お疲れにはなりませんか?」

んー? そうでもないかな。私は肩をすくめてみせた。

「大丈夫です。それより、美味しそうですね」

夕飯は、根菜の煮物、鶏肉の蒸し焼きに卵のあんをかけたもの、ご飯に味噌汁。

初日から思っていたことだけど、すごく日本の料理と近い。しかも、お箸もあるのよ。

そう言うと、フェニさんはにっこりと笑ったわ。

「三代前の聖女、キョウコさまは料理がお得意だったそうです。こちらでは、身分の高い女性は厨房に入ったりはなさらないのですが、キョウコさまは出される料理が口に合わないと仰って、自ら調理をされたと聞きます。醤油や味噌、などの調味料の作り方もキョウコさまが教えてくださったそうですよ」


そうなんだ。素敵。三代前のキョウコさまに感謝だわ。お陰で美味しい食事が食べられるんだもの。醤油や味噌の作り方なんて分からないから、キョウコさまより前に召喚されてたらここでの生活は悲惨だったかもしれないわ。

まるで料亭で食べる料理のように美しく盛り付けられた御膳を前に、私は手を合わせる。


いただきます。


あら? そういえばこの国、今は食べものが無くて困窮してるんじゃなかったかしら?

ほかほかと湯気立てるお茶碗を持ったまま、箸が止まった私に気付いて、フェニさんが訝しげ首を傾げたわ。

「いかがなさいました?」

「このお食事、私のために無理して用意してくれてるんですよね。ごめんなさい、私、気がつかなくて」

ふさぎ込んでいた3日間、私は何も考えず、しっかり食事だけはとっていたんだもの。

この世界の人たちが、もしものために一生懸命蓄えて、大事に大事に食べてきた貴重な食料。

私も、大事に、大切に、感謝して食べなければいけなかった。


フェニさんはほんの一瞬目を見開いたけど、すぐにゆったりとした笑顔に戻って首を横に振ったの。

「いいえ。アリスさまには大きな仕事が控えていますから。しっかり栄養を摂って備えていただかなくてはなりません。ですから、どうぞ、たくさん召し上がって下さいね」

聖女としての役割と引き換え。私が気に病まなくていいように、わざとそんな言い方をしてくれてるんだろう。

優しい人ね。

でも、たしかに、私が力を発揮出来なければ、この世界の食料事情は好転しないわ。

だから、有り難くいただこう。


食べ始めた私を見て、笑みを深くしたフェニさんが呟いたわ。

「優しい方ですね、アリスさまは」

「………」

さあ。それはどうかしら?


ところで、この世界にはお風呂がある。西洋風で魔法のある世界ときたらお風呂に入る習慣は無いんじゃないかと思っていたから、嬉しい誤算というやつね。

夜、お風呂の準備をしてくれたのは私付きのメイドのひとり、エマさんよ。

「入浴、という文化は先先代の聖女、ユリエさまの提唱によって生まれたと聞いています」

エマさんはすらりと背の高い金髪美人さん。お風呂について聞いてみたらニコニコと答えてくれたわ。


「生活に必要な魔法は子どもの頃に習うのですが、魔力上限の低い者や魔法の得意ではない者もおりますので、お風呂は広く浸透していますわ。それに、お風呂は気持ちいいですからね」

魔法が得意な人は身体の汚れを落とす魔法で済ますんですって。旅先や、野営をする騎士たちは入浴なんて出来なかったりするから、お風呂文化が広まった今でも、魔法で済ます機会は多いとか。

野営か。たしかにお風呂に入るのは難しいだろうし、魔法で済ますことができたら便利よね。


石鹸やシャンプーもあって、それも先先代のユリエさまが作られたそうよ。代々の聖女さま、すごいわ。本当に助かる。手作りの石鹸とか化粧水とかって、元の世界で流行ってたことあるものね。ユリエさまはそれで作れたのかもしれないし、可能性的には本職だったってこともありえるわ。なんにしても、ありがたいわね。

ああ、そうか。

ドレスを着たらひとりでトイレに行けないと思っていたけど、こちらの人は魔法でキレイに出来るから問題ないんだわ。


私はダメね。ドレスじゃお尻が拭けないもの。


お風呂上がりの濡れた髪をエマさんが手早く乾かしながら、鏡の中の私に微笑む。

ドライヤーは無くて、櫛を通しながら魔法で乾かしてくれるのよ。

こうした細かい生活魔法が使えることが、メイド勤めの条件なんですって。

「アリスさまがお元気になられて本当に良かったです。何かお困りのことがあったら、なんでも仰って下さいね」

…そっか。私、昨日までメイドさんたちのこと、完全に無視していたんだった。

我ながらひどい態度だったわ。

私はエマさんに向き直って、頭を下げた。

「心配かけてごめんなさい。これから、よろしくお願いしますね?」


エマさんはふわっと花が咲くように笑顔になったわ。

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