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親睦

誤字報告ありがとうございます。

誤字を修正しました。

私に出来ることならやっちゃうよ〜、と意気込んだけど、まだ私の出番ではないんですって。

雪を退けて畑を耕し、種を蒔いて肥料を与えるところまではやって貰って、そこに私が実りを願う祈りを捧げる。

だからそれまで、準備が出来るまでお待ち下さいってカウムさんが言う。


聖女の五穀豊穣の力といえど、何も無いところに実らすことは出来ないんですって。

それもそうよね。


それからカウムさんは、心配そう、というより不安そうに瞳を揺らしたわ。

「アリスさま。どうか、お願いです。自ら命を絶つことだけは、なさらないで下さい。できるだけの事をします。嫌なこと、辛いこと、我慢せずになんでも仰って下さい」

カウムさんはそう言うと、後ろに控えるイケメントリオを目で示した。

「こちらの者たちはアリスさま付きの者です。なんでもご相談下さい」


私付き…?


カウムさんが紹介してくれたところによると、魔道士のバレットさんは魔道士団団長というだけあって、この国一番の優秀な魔道士なのだそう。若そうに見えるのに、すごいのね。

そんなすごい人を私付きにしていいのかしら。


そして、藍色の髪の体格の良い人はやっぱり騎士さんだった。騎士団の中に私付きの師団があって、その師団長。名前はロゼ・フロスト。涼やかなアメジストの瞳が凛々しさ際立たせているわ。騎士だけあって、若干強面かしら。でも、それがイケメンであることを邪魔してないわ。

むしろ素敵よ。でもね。

私付きの師団…? なにそれ、必要?


最後に紹介されたのは、フェニ・ペガッソ。私付きのメイドを束ねるメイド長。ふわふわの銀髪に赤みのある瞳で柔和な笑みを浮かべている。その微笑みに、釣られて私も微笑んでしまうわ。

うん。この人は必要だわ。きっと一番お世話になる。


ただ。

この人たち、それぞれ優しく微笑んでくれているけど、この笑顔、多分、信じちゃいけないやつだわ。

なにがどうって、ハッキリ言えないけど。そうね、強いて言えば営業スマイル的って感じかしら。

とりあえず、死にたいと思うほどの絶望は感じてないから、カウムさんの心配は杞憂よ。


カウムさんがくれぐれもと念を押して部屋を出て行くと、フェニさんがお茶を淹れ直してくれた。

みんなで少しお話しましょうとフェニさんが言ったから、4人でお茶をいただくことにしたのよ。ちょうど、さっきのりんごがキレイに切られて届けられたから、それをつまみながら。


唐突だけど、私はイケメンが苦手だ。

理由は容姿のコンプレックスだと思う。私は、卑下するほど不細工ではない、…と思いたいけど、特別可愛くも無ければ綺麗でもないわ。スタイルだって良くはない。そうね、胸がもっと大きければもう少しマシだったと思うけど、胸がナイから凹凸が無くて、女性らしい体型とは程遠いわ。

イケメンの側にいるのは気がひける。並んで歩くなんてとんでもない。

イケメンは、少し離れて見ているくらいがちょうどいいのよ。


そんなわけで、イケメン3人と同じテーブルにいると、自然に私の口数は少なくなる。

フェニさんが気を使ってあれこれ話しかけてくれるけど、話を広げるような受け答え、出来ないわ。

フェニさんは困ったように小首を傾げて、

「何か、聞きたいことはありませんか?」

と言った。

聞きたいこと。

聞きたいことは色々あるわ。私はこの世界の常識を知らないから、生活する上で知っておくべきことを知りたい。

てもこれ、いっぺんに聞いても身に付かないわよね。じゃあ、少しずつ教えてもらうとして。

「ここはお城なんですよね?」

と、今更なことを聞いた。


「はい。ここはこの国の中心都市にある王城の一部で、聖女さま専用のエリアとなっています。

城の中心エリアには王とそのご家族が住まわれるエリアがあります」

「王様がいるのですね」

王政ということか。

「ええ。いずれ、お会いする機会があると思います」

へえ。王様にねぇ。

「入ってはいけない場所とか、あります?」

「そうですね。そういう場所もありますが、立ち入りを禁止しているような場所には監視がいますから、気づかずに入ってしまうということはありませんよ」

そうか。

そうだ。

「ところで、五穀豊穣の力なんですけど、練習することってできますか?」

「練習、ですか?」

そうよ。だって、本番で上手くできなかったら恥ずかしいじゃない。


フェニさんは、どうでしょう、と言うようにバレットさんを見た。

「植木鉢に花の種を蒔いたものをいくつか用意しますよ。それから、外に生えてる木は自由に試してください。ただし、雑草を育てるのは勘弁してくださいね」

後で使用人が大変なので、とバレットさんに言われて、私は頷いた。

使用人さんに余計な手間はかけさせられないものね。


「外に出るなら必ず声を掛けて下さい」

外の木と聞いて、ロゼさんがすかさず言ったわ。

護衛のために同行するんですって。お散歩もひとりじゃだめっていうのよ。

「護衛、必要です?」

一体何から私を守るつもりなのか。

「今日のように、アリスさまに危害を加えようとする者がいるかもしれません」

そうかしら?

今日は子どもだったし、怪我も大したことなかったでしょう?

聖女を失うことはこちらの世界の人たちにとっても痛手なのだから、本気で危害を加えようとするひとが、そうそういるとも思えないのだけど。


「俺の仕事はアリスさまをお護りすることです。どうか、お側に置いて下さい」

ロゼさんに哀願するように言われて、ほっぺたが引きつるのを抑えられなかったわ。

いやー、必要ないし、割と一人が好きなのよね、私。

分かりましたとは、言えない。言いたくない。

だって、嘘をつくことになるし。嘘は苦手なんだもの。


しかないからヘラっと笑って誤魔化したわ。


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