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似顔絵

私は大満足だった。

だって、素晴らしい戦果だったんだもの!


楽しくピクニックが出来たし、お弁当は美味しかったし、ちゃーんと魔物を一匹捕まえることが出来たしね!


襲ってきた魔物を捕まえようとして、みんなすごく頑張ってくれたわ。正直、見ていてどっちが襲われてるのか分からないくらいだった。

魔物ったら魔物のくせに逃げるんだもの。


でも結局はロゼさんとサルドさんの連携技で見事、お縄にすることが出来たのよ。


さすが、団長と副団長ね。


「で、お前はコレをどうするつもりなんだ?」

ロゼさんがとても難しい渋い顔をして言ったわ。

「もちろん、教えてもらうのよ」

「教えてもらう…?」

そうよ!

「イケニエのことを。誰に、なんのために、聖女をイケニエにしようとしているのかってことをね」

だって、もう、調べても分からないんだもの。

直接聞き出す以外に方法はないと思うのよ。


「……………」


ロゼさんの眉間のシワが深くなったわ。手で額を抑えているし、頭が痛いのかしら?


「頭痛がする…」

あらやだ、やっぱり?

風邪の引き始めかしら。今日は早く休んだ方がいいわ、ロゼさん。


「まあまあ、ロゼ。言いたいことは分かりますよ。でも落ち着いてください。アリスさま、お考えは分かりましたが、この魔物をご自分で尋問なさるおつもりですか?」


フェニさんが間に入って困ったように言ったわ。

尋問…。尋問って言葉が相応しいかどうかは意見が分かれるところじゃないかしら。


でもそうね。私が直接聞くつもりでいるけど?


「待って待ってアリス。それは駄目。それは危ない。捕獲した魔物は僕の魔法士団で預かるから。尋問も僕に任せて」


バレットさんが慌てた様子でそう言った。


えー…? でも。

バレットさん、忙しいでしょう?

あんまり手間を取らせるのも申し訳ないわ。


「大丈夫だから。正直、余分な時間は全くないけどなんとかするから。だからアリスは大人しく待っていて!」


…そお?

じゃあ、心苦しいけどお願いするわ。

ためらいつつも頷くと、バレットさんはほっと息をついた。


その横で、ロゼさんは大きな大きなため息をついたわ。


「アリス。俺たちはお前を守るためにいるのであって、危険に晒すためにいるのではない。自分を囮にするようなマネはするな」


ロゼさんったら。危険になんて晒してないわ。見方を変えましょ。囮になろうなんて思わなくても、どうせ、外に出たら魔物は寄って来るのよ?

それに…。


「特務師団の皆さんが全員いたのだもの。私に危険が及ぶなんてありえないわ、ロゼさん。そうでしょう? それに魔物は私をイケニエにしたいんだもの。その場で殺したり致命傷になるような怪我を負わせたりしないわ。魔物の方こそ、私を生け捕りたいはずだもの」


危険に晒されてしまったのは私ではなくみなさんの方なわけで、それが私のせいだってことは否定できないわ。

でも、申し訳ないけれど、一歩外に出れば魔物が寄って来る現状、問題を根本的に解決するまでは頑張ってもらうほかない。


それしかないのだけど、だからっていつまでも問題を放置したりしないわ。解決してみせる。

だから、肉を切らせて骨を断つのよ!


「アリス。たとえそうだとしても、魔物を捕らえたいのだと先に言ってくれれば方法は他にもあった筈だ。何か企てるなら、決行する前に、ちゃんと全部説明してくれ」

「全部話したら、ロゼさん反対するでしょ?」

「反対されると分かっている計画なら実行せずに先に相談しろと言っているんだ」


ぶー。


「だって、ピクニックがしたかったんだもの」


ロゼさんやバレットさんやフェニさんやエマと。特務師団のみんなと。楽しい時間を過ごしたかった。

しかも、そうしていれば魔物が来るでしょ?

一石二鳥だと思ったの。


「うーん。無謀と言わざるを得ないけど、魔物を捕まえて聞き出すっていうのはいい手かもしれないよ。実際、アリスの言うように、今のままでは調べようがないしね」


バレットさんがそう言ってくれて一応その場は収まった。

これで何か分かれば良いのだけれど。


ただ。

これまでも割と過保護に護衛をしてくれていたロゼさんだったけど、さらに過保護になってしまったことが、ちょっとね…。


自業自得だけど、完全に信用を失くしちゃったのよね。



「さあ、どうぞ」

ロゼさんを部屋に招き入れて、これからティータイムよ。

魔物生け捕りの一件以来、私が勝手なことをしないようにとロゼさんが部屋の外で監視を始めちゃったの。


そんなことしてるなんて知らなかったから、2日も廊下に立たせてしまったわ。


流石にずっとそんなことはさせられないから、部屋の中にいてもらうことにしたの。一緒に部屋の中にいれば私が何してるかが分かって、ロゼさんも安心でしょ?


「これは?」


用意したお菓子を見てロゼさんが首をかしげる。

ふふ。これは私の好きなお菓子よ。

ナッツ類が好きって言ったら厨房の皆さんが作ってくれたの。


「これは、アーモンドフロランタンというお菓子よ。スライスしたたっぷりのアーモンドをキャラメルで絡めてクッキー生地と焼いたものなの。キャラメルをほろ苦い感じにしてもらっているから甘すぎなくて食べやすいと思うわ」


「これはうまいな。アーモンドが芳ばしい」


ロゼさんも気に入ってくれたみたい。

お気に入りのお菓子と美味しい紅茶、穏やかな時間。

私たちはその日の予定を済ませた後、そうやって過ごすようになったわ。


ロゼさんは決しておしゃべりな人ではないから、女子会みたいに話が弾むって訳ではないけれどね。


その内、ただお茶を飲んでるだけなら、ってサルドさんが書類を持って来るようになったの。報告書に目を通してハンコを押したり、何か指示を出したり。

ロゼさんが書類を読んでいる間、サルドさんとおしゃべりしたりして、お仕事してるロゼさんには悪いけど、私は楽しんじゃってたわ。


ときどきバレットさんがやってきて、捕らえた魔物についての調査の進捗を報告してくれた。

その度にロゼさんに不穏な目つきで「ずるい」とか「卑怯」とか言っていたわね。

何のことか分からないけど、ロゼさんはどこ吹く風って感じに聞き流していたわ。

ロゼさんは、ごく稀に、なのだけどフェニさんの淹れてくれたお茶を飲んで悶絶していることもあって、私は大丈夫なんだけど、少し熱めだったりすると飲みにくいのかもしれないわ。

猫舌なのね、きっと。


そうやって1日の最後にロゼさんと過ごせるのがとても楽しくて。


ずっと、こうしていられたらいいのに。


と、思ってしまった。


「…………………」


私ったら、なんてことを…。

不意に自分の願いに気づいてしまって動揺した。


「?…………どうかしたか?」

「っ、いいえ。なんでもないの」


だめよ。ロゼさんはだめ。

ロゼさんにはステキな想いびとがいる。

暖かくて心が大きくて向日葵みたいに明かるいひとが。


暑い真夏にさらに熱い太陽に近づこうとする向日葵。

その力強さを体現するかのようなリタさんの芯のある心の強さは、揺るがない頼もしさがある。


先日、第4師団との共同作戦があったわ。

魔法攻撃に特化した第4師団とオールマイティに戦力を整えた特務師団は、それぞれの団長の息のあった指揮で想定以上の成果を上げた。


信頼して背中を預け合うロゼさんとリタさんの戦闘ぶりは、サルドさんと共闘するときとは何かちがう結びつきを感じたわ。


………。


そのときの2人の様子を思い出すと重苦しい気持ちになる。

これは、ヤキモチかしら。


うううん。しっかりして。

ロゼさんはステキなひと。ステキなロゼさんが優しくしてくれるからちょっとその気になってしまっただけ。


ロゼさんには、私では絶対に敵いっこないステキな恋人がいる。


ひとは、手に入らないものほど欲しいと思ってしまうのよ。それは、「手に入らない」ということに価値を感じてしまうからだわ。


この想いは脳のイタズラ。「手に入らない」という条件から反射のように脳が見せる錯覚。

惑わされないで。


私はこっそり息をついて、しばらく遠ざかっていた、過去の聖女さまが書き残した書物に手を伸ばした。


呪ってやると書き残した聖女さま。この方の想いが原因なのではないかということにたどり着いてから、この方のノートばかり見ていたけれど、まだ見ていないものもあったのよ。


正直、読むのが辛いものもあるのだけれど、なにか違うヒントもあるかもしれないものね。


古いノートを手に取ったら、その下に、少し新しめなノートが入っていた。

どこかで順番が入れ違ってしまったのかもしれないわね。

新しめ、と言っても、その前後のものよりは、という程度で古いノートであることは変わらないのだけれど。


先にそちらを見てみることにしたわ。

めくってみると、そこには絵が描かれていた。鉛筆で描いたような黒白の絵よ。

部屋の中の景色。窓から見える風景。

そうね。ほかの聖女さまの記述からもなんとなく感じていたのだけれど、以前は聖女の部屋ってもっと階層の高い場所にあったんだわ。

これ、一階の窓から見える景色じゃないもの。

とても上手な写実的な絵。

リアルで生き生きとして、花瓶なんて、本当にそこにあるみたいよ。


「………っ!」


ページをめくって、思わず息を飲んだの。

ロゼさんが不審そうに私を見て、そして私の手元を見て、眉を吊り上げたわ。


そこにはある人物が描かれていた。

パッチリとした目元、柔らかい微笑み。

100人中100人が「美人」というであろう、美しい女性(ひと)


「エマ………」


そこに描かれていたのはエマにそっくりの女性だった。

いいえ。エマを描いたのだと言われた方が、しっくりくる。それほどに、エマそのものだった…。




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