表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/38

呪い

誤字報告ありがとうございます。

誤字を修正しました。

この国に来てから3日たった。

その間、私は何もしていない。寝て、起きて、食事を頂いて、また寝て。それだけ。

一言も喋らず、とにかくぼーっと過ごしてた。

なあんにもする気が起きなかったんだもの。誰かと話をする気力もない。

だって、楽しくおしゃべり出来ると思う? 思わないでしょう?

拒絶オーラを全開に発して、お世話してくれるひととも目も合わせなかった。

失礼な態度だって分かっているわ。だけど、現実を受け止められないんだもの。口を開いたら、後で後悔しそうなことを口走ってしまいそうよ。


だけど3日たって、少し、冷静になったわ。

元の世界に帰れない。それは胸が潰れそうなほどに辛いことだけど、それはつまり、これから先はこの世界で生きていかなくてはならない、ということでしょう?

生きていくからには、辛いよりも楽しい方がいい。

だったら、帰れないことを嘆いて泣いて暮らすより、この世界を受け入れて、少しでも楽しいことを見つけたい。だって、私はまだ23歳なのよ? これまで生きてきた年数よりも、これから生きていく年数の方がきっと長いはず。泣いて暮らすには長過ぎるわ!


気持ちが浮上してきたら、お部屋でじっとしてるのがとても退屈に感じた。

少し、お散歩してみようかしら。

窓から外を覗いて見ると、お日様は出ているけどまだまだ雪がたくさん残っている。窓のガラスも冷たいわ。

今日の私の服装はシンプルなロングのワンピース。色は白。こちらで用意してくれた服よ。クローゼットにはドレスもたくさんあったの。結婚式の披露宴で新婦さんが着るようなカラードレスがたくさんね。こちらの女性は普段からドレスを着ているのかしらね? まるで、二次元の世界に閉じ込められた気分だわ。ああ、もしかして、異世界って二次元の世界なのかもしれないわね。もう二度と元の世界に帰れないってことを忘れることが出来たら、楽しめたかもしれないわ。だって、ドレスなんて滅多に着れるものじゃないもの。


だけど、ドレスなんて着慣れないものを着たら、絶対に寛げないじゃない? 転んじゃって、ひとりで起き上がることが出来なかったりしたら目も当てられない。残念だけど、着られない。

カラフルなドレスばかりかと思ったら、クローゼットの端にはいわゆるワンピースもたくさんあったのよ。スカート丈はみんな踝くらいまであるんだけど、その中から大人しめなものを選んで着ているの。

この格好だと、外は寒いかもしれないわね。

確かクローゼットにはコート的なものも入っていたはず。ええっと、ああ、あった。コートっていうか、マントみたい。柔らかな茶色地にピンク系の刺繍が施されていて素敵だ。

私はワンピースの上に、そのマントを羽織って外に出た。


外は一面の銀世界だった。

先代の聖女さまが身罷られてから15年、毎日降り続いた雪は、私が召喚されたその日に止んで、今は穏やかな日差しが積った雪を輝かせている。

こんなにたくさん積っていたら、除雪作業にはしばらく日数がかかりそう。

今も、あちらこちらから作業の声が聞こえてくるわ。

何かを持って来いって怒鳴っている声や、せーのって声を合わせて共同作業をしてる音、バサバサと雪を下ろす音。

耳を澄まして聞こえてくる音を聞きながら歩いてみる。正直、あまりにも雪がいっぱいで、どこが道でどこが道ではないのか、よく分からないほどよ。足を踏み入れてはいけないところを歩いちゃってないか、例えば花壇とか畑とかね、ちょっと心配だったけど、なんとなく「いい」気がしたから、氷のように固まった雪の上を滑らないように注意しながら歩いたの。


少し先に大きな木が見えるわ。あの木のところまで行ってみよう。

なんて立派な木なのかしら。幹が太くて、樹齢何百年? うううん、もしかしたら1000年以上かもしれないわ。

そっと手のひらで幹に触れてみる。ゴツゴツしていて冷たい。でも、なんとなしに額をつけると、水を吸い上げる力強い音が聞こえた気がした。ふふ。私、こういう植物や動物の生命力の強さって大好きなのよ。つい口元が綻んでしまうわ。

こんなに雪に覆われていても、しっかり生きてる。

するとふわりと柔らかな風が吹いて、わさわさと音を立てて葉っぱが枝に生え出したの!


えええぇ…!ナニコレ?


呆然と見上げていたらどんどんと葉が茂って、やがてりんごによく似た実までなったのよ!

どんな現象なのかしら。こんなに急激に実がなるなんて。そういう種類の木なのかしらね。驚いたわ。まるで実の成る過程を録画して、高速再生しているみたいだった。元の世界では絶対にあり得ないわー…。


急に実がなり出した木をちょっと引きつつ見上げていたら、背後で何かが動いた気がしたの。振り返えると、そこにいたのは子どもだった。男の子よ。6歳くらいかしら。薄いグリーンの柔らかそうな髪に同じグリーンの瞳。その大きな瞳がキッと私を睨んだ。

えっ? なに…?


「おまえがせいじょだな! オレはせいじょのノロイなんかに負けない‼︎ せいじょなんかやっつけてやる‼︎」


そう叫んで投げられた石は、見事に私の額に命中した。

ナイスコントロール。

…いや、そうじゃない。

投げられた石はそこそこの大きさで、私のおでこはそれなりのダメージを受けたわ。

ゴツっていったもの。正直言って、かなり、そうとう、痛いわ。

でもそれよりも衝撃が大きい。


聖女って、こんな小さな子どもに石を投げられるような存在なの⁉︎



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ