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うさぎうさぎ何見て跳ねる

鼻をひくひくとうごめかせた白いうさぎ。

可愛い、と思ったのは一瞬だけだったわ。


後ろ足で立ち上がったうさぎの赤い目が真っ直ぐに私を見た、と思ったら、その体から禍々しい黒いオーラが湧き上がった。


「なっ…!」


びびったわ。

びびるわよ!こんなの怯むに決まってる!

そうしたら、くわっと大きく口を開けて鋭い前歯を剥き出しにしたうさぎが飛びかかって来た!

ひえぇっ!


「っ!」


直後、横に薙ぎ払われたミュース団長の剣にうさぎは、いいえ、うさぎの姿をした魔物は胴を真っ二つに切り裂かれ、黒い光を残して消えていった。

ホッとしたのも束の間よ。ざわざわっと鳥肌が立つような嫌な気配がしたの。

魔物は一匹じゃなかった。

いつのまにか同じようなうさぎの姿をした魔物が何匹も集まって来ていて、私たちは取り囲まれてしまったの。


「しゃがめ!」


ロゼさんが飛びかかって来た別の魔物を切り捨てる。


「団長!」


近くで張っていたのであろう騎士さんが2人、駆けつけて来たわ。

「団長、代わります」

「頼む」

私のそばに来た騎士さんが何か唱えると、キラキラと辺りが光りだし、その光が球体になって私を包んだ。


「もう大丈夫です、アリスさま。安心してください」

騎士さんが私を見てにっこり笑った。

あ、このひとロゼさんの団のひとだわ。

名前は知らないけど見たことがある。


襲いかかってくる魔物を、ミュース団長や、ロゼさんやもう1人の騎士さんが次々と倒していく。

うさぎを模した魔物は一匹一匹はそれほど強くないみたい。

どんどん倒されていく魔物たち。だけどそのうちの一匹が、ロゼさんたちの剣の逃れて私に迫って来た。

伸ばされた爪が光の壁に弾かれる。

そのとき、

「…アリス」

魔物が、私を呼んだ。


「!?」


全員が、その魔物に注目したわ。でもすぐに、私のそばで盾を作ってくれていた騎士さんが動いた。

「聖女、アリス…。なぜ…? 早く…、こちらに…」

「アリスさまに近づくな!」

ぼぅっ!


騎士さんの手から放たれた魔法の火球が魔物を包んで燃え上がる。


消える寸前、魔物は言ったわ。

「アリス、我らのイケニエ…」


何ですって?


全ての魔物を倒し、剣を鞘に納めたミュース団長が私を振り返った。

「怪我は無いか、聖女殿?」

「あ、ハイ。無事です」

お陰様で、かすり傷ひとつありません。

「ありがとうございました。守ってくださって」

「貴方を守ることは特務団の専売特許では無い。当然のことです。フロスト、バレット殿へは自分が報告しよう」

報告っていうのは、魔物に襲われたことを、かしら。

ロゼさんは頷いてミュース団長に答えたわ。

「ああ、頼む」


「では」

一礼してお城に向かおうとしたミュース団長。

あ、待って!

「あの!」

呼びかけて、持っていたカゴから包みをひとつ取り出した。

「これ、どうぞ召し上がって下さい。良かったらミュース団長の師団にも呼んで下さいね?」

渡したのは唐揚げとおにぎりよ。私用だから、たくさんは入ってないんだけど。

「…しかし。いえ、ありがたくいただきましょう。お心遣い、感謝します」

にっこり笑って見せると、ミュース団長は頷いて受け取ってくれたわ。良かった。


それから第4師団へは、ロゼさんと2人の騎士さんの3人の護衛で向かったわ。その後は魔物に出会わずに団舎に行けたけど、王城から団舎までの遠くはない道のりに魔物が出るなんて、かなり異常な事態らしいの。


魔物が増えている。


ここのところ良くそう聞いていたけれど、ひょっとしてそれは私に関係していたのかしら…。

魔物は私を狙って、私を捕まえるためか殺すためか分からないけれど、そのために増えている…?


深刻に考え始めた私の思考は、第4師団団長の登場でどこかに吹っ飛んでいったわ。


「いらっしゃ〜い、アリスさま♡ お待ちしてましたワ」


野太い声、ミュース団長に劣らない立派な体躯、ゴツいと表現しても良さげなお顔立ち。だけど胸の前で両手を組んで()()をつくる仕草はなんだか可愛らしくて…。

ああ、うん。そっち系のひとね。

嫌いじゃないわ。


「初めまして、ありすです」

笑顔で応じると、第4師団の団長さんも豪快に微笑んだわ。

「あらあ〜、聞いていた通り可愛いのね♡ はじめまして、第4師団団長、リベルタ・ムスクよ。さあ、入って!」


通されたのは広いお部屋だったわ。

ミーティングルームだと言っていたけれど…。

「………」

いわゆる会議室とはだいぶ違うわね。

ピンクと白を基調にした内装。カーテンはフリルが付いているし、机は巨大なハート型だし、ふかふかの絨毯はパステルカラーの水玉模様だし。

ムスク団長の趣味なのね、きっと。


「みんな〜、アリスさまが来てくれたわよ〜」

ムスク団長の声に休憩中の騎士さんたちが一斉にこちらを見て歓声をあげた。

なんて言うか、おおーって、地響きみたいな声の集合体にたじろいでしまう。

わあ。

なんだかアイドルにでもなったみたいだわね。

「差し入れを頂いたからありがたく食べなさ〜い。それから不調のある者は近くにいらっしゃいね。ただし、お触り厳禁よ。近づき過ぎてフロスト団長に斬りかかられても助けてあげないわよ〜!」

あはは。言い方…。


「アリスさまはこちらへどうぞ。フロスト団長も座って下さい。今日はようこそいらして下さいました」


そう言って椅子を勧めてくれたのは長い銀髪を綺麗にまとめたすらりと背の高い美人さんだったわ。

わ、キレイなひと。

ナチュラルメイクだけど、唇はツヤツヤだし目元はパッチリ。見惚れてしまうわ。


ぽぅっと見つめていたら、美人さんはうふっと魅惑的に微笑んだの。

やだ。ドキドキしちゃう。

「副団長をしております。シェリーとお呼びください」

シェリーさんはそう言って紅茶を出してくれたわ。

女性の騎士さんなんて素敵だわ。しかも副団長!

少しハスキーなお声もカッコイイの。


キレイで強くてカッコイイお姉さま、ってかなり好きよ。ファンになってしまいそう。


すぐそばの椅子に座ったムスク団長も、繊細な仕草で紅茶を口に運ぶ。紅茶の香りを楽しむように鼻の下でカップを揺らして、すっと一口飲むと、ふーっと長く息をついたわ。

「今日は朝から西のパトロールだったんだけどねぇ」

逞しい足を色っぽく組んだムスク団長は、ロゼさんを流し見た。


うわぁ…。

ばっちん、って音がしそうなウインクしたわよ。


「何かあったのか?」

まったく動じていない風のロゼさんは、ちらりと視線をムスク団長に振った後、紅茶に目線を落としたわ。


…なんとなく、だけど。絶対目を合わせないぞという密かな意志を感じるわね。


ムスク団長は、はあ〜っと悩ましげなため息を吐いたわ。

「魔物がね。小物ばかりだけど、とにかく数が多いわ。はじから退治して結界を張り直したけど、何日も保たないわよ」


ムスク団長の言葉にロゼさんはきゅ、っと眉間にしわを寄せたわ。ちょっとなら険しい表情もステキよね。

ムスク団長の視線も釘付けよ。


「…そうか」


思案するように呟いたロゼさんに、ムスク団長は気を取り直すような明るい声で言ったわ。

「でも、大丈夫よ! うちと、第6と第8で結界は維持してみせるわ。魔道士団もかなり積極的に動いてるし、心配無いわよ!」


それからムスク団長は、ハッと思い出したように私を見ると、にっこり笑ったわ。

「アリスちゃんも、安心してね! 魔物は私たちが全〜部、やっつけちゃうから♡」


やだ、ムスク団長ったら。

私がいること忘れてたんじゃない?

ロゼさんばっかり見てたものね。ふふ。一途っぽい感じ、とても良いと思う。


「頼もしいです、ムスク団長」

「あらあ、リベルタって呼んで。リタでもいいわ」

「リタ、さん?」

「そう!」

リタさんは人差し指の先を唇の下に当てて、とっても優しく微笑んだわ。

「仲良くしましょう。でも、ロゼはあげないわ」


……怖っ。



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