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談判

翌日。


昨夜寝たのが遅い時間だったので、目が覚めたのはお昼近かった。

まあ、お寝坊は仕方ないわよね。

朝食兼用の昼食を済ませ、寝ボケた頭をスッキリさせてからバレットさんを呼んでもらった。


「お話しとはなんでしょう?」

今日は、座っているのは私とバレットさんだけ。

でもフェニさんはコーヒーを運んでくれたあと、部屋の隅に控えているし、様子伺いにやってきたロゼさんも窓際に立っている。

私は、バレットさんがコーヒーを口に運ぶ、その瞬間を狙って口を開いた。


「国中から、聖女を慰めるために容姿の優れた男性が集められている、という件です」

「⁈…ぐッ、ゲホッ‼︎」

バレットさんは、可哀想なくらい狙い通りに吹き出してしまったわ。

フェニさんが慌てて飛んで来た。

じとっ、と見つめると、バレットさんは取り繕うように笑顔を作ったわ。


「そのようなことはありませんよ?」

あら。誤魔化すのね?

「昨夜のパーティーで、想い合う方と婚約すら出来ない、と。それは聖女のために見目の良い男性の結婚が許可されないためだと、嘆いているご令嬢がいらっしゃいました」

バレットさんが息を飲んだわ。

「聖女に気に入られた奴は可哀想だと、そう話している男性の声も聞きました」

「………」


青ざめてしまったバレットさんの顔を見て、私は少し口調を緩めた。

「ねぇ、バレットさん。そんなことを言われる私が可哀想だとは思いませんか?」

バレットさんは黙ったままだ。

「私を射止めた方には富と名声が与えられるとか」

「っ、それは! 聖女さまの生活を保証するためです! 聖女さまの恋のお相手が、裕福な者とは限りません。ですから、生活に困窮されることのないよう取り計らったものです」

「そう? その割に、貴族の方にしかお会いしないよう、仕組まれていたようですけど」


気づいたのよ。

アベルさんが騎士団長ということは、畑や田んぼにいたのはアベルさんの部下の騎士団員なのではない?

そうだとするならば、農民のように振舞っていたあの人たちはみな、それなりの身分を持っている、ということになるわ。

「ご自身の出世や富や名声のために私を利用しようという方は、ご自由にされたらよろしいわ。だけど、想う相手がいて、その方と結ばれることを望んでいる方を無理やり留め置くのはどうかと思います。例えば、そういった方に私が恋をしたとして、その方は表向きはどうあれ、本心では私の想いを喜ばれない。むしろ、疎ましく思うのではないかしら。実は疎まれているということを私だけが知らない、まるで道化のような状態で、一体誰が幸せになれるかしら? 私も、その男性も、その男性の想いびとも、誰も幸せにはなれないと思うわ」

バレットさんはうつむいてしまった。


バレットさん、と呼びかけると沈痛な表情を浮かべた瞳が私を見たわ。

「私のために集められたという男性たちは解放してあげてください。バレットさんも、そういう要員として私付きに選ばれているのなら、他の方に代わっていただいて構いません」

もちろん、フェニさん、ロゼさんもね。

私はそう言って席を立った。


よく晴れた空を眺めながらお散歩に出た。

特にどこに行こうという考えもなかったのだけど、そうね、最初に実らせた、あのリンゴの木のところに行ってみようかしら。

確かこっちの方だった。のんびり歩いていると、すぐに目的の木が見えてきたわ。

「あー! せいじょさまだー‼︎」

高らかな子供の声に振り返ると、近くで遊んでいたらしい子供が3人、かけてきた。

「せいじょさま、こんにちは!」

「せいじょさま、どこにいくの?」

「せいじょさま、リンゴ食べたい!」

あはは。元気。

「こんにちは」

リンゴの木の前で期待した顔されると、ダメとは言い難いなあ。

だけどいいのかしら?

不公平、とかそういうの、問題にならない?

当然、ついて来ていたロゼさんに確認すると、問題ないそう。

それならと、リンゴの木に魔法をかける。


「グロウ」


そうそう、私、呪文をマスターしたのよ。

とても便利ね、呪文。魔力をコントロールしやすくて。

実ったリンゴをロゼさんにとってもらって子供たちに渡すと、嬉しそうに走って行った。そうして子供たちが遊んでいるのを眺めていたら、別の男の子がこちらに向かってくるのが見えたの。

あの子…。

私に、石を投げた子だ。


また投げられるんじゃないかと警戒したけれど、その子は大きな何かを抱えるように持っていて私の前まで来ると、ぴょこんと頭を下げた。

「せいじょさま、この前はごめんなさい! これ、せいじょさまが魔法をかけてくれた畑で採れたんだ」

え? なんだろう、ずいぶん大きい、サツマイモ?

「くれるの?」

男の子は大きく頷いてにかっと笑った。

「おれ、おおきくなったらせいじょののろいに負けないオトコになるんだ! じゃあな、畑にヤサイをいっぱいつくってくれて、ありがとう!」


手を振って見送ると、男の子が走って行った先にはあの時の女性が、彼の母親がいて、私に向かって深く頭を下げていた。

良かった。元気そう。

私はそのずっしり重たいサツマイモをしっかり持って、ロゼさんに声をかけた。

「帰りましょうか」


で、立ち上がったところにものすごいスピードで伝令鳥が飛んできたの!

伝令鳥はそのままの勢いでロゼさんに激突した。

「…っつ」

「わ。大丈夫ですか?」

「……バレットが、報告したいことがあるそうです」

光の鳥の伝言を、ロゼさんが伝えてくれた。


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