宴会
パーティー当日。
今日の私はオフホワイトのエンパイアラインのドレス。オーガンジー素材で、銀糸とところどころピンクの糸で小花の刺繍の施された可愛らしいデザインなの。
髪飾りにはインカローズがあしらわれているのよ。
この石は隣に立つエスコート役のサルド・クロシェさんの守護石なのですって。
シルバーグレーのスーツを着たサルドさんのタイ留めには、同じくインカローズがあしらわれている。こうしてパーティーに出席するカップルは、同じ石を身に付けてお揃い感を出すのが一般的な装いだそうよ。
「サルド・クロシェ卿、並びに聖女アリスさまご入場です」
会場の入り口で入場者をチェックしていた係りの人に通されて大ホールに入ると、そこにはすでに多くの人が集まっていた。
わあ、煌びやか!
美しい女性たちの華やかなドレスに目がいくわ。
この世界、イケメンも多いけれど、女性も美人が多いのよね。
「こちらへどうぞ、アリスさま」
サルドさんに誘導してもらって、さりげなく目立たないところに連れて行ってもらう。
「ありがとう、サルドさん」
「いいえ」
スッキリとした面立ちのイケメンさんであるサルドさんは、どこかやんちゃな雰囲気のあるひとよ。
実はサルドさんは、私付き師団の副団長なの。降嫁された王族の姫がお祖母様という、由緒正しい侯爵家の三男なんですって。
ロゼさん?
ロゼさんはパーティー用の騎士服姿で警備中よ。
目立たないところにいるとはいえ、チラチラと視線を感じるわ。
やっぱり聖女が珍しいのか、いえ、サルドさんが素敵だからかしら?
そうよ、見られているのが私とは限らないわ。
そっとサルドさんを盗み見るとすぐに気付かれて、なに?と目で聞かれる。
「サルドさん、素敵だなぁって思って」
「あはは、ありがと。アリスさまも可愛らしいですよ。ドレスも髪飾りもとっても似合ってる。ホント、今日は役得だなぁ」
そう言って、サルドさんは私のこめかみの辺りを指の背でそっと撫でたわ。
「…っ」
えっと、照れちゃいます。イケメンムーブはほどほどでお願いしますね。
そうこうしているうちに国王様が王妃様を伴ってお出ましになった。
国王様は以前お目にかかったときと同様、威風堂々としたお姿で、パーティーの開始を宣言されたわ。
そして、いよいよ、私が御前に呼ばれた。
フェニさんに教わった通り、真っ直ぐ立ってドレスをつまみ優雅にお辞儀をする。
優雅に、優雅に。どう? 上手くできたかしら?
「聖女、アリス。此度の尽力に感謝する。あなたがいなければ、このパンセレーノンは未だに深い雪に閉ざされ、飢饉に喘いでいだだろう。国民を代表して礼を述べる。ありがとう」
穏やかな声は心に染み渡るよう。
「礼として望みのものを与えよう。と言ってもすぐには決められないであろう。後ほど使者を
向かわせる。好きなものを所望せよ」
「ありがとうございます」
好きなもの…。なんでもいいのかしら。それとも社交辞令的なもので、言葉通りにとってはいけないのかもしれないわ。あとでフェニさんに相談しよう。
「ときに、臥せっていたと聞くが、体調はもう良いのか?」
「はい。息災でおります」
「御身大事に。健やかに過ごされよ」
「ありがとうございます」
うむ、と頷かれた国王様に私はもう一度、優雅にお辞儀をしたわ。
そこからは本格的な舞踏会の始まりよ。
楽団の演奏が始まって、皆が思い思いに踊り出す。
サルドさんも私の手を取ったのだけど、そこに伝令鳥がやって来た。伝令鳥は魔法で出来た光の小鳥さんよ。小鳥はサルドさんの手のひらで二言三言さえずると、キラキラと光の粒子になって消えてしまった。
サルドさんはため息をついたわ。
「すみません、アリスさま。緊急事態のようです。少し席を外しますね」
「ええ、サルドさん。私は大丈夫。いってらっしゃい」
サルドさんは控えていたエマに合図をすると、私の手の甲に口づけ(!)をしてから足早にホールを出て行った。
あ、ははは…。
本当、心臓に悪いわ。イケメンムーブ、やめてほしい。
「アリスさま、なにか召し上がりませんか? あちらのテーブル、美味しそうですよ」
あら、そう?
エマに料理を取り分けてもらっていただくことにする。
わあ、お肉、柔らかくて美味しい!
そうやってもりもり食べていると、次々と声をかけられたわ。
どこぞの侯爵さま、伯爵さま、子爵さま。さっぱり覚えられないけど、エマが上手くあしらってくれるから、馬鹿みたいにただニコニコ笑っていればいい。
「聖女さま、どうぞ、ダンスを一曲踊っていただけませんか?」
青い瞳の素敵な侯爵令息さまに誘われて、きたな、と思う。
大げさに困り顔を作って目配せすると、私の横にサッとエマが進み出て、失礼にならないように丁寧な口調で言ったの。
「恐れながら、聖女さまはパートナーのクロシェ卿が離席されているためファーストダンスを踊られていません。クロシェ卿が戻られるのを待ちたい、というのが聖女さまの意向でございます。どうぞ、ご理解遊ばされますよう」
「それは…。残念ですが、それでは仕方ありませんね。クロシェ卿が戻られたら、またお願いに伺いましょう」
よし!狙い通り‼︎
私はエマの影でこっそりガッツポーズしたわ!
この国の舞踏会では、その日最初のファーストダンスは当日のパートナーと踊る習わしがあるの。お互いに、自分のパートナーと最初のダンスを踊る権利を持っているのよ。
だから、まだパートナーと踊っていないひとをダンスに誘うのはマナー違反なの。
そのことを聞いた私は考えたわ。何か不測の事態が起こって、ファーストダンスを踊ることが出来なければ、他の人に誘われても踊らなくて済むんじゃないかってね。
サルドさんが伝令鳥に呼び出されたのは計画通り。このまま、ダンスの時間が終わるまでは戻って来ないことになっているのよ。
私の計画に、ロゼさんは否定的だった。最初はロゼさんがパートナーの予定だったからね。近くにいられないと護衛が出来ない、と難色を示したのよ。
で、パートナーをサルドさんにお願いすることになったの。
計画通りにダンスを踊らずに済みそうで、安心したら油断してしまったみたい。
レースの手袋の上から嵌めていた指輪が落ちてしまったの!
やば…!
緩いなと思っていたのよ。気をつけていたのに!
コトンって音がしたわ。床に落ちたはずよ。
必死に目を凝らしたら、前の方、転がっていく指輪が見えた。
待って!
ナントカ子爵の相手をエマに任せて、私はこっそり指輪を追いかけた。




