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ふわふわ、ゆらゆら、意識が揺蕩う。

目を閉じていても明るいことが分かるように、時々、なんとなく周囲が白んで見えるのは、眠りが浅くなっているときなんだろう。

深く眠りに落ちているときのことは分からない。だけど、ふと、白い、と思うの。

まだ、眠りは覚めなくて、まだまだ瞼は重たくて、白いなと思うだけで、また暗い闇の底にただ沈んでいく。闇は暖かくて優しくて、ずっとそこにいたいと思うのに、気がつくと白いの。

ああ、また。

まただ。そう思ったとき、その声は聞こえた。


「様子はどうだ?」

…ロゼさん? 声はロゼさんだけど、口調が少し違う…? なんだかつっけんどんに聞こえるわ。いつもはもっと穏やかというか優しい感じなのに。

「変わらないよ。よく寝てる」

この声はバレットさんね。少し沈んだ声ね、何かあったのかしら。

「酷い顔色だ…」

「過労だよ。ちゃんと休めば良くなる」

…ため息?

「ずっと、無理をされていたんですね。様子に変わりは無かったですし、ずっと笑顔でいらしたので見逃してしまいました。すみません」

「気づかなかったのは俺も同じだ。途中からはずいぶんと楽しそうに現場に向かうようになっていたからな。こんなに負担を掛けていたとは思わなかった。今回の件、カウム宰相補は相当お怒りらしいな」

「お怒りなんてもんじゃないよ? 激怒してたよ、激怒! 僕、あんなに声を荒げて怒るカウム殿を見たの、初めてだもの。出来れば見たくなかったけどね」

「聖女さまには頼り過ぎない甘えない無理をさせない、は宮廷の基本方針だからな」

「カウム殿にさんざん怒鳴られた上に、王様からも叱責を受けなきゃいけないんだよー。滅入るよー」

「仕方ありません。甘んじて受けて来てください。アリスさまを、倒れるまで働かせてしまったのですから。可哀想なことを、してしまいましたね」

「…………」


私のせい? 私のせいでみんな悲しそうなの? ああダメ。眠すぎて、ちゃんと考えられない。

フェニさん、私、大丈夫だよ?


「アリスさまは、どうしてこんなに協力してくれるんでしょう」

「どうして、とは?」

「だって、無理やり拉致されてきたようなものでしょう? 我々の国の利益のために。家族を失い故郷を失い、将来の夢も希望も全て奪われて。先代の例があるので怖くて聞けませんが、恋人もいたかもしれないですよね? …私たちを、恨んではいないのでしょうか」

「…恨んでねぇことはねぇだろ」

「だよねえ。文明の進化も、習慣も風習も、まるで違うらしいじゃない? そんな所に突然連れてこられて、生活するだけで大変だったろうにね。頑張ってくれたよね」

「ええ。とても、健気にね。もっと、詰られたり罵倒されたりするものだと思っていたので、アリスさまの有り様は、意外です」

「………も、…と、………して……だ」

「…………」


沈んでいく。声が、遠ざかっていく。眠い。沈んで沈んで、闇が深くなって、やがて、静寂が私を抱きしめた。


目が覚めたのは夜明け前だった。室内はまだ暗くて、でも窓の外は白んでいて、もうじき朝が来るのだと分かったわ。

私に与えられた部屋は大きなお城の東側の一階。テラスがあって、そこから外に出るとちょっとした広さの庭がある。

窓を開けると、冬の始めの冷たい空気に身が引き締まるよう。テラスに置かれたガーデンベンチに膝を抱くように腰掛けて、お日様が昇るのを眺めた。

朝の太陽は清廉な空気を生んで全てを洗い浄めるように暖かく照らしてゆく。

本当に、こころが洗われるようね。穏やかで、心地いい。

私は、抱きしめた膝に頬を乗せ、目を閉じる。

全身に感じる暖かな光は、きっと、元の世界を照らす光と同じだから。

だから、大丈夫。


どのくらいそうしていたのか。背後でコトリと音がして、小さく息を飲む気配がした。

「…っ、アリスさま? アリスさま…?」

エマ?

振り返ると、開け放していた掃き出し窓から、エマがテラスに出てくるところだった。

「おはよう、エマ」

「アリスさま!」


私を見つけたエマの顔がくしゃっと泣き顔になったわ。

あらあら、美人が台無しよ?

ポロポロと涙を零しながら、駆け寄って来たエマが私を抱きしめた。

「…い、いなくなってしまったかと、思いました」

やだ。大げさよ。

それに…。いなくなったりは、出来ないわ。

私はそっと、エマを抱き返した。

「ごめんね。心配させて」

「いいえ、いいえ…! お目覚めになられて、良かったです。本当に、良かった…!」

そう言ったエマの泣き笑いの顔が、まるでお日様のようで眩しくて、見ていられなくて。

私はそっと、目を伏せた。


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