(6話)
王城での夜会の後、週に2日ほどのペースで夜会に出席した。多い人は連日のように何処かの夜会に出席しているらしいが、私はエスコート役のライゼルお兄様がこちらに来られない時は基本欠席である。そんな社交シーズンも終わりに近づいた頃、夜会のエスコートをライゼルお兄様ではなくベルが務める事になった。
「ヴィー、今日もキレイだ。エスコート出来て嬉しいよ。」
何だか夜会で会う最近のベルはちょっとおかしい。
夜会で会えば私とのみ踊り、お兄様と一緒にガードするかのように男性たちを私から遠ざける。夜会って公開お見合いみたいなものじゃなかったけ?お兄様も私の結婚相手候補を捜すようお父様に言われてないのかしら。まあ私は西鬼としてバリバリ働きたいから、普通の令嬢のように卒業即結婚は遠慮したいからいいいけど。社交界で探さなくとも既に西鬼内で候補者がいるのかも知れないしね。娘大好きお父様が私を遠くに嫁がせるなんて想像できないし。そんなふうに1人考えていた。
今夜の夜会も中盤を過ぎた頃、ベルに誘われテラスへ休憩に出た。
「ヴィー、俺の事どう思う?」
「どうって?」
不意に投げかけられた質問の意図が分からず首をかしげていると、頬に柔らかく温かなものが触れた。
「俺はヴィーの事はただの幼馴染じゃなくて・・・・、ずっと昔から好きだ。」
ベルが私にキスを!!
一気に体温が上がる。たぶん首から上は真っ赤であると思う。じっと私の目を見つめ続けるベルの目から私も視線を外す事ができない。でも何て答えていいのか分からない。少しパニックになっている私は口をパクパクさせていた。
「ははは。ヴィー、こんなに薄暗くても分かるくらい真っ赤。」
「かっ、からかったの!」
からかわれたのかと思い笑うベルに腹がたった。
「ごめん、笑って。真っ赤なヴィーが可愛かったから。・・・・、今日、今逃したら伝えるきかいが無いような気がして。でも、やっぱりヴィーに俺の思い伝わって無かったかー。ほんとヴィーは鈍感だよな。」
「どっ、鈍感って!失礼ね!私、察知能力には自信あるわ!」
「知ってるよ。でも自分に関する恋愛関係はダメダメだろ?俺の事も分かって無かったし。アルのことも。こんなに分かりやすく、ずっと近くにいるのにさ。周りのやつらは気づいてるぞ。」
「うそ!」
何?私の事をベルが女性として好きで、しかも周りの人はそれを知ってて、知らないの私だけって事?マジで!!
この後、会場に戻るのも、違う夜会に出るのも、学院に行く事も恥ずかしい。まだプチパニックから立ち直れないでいる私に追い打ちをかける話を聞かされた。
「ヴィー?実はもうカルヴィン公爵家には婚約申し込みしてあるんだ。その上で今日の夜会のエスコートを公爵家は俺に任せてくれた。それってどう言う事かわかるか?」
「どう言う事か?」
「そう。・・・、俺はヴィーの婚約者候補として認めてくれたって事かな?」
「婚約者?」
「うん、まだ候補だけどな。・・・・、ヴィー、これから先ずっと俺の隣にいてくれないか?」
婚約者!?ベルが私の?お父様からもお兄様からも何も聞いてない。
この先ずっと隣に・・・って、プロポーズだよね。私はますますパニックに陥ってしまった。
私が余りにも動揺しているので、ベルが主催者に挨拶をしてくれ早めに家に帰る事が出来た。
予定より早く帰宅した上に、私の様子が変だと気がついたお父様がベルを別室に呼んだ。たぶん私の事を聞くんだろうな。
夜会が行われたのは週末、学院も休みのため2日はベルに顔を合わせることは無い。休み明けちゃんとベルと顔を合わせられるか心配だ。2日間でちゃんと頭の中整理しなくてわ。その為にもお父様にちゃんと話を聞かないと、そう思ってお父様の執務室に出向いた。
「お父様、少しお聞きしたい事があります。」
「ベルナルドの事か?」
「はい。」
執務室にはお母様もいた。お父様は仕事の手を止め2人はソファーに座った。
「あの・・・。ベルから昨日、私に婚約申し込みをしていると聞きました。本当ですか?」
「ああ、本当だよ。正式にバーンスタイン公爵家から申し込まれている。」
ベルが婚約者候補だと言うのは本当だった。しかもバーンスタイン公爵家以外にも数家から申し込みがきていると言う。
「ヴィーはベルナルドと結婚するのは嫌か?ヴィーにはイネスと私のように好きな人と出来るだけ結ばれて欲しいと思っている。ヴィーの気持ちが一番だから、勝手に婚約者を決めたりしないから安心しなさい。」
婚約者をすっ飛ばし結婚という言葉に驚いた。
「ベルに何も不満なんてない。でも急に昨日。すっ、すっ・・・、婚約者候補だって言われて、ちょっと思考が追い付かなくて。」
「まあ!好きって言われたのね!」
「おっ、お母様!」
またもや私の顔は真っ赤だろう。
「ふふふ、可愛い。ヴィーはベルナルドの事、今まで幼馴染としか思って無かったものね。でも一度もベルナルドに対してドキッとした事ない?」
社交界にデビューしてから見かけるベルは学院で見るものとも、昔から知っているものとも全く違い正直初めて夜会で会った時はドキリとした。ダンスを踊る時は何度踊ってもドキドキしっぱなしだ。でもこれが恋心なのか正直分からない。前世でもお付き合いをした人は何人か、嫌ウソ、1人だけいた。でも正直なところ私が恋をして好きで好きで付き合ったわけじゃないから、よく分からない。
「ヴィー、今ベルナルドはいつもあなたの傍にいてくれるわよね?」
「はい。」
「もしベルナルドが他の誰かと婚約する事になったら、あなたと今までのように一緒にいれなくなるわ。いくら幼馴染でも異性だもの。不謹慎と思われるから。そうなったらどうする?」
お母様の言葉を聞いてすぐに思い浮かんだ言葉『嫌だ』。ベルと離れる?想像すら出来ない。隣には私以外の誰か立ってる・・・。
「ふふ、分かったみたいね。自分の気持ち。あなたシーズン最後の王城での夜会はベルがエスコートでいいわよね?」
「あー、よろしくないけど、よろしい。・・・、くそっ!ヴィーはずっと近くにいさせるつもりだったのに、しかも国の端と端だぞ。」
「でも、バーンスタイン公爵家なら定例会が2カ月に一度は開かれるのだし、その時に会えるでしょ?王家に嫁ぐとなったら、いくら娘でもそんなに頻繁に会えないわよ。それこそ年に2度の夜会だけかもしれない。」
「うーん、それと比べるとな・・・。」
とりあえず、ベルと婚約成立って事?
それよりお母様、何か今爆弾発言しませんでした?王家に嫁ぐとかどうとか。その話、私は聞かなかったことにしてスルーでいいかしら?これ以上頭がパニックになりたくないのでスルーさせて頂きます。