(5話)
「ヴィー、お前のデビューが決まった。来月行われる王城での夜会だ。エスコートはライゼルにさせるから安心しろ。アイツはああ見えて意外と夜会なれしてるからな。」
そう私に伝えた後もお父様は『はー、学院に通い出したから、これ以上デビューを遅らせる事も出来んし、いっそのこと学院の入学も1年遅らせればよかったか・・・』と1人ブツブツ言っている。これはスルーの方向で良いのでしょうかね?
11月の最後の日、王宮から夜会の招待状が届いた。今年は父母と兄夫婦に並び私の名前も書いてある。あまり人が多い所は好きではないが、招待状に自分の名前が書いてあるのは何だか嬉しくてウキウキする。
翌日、学院に行くと教室の前で殿下が待っていた。
「ヴィオレッタ嬢、おはよう。」
「おはようございます、殿下。」
「招待状届いた?今年の夜会はヴィオレッタ嬢のデビューだから楽しみにしているよ。ところでエスコートは誰が務めるんだ?まさかベル?」
「いいえ、ライゼルお兄様ですわ。私のデビューのエスコートが出来るってはしゃいで大変です。」
「ライゼル?じゃあレベッカ様は?」
「お義姉さま、体調がすぐれないので今回は欠席させて頂きますの。なので兄が私のエスコートをしてくれるんです。」
「そうか、でも奥さんが体調悪いのにライゼルこっちに来て大丈夫なの?いくら転移で直ぐに戻れるからと言っても。」
「殿下、内緒ですわよ。」
「?」
「お義姉さまの体調不良はつわりですので。」
殿下と別れ教室に入ったとたんベルとアリス達が『デビューするのか・・・』「デビューするのね!』と駆け寄って来た。ん?でもアリス達が嬉しそうにニコニコしているのに対して、ベルは何だか不機嫌?落ち込んでる?なんでだ?
そして私のデビューの話は瞬く間に広がり、タウンハウスには夜会やお茶会のお誘いの手紙が山ほど届いた。それを12月に入り王都にやって来たお母様がお父様やトミーと相談しながら仕分けをしている。『出席・欠席・保留』の3つの山に分けているのだが、出席の山が一番小さいとは言え、あれだけの夜会に出なくてはいけないのかと思うと今から憂鬱で仕方がない。
憂鬱な原因のもう1つがドレス。お母様が領地から十数枚のドレスを用意して来てくれた。どれも見ている分には綺麗だし好きなのだが、いざ自分が着るとなるとコルセットを締めなければならないのだ。他の令嬢たちよりは全然緩めの物ではあるのだが動きにくくて嫌だ。それにコルセットは体にもあまり良くないと前世で聞いたことがある。きついコルセットを着け続けた事で骨格が歪み出産時にリスクが高まると。あっ、アリス達にもこの情報を教えて、みんなに広まればコルセット無くなるんじゃないの?なんて思いながらしばし現実逃避していた。
ついにデビュー当日がやって来た。ライゼルお兄様にエスコートされ会場に入ると、周りから視線が集まる。
『カルヴィン公爵家のヴィオレッタ様よ。噂では武道で鍛えた体つきとか言ってなかった?』
『聞いたことある。雌ゴリラみたいだとかって聞いてたのに。』
みんな小声で話してるけど聞こえてますよー。西鬼の魔力忘れてませんかー。
「ヴィー、凄い言われようだな。」
「ホントに。でもお父様の入場前で良かったですわ。」
「確かに。」
お父様の耳にこんなことが聞こえれば、娘バカなお父様はその場で断罪しそうである。そんな事にならずに良かったと兄と2人ホッと息ついた所で、王族の入場の音楽が鳴り響いた。
王城で開催される社交シーズン初めと終わりの夜会に貴族は基本出席せねばならない。そしてその2つの夜会だけは東龍バーンスタイン公爵と西鬼カルヴィン公爵が王族の入場する際、前後に付くのだ。
席に着いたマーフィー国王がこの夜会でデビューする子息息女12名の名前を読み上げる。高爵位順に呼ばれるので、今回は私が1番初めに呼ばれた。陛下の前まで出て行きカーテシーをする。最後の1人が呼ばれ陛下のお声がかかるまで頭を上げずに体制を崩さず保たなければならない。もしこの時体制を崩そうものなら、咎められはしないが『あの子は出来ない子』認定を貴族社会の中でされてしまうので親たちもハラハラしながら見守っている。まあそこは日ごろから体幹を鍛えている私にはお茶の子さいさいですが。
陛下の挨拶が終わりファーストダンスを陛下と王妃様が踊られる。その後はそれぞれがエスコートされた相手と踊り、他の方と踊たり話をしたりと各々が夜会を楽しむのである。
私もライゼルお兄様とファーストダンスを踊り一息ついたところにベルがやって来た。
「ヴィー、デビューおめでとう。」
「ありがと。」
「1曲踊ってもらえますか?」
いつものベルと服装も態度も違いドキッとする。
「よろこんで。・・・あっ、お兄様いいよね?」
今日のお目付け役のお兄様に確認を取る。今日だけは1人勝手にダンスや会話の誘いを受けないようにと言われている。ベルの事をジトッと睨みながらも『いいよ、ダンス楽しんでおいで』と送り出してくれた。
「ベル、何だかいつもと違う雰囲気だから変な感じね。」
「ん?ドキドキした?」
「んー、なんか落ち着かない。」
「俺は今日のヴィー、すごくキレイでドキドキしてるけど。それに家族以外で俺がヴィーの一番最初のダンスの相手になれてうれしいし。」
そんな会話をしながらベルとのダンスを楽しんでお兄様の元に戻った。するとそこにはアルバート殿下が、私が戻って来るのを待っていた。
「ヴィオレッタ嬢、デビューおめでとう。1曲お願いできますか?」
チラッと兄の方を見たが、さすがに兄もNOとは言えない相手なので何も言わない。
「はい、よろこんで。」
殿下の手を取りまたホールの中央へと行く。ベルと踊っている時も多くの視線を感じていたが、今回はより多くの刺すような鋭い視線がチラホラ。そうでなくともクラスに殿下が訪れることで、陰で何かと言われているのに『はー、私の学院生活大丈夫かしら』と心配になる。
殿下と踊り終え兄とベルのもとへ戻ると兄はベルに『ヴィーの事ちょっと見てて』と知り合いに挨拶をしに行ってしまった。しかし『ちょっと見てて』って小さい子じゃないのに失礼しちゃうわ!