(4話)
入学式から2週間が経ち、ベルのお迎えも今日からお断りした。もうそろそろ1人で行動しなければ。初日に私を取り囲み質問攻めにしたオリビア・ディキンソン公爵令嬢、アメリア・クロフォード侯爵令嬢、リリー・ジョハンソン公爵令嬢の3人もあれ以来私を囲むことは無い。離れた所で何やら言っている様子はあるが気にしない。だって私には友達が出来たから。席が近く彼女たちに囲まれた後、声をかけてくれたアリス・バドワーズ伯爵令嬢、ラウラ・パディンソン伯爵令嬢、ケイラー・オルコット侯爵令嬢。まだ2週間だが彼女たちとは気が合い話も楽しい。ベルもそんな私を付かず離れずの位置でいつも見守ってくれている。
ある日、馬車が途中で故障し迎えが少し遅くなると連絡があったので、迎えが到着するまで図書館で時間をつぶしていた。
「ヴィオレッタ嬢・・・」
名前を呼ばれ顔をあげると見覚えのある人物がいる。
「アルバート殿下?」
見覚えがあると言っても3年も前に1度あっただけの人、確信はなかったが名前を呼んでみた。名前を呼ばれた殿下は顔一面の笑顔で『覚えていてくれたんだね』と、とても嬉しそうだった。それから少し話をし、馬車を待っていると言うと『僕が送るよ』と言う。ここは端だが王城の一角にある学院だ。わざわざ王族に城内から出て送ってもらうなんて、遠慮したい。何処で誰が見ているか分からない、また女子たちに囲まれるのは嫌だ。『送る』『結構です』と問答している間に、うちの馬車が到着したと警備の人が知らせてくれた。
助かった・・・。これから待ち時間がある時は自分のクラスで待とう。
「ヴィー、昨日アルに会ったんだって?」
翌日、登校するなりベルに捕まり尋問されている。
「ん?そうだけど、ベルが何で知ってんの?」
「本人に聞いた。『ヴィオレッタ嬢と会ったのは3年前に1度だけなのに覚えててくれたよ』ってニコニコ顔で報告されたからな。」
「うん、見たことある人だなーって、自信無かったけど王子に間違われて気を悪くする人いないでしょ?だから思い切って名前呼んでみたら当たってた!間違わなくてよかったよ。」
「ぶっ、ははは!お前アルだって分かってたんじゃないの?あいつムッチャ喜んでたのに可哀そー。今度教えてやろっと。」
「ちょっ、やめてよ絶対!私、不敬になるでしょ!」
「そん時は一緒に謝ってやるよ。よし!教室行くか!」
さっきまでの不機嫌さはどこに行ったのか、ベルは鼻歌を歌いながら歩いている。
何だったんだろう・・・。
その日の昼休み、なんと殿下が教室までやって来た。
「ヴィオレッタ嬢、ランチ一緒に行かない?」
「えっ、えーっと。」
無下に殿下の誘いをお断りして不敬になっても困るし・・・
返事に困っているとベルが慌てて飛んで来て、殿下を廊下の端まで引きずって行った。
殿下相手にあんな態度を取れるベルはやっぱり凄いわ。
「アル!何考えてんだ!ヴィーはまだ学院での友達作り強化月間中なんだぞ!アルがヴィーの近くにへばりつくと、作れる友達も人脈も出来なくなるだろ!」
「ベル、君はいいよね、同じクラスだし、幼馴染だし。僕はこうでもしないと彼女と話すらするチャンスはないんだよ。3年待ったんだよ、ラファエル殿がデビューもさせず、領地から彼女を出す事もしなかった。やっと彼女、ヴィオレッタ嬢と繋がりが出来たんだ。」
「アル、お前まだヴィーの事諦めてなかったのか。」
「当り前だろ。」
私はベルとアルバート殿下がこんな会話をしているとは露ほども思わず、アリス達とランチを食べにさっさと教室を出た。
その後も何度か殿下は教室にやって来てはランチに誘うので、ベルとアリス、ラウラ、ケイラーも同席ならと承諾し、週に1度の殿下とのランチタイムがお決まりになった。
おかげで、オリビア3人組以外に上級生数名にも目を付けられた。ホント勘弁してほしい。遠巻きで嫌味など言われる事はもちろんだが、わざと足を出したり体にあたってきたり・・・。まあそこは幼き頃より訓練もしているし、何より身体能力には自信がある。寸前でヒョイと避けると『何で転ばないのよ』と悔しそうな声が聞こえたり、中には逆に自分が転んだりしている者もいる。
そんなこんなで何とか無事に1学期も終わりに近づいた。
そして11月に入りお父様が王都に来られ、12月から始まる社交シーズン最初の王城で開かれる夜会で私も社交デビューする事になった。