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(3話)

 それから数年の月日が過ぎ、私も王都にある国立学院に入学する事になった。これから3年間は王都にあるタウンハウスで父と母そしてライゼルお兄様とも離れて暮らす事になる。


 国立学院とは15歳から18歳の貴族の子息、息女が通う学校である。18歳で学院を卒業後は大学院で後2年間専門的な分野の勉学に励む者、騎士学院で騎士見習いとして騎士を目指す者、それぞれの家に戻る者など様々である。

 ちなみにライゼルお兄様も学院を卒業した後、騎士学院で2年見習いをし、20歳の時領地に戻ってきた。そして今は西鬼の第一騎士団の団長をしている。令嬢としては異例だが私も父と母の許しが出れば卒業後は騎士学院に進みたい。




 入学式の朝、邸までベルナルドが迎えにやって来た。


「おはよ、ヴィー。」

「おはよ。ベルどうしたの?こんな早くから。」

「えっ、入学式一緒に行くって約束忘れたのか?」


 あっ、この前のバーンスタイン公爵領との定例会議に付いてきたベルと約束したような・・・。


「忘れてたな、その顔は。」

「ははは・・・、ごめん。思い出しました。」

「そんな事だろうと思ったよ。だから早めに迎えに来たんだよ。」


 3年前の王宮でのお茶会以来、王都へはもちろんだが私が領地から出る事をお父様はよしとしなかった。今までバーンスタイン公爵領に行く時は同行させてくれていたのに、それさえも連れて行ってもらえなくなった。しかも普通15歳になると社交界デビューをするのだが、私はまだデビューすらさせてもらえていない。そのため学院へ入学する頃には通常なら友人や知り合いが出来ているのだが、もちろんデビューもしていない私には友人や知り合いもいない。ベル以外・・・。

 普段あまり物怖じしない私だが、同年代の子息令嬢が沢山集まる場所は3年前のあのお茶会のみ。昨日から緊張し余り寝れなかった。だからベルが来てくれてホッとした。


 予定より少し早いがベルの馬車に乗り、学院へ向かう事にした。


「ヴィー、大丈夫か?お前、顔色良くないぞ?」

「ん?ちょっとね、緊張してる。同年代の子達がいっぱいいる所に行くの3年ぶりだし、初めてみたいなものだし。」

「あー、お前デビューまだだもんな。ラファエル様も何で去年デビューさせなかったんだ?病気だったわけでもないし。」

「さあ。・・・ベル、ありがと。ベルが一緒にいてくれるから、ちょっと落ち着いてきた。1人で行ってたら馬車の中で心臓ドキドキしっぱなしで大変だったと思う。」

「ああ。」


 いつもの様に緊張をしている事を言うとからかわれると思っていたのに・・・。

 この時の私は子供の頃から気心の知れたベルが一緒で良かったと安心しきっていた。

 しかし学院に到着し外へ一歩出た瞬間、ベルと登校した事を少し後悔することになった。



 学院の馬車止めに到着しドアを御者が開けてくれた。すると外から『キャー、バーンスタイン公爵家の馬車よ』とか『ベルナルド様がお着きになったわ』など令嬢の喜ぶ声が聞こえる。

『着いたぞ』とベルが先に降り、手を差し出してくれるが、直ぐに手を取れない。『これは一緒に来たのまずかった?』と馬車の中で躊躇していると


「酔ったか?保健室で休ませてもらうか?」


 そう言いながらベルが私を抱きかかえようとした。


「酔ってない!ちょっと緊張して動けなかっただけ!今降りるから!」


 慌ててベルの手を取り馬車から降りた。すると案の定、『あれ誰?』『ベルナルド様と一緒に登校って・・・』令嬢たちの射るような目線が私に集まった。それもそうだ、幼い頃から一緒にいた私は忘れがちだが、ベルはバーンスタイン公爵嫡男なうえ容姿端麗、成績優秀。多くの家の令嬢がベルの横を狙っているのだ。


「ほら行くぞ!」


 馬車を降りる時に繋がれた手をそのままに学院の中へ歩き出すベルは彼女たちの声が聞こえてないのか全くいつもの通りである。


「わかったから!ちゃんと着いて行くから手を離して。」

「ダメ。ヴィーが迷子になると困る。ほらクラス発表見に行くぞ。その後、講堂に行くから。ほら、人多くてきたし気をつけろよ。」

「はい・・・。」


 想像以上に広い学院。ベルとはぐれるとクラス発表を見て講堂まで・・・たどり着ける気がしない。外なら太陽や星で方角がだいたい分かるから迷わない自信あるのに・・・。




 クラスは3クラスあり、事前のテスト結果によって分けられていた。もちろん私もベルもAクラスだった。毎年クラスの編成はされるが、基本成績順なのでほぼ変わらないらしい。

 入学式が終わり教室に移動、席は決められておりベルとは少し離れてしまった。席に着いたとたん数人のクラスメイトに囲まれた。


「あなたが私たちの代で唯一デビューしていないヴィオレッタ・カルヴィン?」

「ねえ、なんでバーンスタイン様と登校なさってたの?婚約者ではないのでしょ?」


 次々と質問が飛んでくる。私はあっけにとられ固まってしまった。


「ヴィーが固まってる。君たちも少し落ち着いてくれるか?・・・・ヴィー、おーい!戻ってこーい!」


 ベルが私の目の前で手をひらひらさせて・・・


「ごめん、余りの衝撃に思考が・・・」

「しょうがないよ、ヴィーはこういうの初めてだしな。」


 そう言い、私の頭をポンポンと撫でた後、令嬢たちの質問にベルが答えだした。


「今日俺と一緒に来たのは、ヴィーはまだデビューしていないし、公爵の考えで領地からもほとんど出たことが無い。だから同年代の知り合いも俺以外にいない。困る事も多いだろうと思って一緒に登校した。あとは・・・、デビューについては公爵が決める事だから知らん、以上!」


 そうベルが言ったところで教室に先生がいらした。私を取り囲んでいた令嬢たちも、遠巻きで話を聞いていた人たちも自分の席に戻って行った。ベルももう一度私の頭を撫で自分の席へ着いた。

 その後は先程の令嬢たちが私に言い寄る事もなく、席が近い他の子たちが話しかけてくれた。その子たちは穏やかで先程のような事になることは無かった。ベルも自分の席で友達らしき人と話をしていたが、こちらを気にかけて見守ってくれていた。




 やっと家に帰って来た。『初めての学校の感想は?』と聞かれれば、『疲れた。女子こわー。』である。前世でも女子を20数年していたが、この世界の女子、いや令嬢の一部だろうが世界最強クラスではなかろうか。私は3年間耐えられる?・・・・ちょっと自信が無くなった。

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