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第四話

 ユニスとラヴィニアの二人が院長室に戻る。


 その狭い部屋には、ベッドから身を起こした院長と、それを介助するハンナ。

 そして、二人を威圧するように立つ三人のチンピラ風の男たちの姿があった。


 ユニスとラヴィニアは、入り口脇の壁に背中を預け、状況を見守ることにした。


 二人が入ってきたことに気付いた男たち──そのリーダーらしき男は、二人にちらと視線を送ると、不愉快そうに舌打ちだけして話を続けた。


「もう一度言うぜ、院長さんよ。借りた金は返さないといけねぇ。そうだよな?」


「ええ。おっしゃる通りです」


 院長のバイロンは男のほうを真っ直ぐに見すえ、そう答える。

 その目を見た男は、苛立たしげにギリと歯を噛む。


「だったら、払うべきものを払えねぇときにはどうすんだって、俺はさっきからそう聞いてんだよ。なあ?」


「はい。ですからこちらも、お借りした元本に関しては、契約通りに返済させていただいていると──」


「だから元本どうのじゃねぇつってんだろうが! テメェの借金は利子でどんどん嵩んでんだ! それをどう落とし前つけるかって聞いてんだよ!」


 男が恫喝するように怒鳴ると、院長のかたわらにいたハンナがびくっと震える。

 ハンナは明らかに、男たちに怯えていた。


 それを見たラヴィニアは、ハンナに向かってちょいちょいと手招きする。


 ハンナがラヴィニアの隣に来ると、魔法使いの少女はハンナを部屋の外、廊下に連れ出して質問をした。


「……ねぇ、どういう事情?」


「彼らは借金取りです。院長が以前に一度、ここの経営に苦しんで街の金貸しから借金をしてしまったことがあったんですけど、その利子があまりにも高額で……」


「えー、またどうしてそんなところから借りちゃったの?」


「私も詳しくは……。でも、そのときすぐに貸してくれるのがそこだけだったのと、何よりすぐに返せる見込みがあったって。でも、そこで院長が病気で倒れてしまって、その見込みがなくなってしまったって……」


「あちゃあ、最悪だな……。じゃあ向こうの言ってることも、一応スジは通ってるんだ」


「ええ……でも……」


「でも?」


「おかしいんです。確かに借金の総額は少しずつ膨らんでいるけど、最低限の元本の返済は契約通りに行っているんです。将来的に返済の見込みが立たないのはあるとしても、現段階であそこまで強く出てくるのが……」


「んー……なるほどねぇ……。向こうの言い分も分からないでもないけど、でも確かに、あそこまで強く出てくるのは違和感あるかなぁ。何か事を急がなきゃいけない事情がある、みたいな。──ちなみに、アルが悪者だとか何とか言ってたのは?」


「あれはただのアルの思い込み……ですけど、正直に言って私も、あの人たちが真っ当な人たちとは思えません」


「それは同感だね。アルぐらい単純だと、そりゃあ悪者って思うか」


 それだけ話して、二人は部屋の中に戻る。


 部屋の中ではまた少し話が進み、男たちのリーダーが一枚の紙面を院長に突きつけているところだった。


「書き付けだ。来月までに借金全額返済できなけりゃ、このボロ孤児院の土地と建物全部、そっくりアーロン商会に譲渡だ。いいな?」


「いえ、それは承諾できません。こちらはまだ、契約通りに返済をしているのですから──」


「──だぁらそれじゃ足りねぇっつってんだよ! ナメたこと抜かしてんじゃねぇぞジジィ!」


 チンピラ風の男たちのうち、後ろに控えていたうちの一人が、院長が寝ているベッドの足を思いきり蹴り飛ばした。


 それにより、老朽化していたベッドの脚が折れてしまい、ベッドそのものもぐらりと揺らいだ。


 院長がバランスを崩しベッドから転げ落ちそうになるのを、ハンナが慌てて支える。


「ちょ、ちょっと、何をするんですか! やめてください!」


 そうハンナが批難の声を飛ばすが、当の男はニヤニヤ顔だ。

 しかし──


 ──チャキッ。


 そのとき、状況を静観していた聖騎士ユニスがためらいなく腰の剣を抜き、ベッドを蹴った男の首に突きつけた。


「ん、なっ……!?」


「こんなのは真っ当な交渉じゃないわね。ベッドの修理代はあなたたちが持ちなさい。いいわね?」


「チッ……! 明日また来る。書き付けはそれまでに書いておけよ。──おい、行くぞテメェら」


 リーダーらしき男がそう言って踵を返すと、残る二人もそれについて院長室を出ていった。


 男たちが子供たちに危害を及ぼす可能性を危惧して、ユニスがその帰りを見張ったが、彼女の視線に気付いてか、男たちは大人しく立ち去って行った。


 ユニスが院長室に戻ると、緊張で張りつめていたその場の空気が、ようやく穏やかになっていた。


 院長バイロンがユニスに再び頭を下げる。


「助かりました。あなたがいてくれなかったら、どうなっていたことか……」


「いえ。でも、嫌な感じですね」


「ねぇバイロンさん、何か連中が焦るような事情に心当たりは?」


 ラヴィニアがそう聞くが、院長は首を横に振る。


「いえ、分かりません。……ですが、今この孤児院を明け渡すわけにはいかない。せめて今うちにいる子たちが、自分で生きていけるようになるまでは──」


 そこまで話を聞いたところで、ユニスとラヴィニアは部屋の外に出た。


 そしてラヴィニアは、困ったというように首筋をぽりぽりと掻く。


「ずいぶんとまた込み入ったところに来ちゃったなぁ。他人の不幸にどこまでも同情していたらキリがないとはいえ……」


「ええ。我関せずでサヨウナラっていうのも御免だわ」


「だよね。乗り掛かった舟だし、少し付き合おうか」


「賛成。おそらくだけど、数日ぐらい病気治療の神聖術を使い続ければ、院長のあの病状は快復できると思うし」


「その辺が潮時かな。オッケー、じゃ、その方向で」


 ユニスとラヴィニアはそう合意して、頭上でパンと手を打ちあわせたのだった。


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