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⑥ 図書委員会

⑥図書委員会



それから二、三日たった日の放課後。オレにとっては、初めての図書委員会があった。

場所は図書室。四時集合である。

図書室なんて、小学校に入学してから六年間の間に、何回来ただろう? 

どんなに多く数えたって五本の指をこえそうにはない。

オレたちの学校は、三年生までが図書室のある棟、四年生以上は別棟なので、なおさら足が遠のいてしまったのかもしれない。


 四時五分前に図書室に行くと、貸し出しのカウンターの奥の小さい会議室の中で、六年生たちが長テーブルを、「こ」の字に並べていた。

「ヒカルくん」

 会議の始まる直前、美里ちゃんがオレにこっそり耳打ちしてきた。

「会議では、いつもあまり意見が出ないの。だから、六年生の委員長は、やたら、だれかに指名したがるけど、気にしないでね」


 やがて委員会のメンバーが全員そろった。オレはゲッ子と美里ちゃんにはさまれてすわった。

 かなりの居心地の悪さを感じてしまう。

 美里ちゃん以外は、見るからに、本の虫ですといった、おカタイ雰囲気の女子ばかりの中、男子は六年生の中谷くんとオレのたった二人きりだ。おまけに中谷くんは、生まれつき心臓が悪くて、ほとんど幽霊委員らしい。

 かんべんしてくれよな……。

 そう叫びたいのが本音だけれども、オレは決心したんだ。

 北風のやつに、好きなだけ本を読ませてやろうって。

 ここまできたら、頼みの綱は学校の図書室以外にない。古い本が多いけど、数なら十分だと思う。なんとか北風のために、図書室を開放してやれないものだろうか? 

 委員会の最中に、オレはそんなことばかり考えていた。


「五年二組の松原ヒカルくん、なにか意見はありませんか?」

 美里ちゃんの言ってたとおり、指名の好きな六年生の委員長、川島さんがとつぜんオレの名前を呼んだ。全員の視線がオレに集まっている。

 オレの右よこに座っているゲッ子が、早く立てと言わんばかりにひじをつついてきた。

 すると左よこの美里ちゃんが、すばやく助け船を出してくれた。

「冬休み前の図書室の大掃除についてなにか意見はありませんかって。意見がない場合は、学年末に持ち越すんだって」

 図書室…? 大掃除…? これだ! これ。

 ナイスアイディアだ! あっぱれ、ヒカル。

 オレは、はいっと返事して立ち上がると、胸をはって提案した。

「冬休み前は、大掃除をした方がいいと思います」

 まわりからいっせいにええっと声が上がった。

 メガネをかけた五年生の木田が、質問!と言って手を挙げた。

「どうして学年末にまとめてやるんじゃいけないのですか?」

「えーっと、そ、それは………」

 まさか、北風に本を読んでもらうためですなんて言えないし。


 オレが口ごもっていると、左よこからすっと手が上がった。

「私も松原くんの意見に賛成です。このところいたんでる本も目立つし、学年末と二回大掃除をやったって、やりすぎるということは決してないと思います」

 み、み、美里ちゃんが、オレを助けてくれた!

 あまりの感激に胸がきゅうっとしめつけられそうだ。


 その後、した方がいい、しなくてよいの論議が、二十分ほど続き、見かねた図書担当の坂本先生のひと言でようやく話が決まった。

「みんななにかと忙しいかもしれないけど、やる気のある気持ちは大切にしたいと思うの。図書の整理は、一回や二回じゃ済まないもの。年末と学年末の二回、みんなで協力してやったらどうかしら?」


 帰り道、オレはもう有頂天になっていた。

 北風に本を読ませるグッドチャンスをつかんだことももちろんだけど、それよりなにより、美里ちゃんがオレのピンチを救ってくれたんだ。それを思い出すだけで、スキップしておどりたくなる気分だった。


―おい、ヒカル、なにがあったんだあ?


 北風のやつ、オレのほてった顔に、びゅんと吹きつけてきたけど、今日ばかりは全然寒いと思わなかった。


 図書室の大掃除日は、十二月の第二土曜日に、まる一日かけて行うことになった。

 全員で行うはずだったんだけど、集まれそうなのは、十二名中の五人、半分もいないのだ。

「これでも結構ましな方じゃない? 去年なんて三人しか集まらなかったのよ」

 そう言いながらもゲッ子のやつ、

「ああ、あんたが変なこと言い出さなかったら、アタシ、その日はいとことスケートに行けたのに」

うらみがましい目でオレを見て、わざと大げさにため息をついてみせるんだ。

 図書委員の仕事に情熱をかけてるようにみせながらイヤミなやつだ。だけど、オレには美里ちゃんがいる。

 北風が好きなだけ本を読めて、オレが美里ちゃんと仲よくラベルのはりかえとかできれば、一日休みをつぶした甲斐もあるってもんだ。


オレは自分の計画がぜったい成功すると信じていた。

まさにこれから悲劇の幕がきっておろされようとは、みじんも予想せずに……。


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