④ 北風は読書好き?
④北風は読書好き?
放課後、オレは北風を自分の行きつけの本屋にさそってやった。
「行きつけ」なんていうと、聞こえはいいけど、少年ジャンプしか買ったことのない店だ。
今は自動ドアになってる本屋も多いけど、そうでないこの店は、北風の侵入にはもってこいだ。
おまけに、ここのオヤジさんは客の立ち読みに寛大で、こづかいが足りなくてジャンプが買えない時は、全部読み終わるまで毎日通わせてもらっている。
本の種類も、マンガから週刊誌、趣味の雑誌、絵本や文庫本、オヤジさんおすすめの単行本など、こじんまりとした店のわりには、内容豊富にとりそろえている。なかなか快適な店なのだ。
「いいか。おまえが望むとおりにいろんな本が置かれてあるからさ。行儀よくしててくれよ」
―合点だ。
オレが戸を開けるのを待ち構えていたように、北風は店の中へと飛び込んだ。
店内には十人くらいお客がいた。
北風は、たちまち大はしゃぎで店内をするするかけまわっている。
立ち読みをしていた人の髪がざわっと逆立ったり、あわててコートの襟をたてたりしているけど、だれもそれくらいのことじゃ、立ち読みをやめようとはしない。
―おおっ、すげえ! すげえ!
北風が興奮したように叫ぶ声が聞こえてくる。
オレは立ち読みのふりをしながら一人一人のお客を注意深く観察した。
十人もいるのに、だれ一人として北風の声が聞こえている様子はない。
まさにオレは、北風に選ばれしものなんだろうけど、想像力がゼロだから、北風が人間でいえばこんなやつかなっていうイメージが、さっぱりわいてこないんだ。これも、小さいときから本を読んでこなかったせいかもなあ。
そんなことをポケッと考えていたら、とつぜん頭の上から雷が落ちた。
「なぜ、きちんと戸を閉めないんだね、きみは! みんなが迷惑してるってわからないのか!」
一度も怒った顔を見せたことのないオヤジさんが、相当オカンムリである。
それもそのはず。店内は、北風のせいで、ひどい状態になってしまっていた。
壁のポスターははがれ落ち、レジ前に積み上げられた無料のブックリストは床に散乱し、立ち読みしていたお客さんたちは、自分の読んでいたページがわからなくなってイライラしている。
「ご、ごめんなさい」
オレは、散らばったブックリストをかき集めると、何度も何度も頭を下げて、そそくさと店を出た。
へたすりゃ、ここではもう永久にジャンプの立ち読みを許してもらえなくなりそうだ。
人気のない公園まできて、やっとひと息ついた。
―おい! いくらなんでも早すぎるぜ。
北風はご機嫌ななめだ。どうやら、自分がしでかしたことをわかっていないらしい。
「おまえ、興奮しすぎ。ダメだダメだ! 二度と本屋はダメだ!」
ぴしゃりとそう言い放つと、北風はそれきりだまりこんでしまった。
ヒュウヒュウ………。
あいつの息づかいだけが空しく耳を通り過ぎてゆく。
しばらくして。
「おい」
声をかけてみる。
たとえ、見えない相手でも、お互いにだまったままでいるのって、すごく気まずいもんだ。
「なあ、おまえさ、どうしてそんなに本が読みたいわけ? 」
オレは、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
どうして、北風がそんなに何千冊も読書する必要があるんだろう? てんでわからない。
―ああ………。
北風は地の底からうめくような声を出した。
―きっとオマエには理解できないさ。
落ち込んでいてもあいかわらず口は悪い。
けれども、そのあと聞こえてきたのは、まったく意外な、北風の言葉だった。
―ホントはな。おいら、読書なんて、それほど好きじゃないんだ。だけど、どうしても読まざるをえない理由があってな。
そして北風は、ぽつりぽつりと話し始めた。




