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殺意を説く

作者: 葉葉琴琴琴

 殺意と言うものを抱いている。

 こいつは私の頭を酷く占有し、離れることが無い。


 誰にでも訪れるものであろうと言う者がいた。

 その時には「なるほどそういうものか」と思ったものだが、よくよく聞いてみると、どうやら私のそれは他の者とは違うようである。

 私がその結論に達したのは、彼の話が「殺したいほど憎い相手」といったくだりに入った辺りであった。

 どうやら殺意と言うものは、憎いという感情の延長線にあるらしい。曰く「あまりの憎しみに殺したくなる」のだと。そうであれば、私の中にあるこいつはおよそ殺意と呼べるようなものではないであろう。


 憎いーーというよりは嫌いという表現が私にはしっくりくるのだがーーと思う相手を殺そうと考えているという点に於いては、確かに殺意らしい様相を見せているのであるが、根本的に私のそれは全く異質であった。

私は殺したいのである。相手が憎い余りに殺したいのではなく、単純に人を殺すという行為がしたいのだ。

憎いだの嫌いだのというものは「どうせ殺すならそういった相手にすれば一石二鳥」といった程度のものであって、別段他の人間であろうと問題は無い。

 私が抱くこの殺意に似た何かは、そこにおいて確かに「殺意に似た何か」足るのであった。


 この殺意に似た何かに無理矢理名前を付けるのであれば、それは「好奇心」であろう。

 人を殺すという経験、人間の皮膚や筋組織を突き刺し切りつける感触、血液の噴き出す様。そういったものを直に感じたいのである。

 これだけに留まることはない。首を絞める感触や死んだ人間の朽ちていく様、生きた人間が衰弱の末絶命する瞬間。とにかく全てが未知であり、ひどく興味深いものなのだ。

 当然1人や2人では足りないであろう。とにかく私は、私の考え得る限りのやり方で、出来るだけ多くのサンプルを用いて殺人というものを経験したいのである。


 少しでも共感を得られるような例えを出すのであれば、多くの人間がテレビの食レポやグルメ特集を観て「美味しそうだ」「食べてみたい」などと思うようなものであろうか。私にとってドラマや小説の殺人描写は殺人衝動を湧きたたせる糧なのである。


 無論、私もそう短くない人生を過ごしているのであるからして、殺人が法に抵触するものであり、社会的に悪とされる事が分からないわけではない。

 むしろ十分すぎるほど分かっているからこそ、フラストレーションの果て、私の中に大きく巣食っているのである。


 幼き時分には医者になろうと志した事もあった。医者は良い。合法的に生きた人間を切ったり縫ったり出来る上に死体にも接する機会が多い。

 だがやはりというべきか、私には医者でも駄目であった。彼らは救わねばならない。でなければ結局は違法なのだ。殺したいというのに救う事を強要されるなど、これ以上に辛く苦しい事などあるだろうか。


 だがそんな日々すら、今となっては懐かしい。

 私はついぞ、この好奇心という名の殺意を持つ仲間に出会うことは無かった。それで構わない。というよりも、私は既に新しい好奇心の矛先を見つけてしまっているのである。


 読経の中ゆっくりと吐き出した白く濁る息は、さながら天に還る魂の様であった。この場の雰囲気がそうさせるのか、よもや私にこんな宗教的な感性が出てくるなど、誰も想像出来なかったであろう。

 時間を告げる声が聞こえる。


 さぁ行こうか

 香が仄かに香り、鼻孔をくすぐる

 白布がひらりと揺れた

 楽しみで仕方ない



 縄の軋む音が聴こえた

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