我が家(2)
吾が輩は、考える猫である。答えはまだ無い。
「お帰りなさい、あなた。夕御飯はどうします?」
「うむ、食べてきた。風呂……入る」
さて、この無愛想な男は、吾が輩の主人の父親。名前は、小山内 勝也。
中小企業を束ねる社長である。社長といっても、やはり中小企業の社長なのでたいして儲かっていないらしい。しかし、そのくせ、毎日毎日、疲れた顔をさせ、夜遅くまで会社で働いている。
吾が輩は知っている。こういうのを、ワーカーホリックというのである。
確か、企業戦士なのである。たぶん、であるが…日曜毎朝8時にある光化学スモッグ戦士・ニサンカタンソーというヒーロー達の仲間である。
毎朝毎朝、世界の平和を守っているのだから、疲れるはずである。普段は無口で無愛想な男であるが…。
小山内勝也、中々に侮れない奴である。
「チビ猫…」
むっ、なんである?
小山内勝也、何か吾が輩に用があるのであるか?
「じゃらし、だ。会社帰りのペット……ショップで、買ってきた……やる」
おぉ、かたじけない。
ふむ、小山内勝也。中々に侮れない奴である。いや、良い奴である。
「だから、風呂……一緒に入るぞ」
「…ぎにゃ!?」
吾が輩は猫である。
もちろん、水が大の苦手である。大嫌いである。飲む分には、かまわない。それなら、美味しい山の水、という母様が買ってくるペッチョボトルという容器に入った水を飲むのが大好きである。ペッチョボトルは少々苦手だったが、飲むのは好きである。
だが、だが、それとこれとは別である。風呂は嫌にゃ…いやいや、嫌だ!湯船である。深い深い、底の無い地獄沼である。
そこで、吾が輩の心に幼き頃のトラウマ。
あれは、あれはそう、確か。幼き主人が捨てられ汚れた吾が輩を拾ってくれた、あの日。
『猫さん、キレー、キレーしないと家で飼って貰えないってー』
まぁ、可愛いらしい幼き頃の主人である。吾が輩を救う小さな主人である。捨てられ、路頭を段ボールで過ごす、吾が輩を受け入れてくれた主人である。
『はい、お風呂溜まったから、ドッボーン!?丸洗〜い、丸洗〜い……おぉ、猫さん、沈む?』
だが、あれは無い。あれは無いである。まだ、幼き吾が輩を。まだ、泳ぎさえ知らない吾が輩を。たっぷりと湯を張った浴槽に、ダイレクトに、何も知らない吾が輩を、投げ込むのは無いであります、ご主人さま!?
「……むっ、今日は静かだな?いつもは、風呂場に入れようと……するだけで暴れるのに……?」
はっ!?
しまったである?過去のトラウマに気を取られる内に、風呂場まで連れて来られたのである?逃げなければ…。
「おっ、やっと抵抗…?」
逃げなければ、逃げなければ、逃げなければである!!
「湯船は怖がるから……シャワーな……」
シャワー?
シャワーであるか…。
「フニャーーッ!?シャーッ!!シャーッ!!」
シャワーなんぞ、もっての他なのである!!あの真上から落ちてくる滝のような水は、この世の地獄の1つなのである。あんなのを、やるくらいなら。吾が輩は、吾が輩は、吾が輩わぁーーっ!?
――ゴンッ!?
「……コイツ、自分で気絶した」
…
…
…
…
…
…
…
ふふん、なのである。
昨日は、あの後、吾が輩は気を失って何も覚えてないのである。ふふん、本当に昨日は大変な目にあったのである。だが、吾が輩は自分で自分の頭を打って気絶をするという荒業を成したのである。恐怖は無いのである。気絶してるのだから、シャワーに対する恐怖は無いのである。ふふん、シャワー克服なのである…。
「……よー、昨日は悪かったなぁ。今日はお詫びにネコ缶……わくわくにゃんにゃんシリーズの鯖味缶詰……」
むっ、かたじけない。小山内勝也、良い奴なのである。わくわくにゃんにゃんシリーズのネコ缶は高いのである。だから、美味いのである。その中でも鯖味は吾が輩の好物なのである。
「だから、今日も……風呂……」
……小山内勝也。お前はまた、吾が輩に頭を打てと?
吾が輩は、考える猫である。答えはまだ無い。
今日はどうやら、大好きなネコ缶と再び頭を打つかの問題であるらしい…。
こんにちは。
短編集第2駄です。またまた、考える猫の話です。どうですか?こんな、毎回変な事を考えている猫は?
種類は黒猫ですかね。ぶちゃい顔とか言われていますね。でもまぁ、普通に可愛い顔をしてる奴だと思います。主人の後ろを付いて回るストーカー癖があります。そして、風呂嫌いで、自分から頭を打って気絶する奴です。……どうですかね、こんな黒猫?(笑)
それでは、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。




