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死神貴族(3)




 病院のベッドで桃子の母親は寝かされていた。頭には真っ白な包帯が巻かれ、荒げる事なくただ静かに息をしている。




「ホホ、まぁ、選定というか、決議は神界で決まっているので、後は刈り取るだけなのですがね?」



「……」




 しかし、そんな母親の姿は、まるで、ロウソクの火が消えてしまうかの様な姿に桃子には見えた。




「無視をされました。オホホ、無視をされてしまいました」





 死神。そう、この骸骨を模した仮面を被った馬鹿げた姿の男の存在が、桃子にそう思わせた理由だった。母は死ぬ。今日の内に死ぬ。この死神に魂を刈り取られて…。桃子の頭に、死神への憎しみが沸く。と、それと、同時に自分への後悔が押し寄せてきた。




 自分のせいだ。自分が母親を突き飛ばしたから…。自分が母親の言う事を聞かなかったから…。彼女の頭には、そんな言葉がぐるぐると回る。次第に涙も出てきて、どうしようも無い感情が溢れだしてきてしまう。




 ごめんなさい、と桃子は後悔をした。自分が死ぬはずだったのに…。本当は自分が死神に魂を刈り取られてしまうはずだったのに…と。




「あなたのお母様は素晴らしい人だったようですね?」




 死神が後悔する桃子に声を掛ける。死神は、宙に体を浮かべ、まるで滑る様に母親の前まで移動する。そして、その母親の安らかな寝顔を確認しながら言葉を続けた。




「人の業によって、その人が善人であるので在れば、神界は、その者が死ぬ最後の時。その者の最後の願いを、叶えて差し上げる」




 その言葉に桃子は、痛い程に心を締め付けられる。そう、お母さんは素晴らしい人だった。私のお母さんは死んではいけない人だった。借金を苦にして逃げた父親、その借金を僅かながらにも返済しつつ、そして、私を、ここまで育て上げてくれた。頑張り屋さんで明るくて、いつも私の事を思ってくれたお母さん。




 すると、ススーッと桃子の瞳から涙が流れ始める。




 では、何故?どうして、私はお母さんに反抗したの?分からない。分からないけど、思えば、つまらない理由だった気がする。ただなんとなく、ただお母さんを見ているだけで反抗をした。なんて馬鹿馬鹿しい理由だ。桃子は後悔する。言い表せない感情と共に更なる後悔の情念が桃子へと押し寄せて来る。




「!?」




 ぐるぐると回る気持ちに整理が付かない中で死神・デスが大きな鎌を振りかざした。




「ま、待って…」




 桃子が大鎌を振りかざすデスに戸惑いをみせる。まだ、早いじゃないか?まだ、私は納得していない。何故、母親が死ななければならないのか…。




「しかし、桃子よ。君は母親が邪魔だったのだろう?」



 そんな彼女に死神・デスは、そう言葉を投げ掛ける。




「母親が居なくなれば楽になる。もう、うるさい事を言われなくてすむ。自由だ。君の好きな様に生きていける…」




「そ、そんな、だけど…」




 確かに、そんな事を思った。自分勝手に生きていた自分に心配の言葉を掛けてくれた母親にそんな事を言った。桃子の心にぐさりと死神・デスの言葉が突き刺さる。




「ならば、好都合ではないか!?君は生きながらえて、邪魔な母親は死ぬ。ホホホホッ、君にとって、これほどの好都合な事は在るまい!?」




 死神・デスが笑う。骸骨の仮面の向こうで、不敵に、妖しく、どす黒く、笑う。




「……なぁ、最高だろう、桃子!?」




「…違う」




 桃子は思った。本当は違う。最高な訳が無い!!本心では、そんな事、これっぽっちも…。




 刺さったトゲを抜くかのように、放った言葉を掻き消すかのように、桃子は否定の心を思い浮かべる。




「だが、言葉は放たれた!!言霊は確実に、この世に産み出された!!これは、お前が望んだ事だ、桃子!?」




 そんな桃子の思いに死神・デスは、更なるトゲを、言葉を、桃子に投げ掛ける。




「私が…望んだ?」




 違う。望んでなんかいない。私は、そんな事、望んでなんかは、いない。桃子は心の中で、それらを全て否定する。そして、死神の鎌を振りかざす死神に思いをぶつける。




「私は、本当はお母さんが好きなのっ!!働き者で、正直者で、優しくて、厳しくて…」




 そう言い彼女は大鎌を振りかざすデスに近寄る。母親を庇うように死神の前にと体を差し出す。母親に振りかざされた大鎌を、どうにかしようとデスに触れようとする。




「私はお母さんに生きていて欲しい!!反抗したのは、私が怠け者だっただけ…そんな、私が惨めで、ただ、お母さんに八つ当たりをしていただけ…」




 鎌を振りかざす死神・デスの目の前にへと立ちはだかる桃子は、自分のこれまでの人生を振り替えってみる。




 幼い園児であった頃、お母さんが大好きで、お母さんみたいに成りたかった。小学生の頃、授業参観ではいつも、お母さんに頑張っている所を見せようと意気込んでいた。




 中学の頃、ただ訳も無く無気力になり、母親にも反抗し始めた自分。

 高校に入った頃、ただその日を過ごしていれば、それで良いと考えていた自分。




 そして、いま。




 歳を取り、多少、知恵が付いた自分は、怠け者で、ただ親に甘えて生きていく事に楽を覚えてしまい。ただただ、そんな、自分は母親とマトモに話が出来なくなっていた。




 そう、ここに居る自分は、そんな怠惰と劣等を持った、恥ずべき娘である。




「お願い…待って…」




 だから、桃子は、そんな至らない自分の人生に気付いて、死神に、デスに、母親の命を刈るのを待ってくれるよう頼んだのだ。




「…何故?」




 しかし、そんな桃子の言葉に死神・デスの声が、急に低く鋭い声色にへと変わる。




「何故、私が貴様の言う事を聞かなくてはならない?」




 低くドスの効いたデスの声が病室に響き渡る。




「何故、貴族である私が貴様の様な身勝手な餓鬼の言う事を聞かなくてはならない?」




 病室の闇がデスの周りを包む様に蠢き始める。闇を纏ったデスの体がズン、ズンッ、と大きくなっていくのが分かる。




「っあぁ!?」




 ガシリッと、そんな巨大な体へと変身した死神・デスに頭を桃子は掴まれてしまう。ぐぐぐっと骸骨の仮面にへと桃子は顔を引き寄せられる。




「本来ならば貴族である私に、いやっ…神である私に、貴様の様な身勝手で、教養の無い餓鬼が話を掛ける等といった事さえもはばかれるというのに…」




「うぁ、ぁあっ…!?」




「そんな貴様が私に願いだとっ!?…何故っ!?」




 ビビビビッとデスが言葉を放つたびに病室に漂う空気が揺れる。がっしりと掴まれた腕に力が入り、桃子の頭がギリギリと痛みを放つ。




「…わ…たし、が、死ぬ…から…」




「あぁんっ!?」




「私が、死ぬっ…から、だから、お母さんは…」



 必至に絞りだした声だった。突発的に出した言葉だった。しかし、桃子にとって、それは真意であった。母親が死んでしまうくらいなら、代わりに私が死ぬ。




「またか…」



「…えっ?」




 そんな必至に考え出した桃子の言葉にデスが再び呆れた様な怒りをみせる。




「また、貴様は同じ過ちを繰り返すのかっ!?」




 ブゥンッ、と投げ飛ばされた桃子の体が部屋の隅にへと飛ぶ。投げられた勢いと壁に当たった衝撃で桃子は何が起きたか理解できない。同時に死神・デスの怒りにも理解を示せないでいた。






 何故…。何故に死神・デスは、自分に更なる怒りを向けているのか…茫然とした、桃子には分からなかった。




「母親の思いに抗う。その結果、どうなった?ん?どうなった、当夜桃子っ!?」



 母親に反抗し続けた少女。無気力に人生を送り、怠惰にその身を任せ、劣等に母親と対立した娘。




 その結果、死神が現れ、彼女は早すぎる死を迎える事となった。その為、彼女は最も大事な人を失う結果となった。




 しかし、彼女はまた。またもや、彼女は同じ過ちを繰り返そうとしていた。




「桃子…桃子…桃子ぉっ!?当夜桃子よ、お前は改心したのであろう?ならば、母親の言う事は聞くべきでは無いのか?」



 んんっ?と、嫌に鼻に付く口調で死神・デスは桃子に同意を求める。




 確かに、桃子は、ここに来て、ようやく母の思いに報いるべく怠惰で劣等にまみれた心に改心をした。確かに、桃子はようやく反抗を繰り返し、聞き流していた母親の言葉に従うと心に決めた。




「だけど…だけど…そんなのって…」




 が、しかし、それでは、あまりにも酷いでは無いか!?やっと、素直になったのだ。やっと、怠惰な自分では無く、活気に溢れ、やる気に満ちた自分に成ると心に決めたのだ。未だ眠る母に、そう誓いを立てたのだ。




 なのに、母親は死ぬ。どうやったって、死ぬというのか!?




 ここで、母の言う事、つまり、『娘の代わりに自分が死ぬ』という、母の最後の願いを聞けば、母は死ぬ。愚かな自分の代わりにと、母は死んでしまう。



 そして、逆に、それに逆らえば、これまでと一緒で、母親に抗い、怠惰の時間を過ごしてきた自分という事になり、結果、やはり、命を助けた母は、自分の代わりに死んでしまう。




「そんなのって……あんまりだよ…」




 どうしようも無い状況に、桃子は絶望をした。後悔を考えず、自分勝手に、親に抗い怠惰に生きた少女は、後悔を超えた絶望に苛まれた。




「幸せを願い、魂は、在るべき場所へと会せよ…我ら、群生の束ねる界の憑代なり…」




 そして、そんな少女の悲しき思いを余所に―――




「斬っ!!」




 死神の鎌は、振り落とされた。











 ここは、天界。その中で何層にもビルの階の様に束ねた天界の下から三番目に数えた世界である。




 そんな空は薄く緑に彩った色をした、三番目の世界で一番大きな屋敷に、漆黒の衣に身を纏った男が帰ってきた。




 どうやら男は、いまやっと仕事を終えて帰宅して来た所のようだ。




 身に纏った漆黒の黒衣を脱ぎ、中に着た黒スーツ姿で屋敷の5メートルはあろう門を開ける。




「おや、死神界で最も権威のある死神のデスアランダー殿ではないか?いまお帰りで?」




 門を開けて、一歩と足を踏み入れない所で、仕事を終えて帰宅したての死神・デスに後ろから声が掛かる。




 それに、デスは少々、嫌な顔を見せるが、振り返る同時に満面の笑みを浮かべて、声を掛けてきた相手に返事を返す。




「やぁ、ツェリペン!!偶然だね?キミも仕事の帰りかい?」




 そんな訳は無かった。このツェリペンという死神は、何かに付けてデスと張り合い。あれやこれやと文句を付けてくる人物である。大方、今回の仕事の話で自分が帰って来るのを待ち伏せしていたに違いない。と、デスは心の中でため息をつく。



「いや、私はキミを待っていたのだよ。今回のキミの仕事の話で…ね」




 ほら、見ろ、やっぱり…。と、デスは心の中で、再び、ため息をつく。




「やぁ、すまない。我が輩は、もう、疲れてしまっていて…直ぐにでも真っ白でふかふかのベッドで眠りたいのだよ…」




 そんな訳で、デスは、少々、相手にするのが苦手なツェリペンをかわして、門の先へと入ろうとする。




「それは疲れているだろうね?神界のお偉方にコッテリと絞られたのだからね…」




 と、しかし、そんなデスの思いを余所にツェリペンは、屋敷へ入る彼を離してはくれない。




 まったくもって、迷惑であった。我が輩は、疲れているのだ。眠たいのだ。いちいちと、キミの戯れ言に付き合っている暇は無いのだっ、とデスは心の中で訴える。




「噂によると、神界の決定を無視したらしいね、キミ?」




「あぁ、まぁ、うん、そうね…」




 いまいち、反応の薄いデスにいぶかしげな表情をするツェリペンだが、そのまま、言葉を続ける。




「キミは神界の決議を否定したのだぞ?それが、どういう事か分かっているのかっ!?」




 ぐっとツェリペンの顔がデスに近寄る。しかし、真面目な顔をするツェリペンとは対象的にデスは、エヘッ?と締まりのない笑顔を見せる。




「良くて貴族の称号剥奪、悪くて死神の役職の剥奪だぞ!?」




 それにツェリペンは、荒げた声をあげるが…




「いや、まぁ、どちらでも無かったですよ?」




 と、デスは未だ、締まりのない笑顔を見せる。




「今回はっ、だ!!キミは、死神界でも権威のある死神だからね。おいそれと死神の役職を剥奪させられない…」




 だが、しかし、とツェリペンの言葉は続けられる。




「キミは、今回だけでなく他にも前科がある。次に同じ様な事をすれば、どうなるか分かったものじゃないぞ?」






 もしかしたら、最悪の場合。死神から人間への格下げという、処罰が下るかもしれないのだぞっ!?と、ツェリペンは、近付けていた顔をデスから離す。全く、死神が人間に格下げなどと堪った物じゃない。ツェリペンは、ぶるぶると体を震わせ、デスに、もうこんな馬鹿な事をしないように告げる。




「それで…?」




「え?」




「なぜ、神界の決議に逆らったんだ?」




 そして、今度は、何故、デスが神界の決議に逆らったのかと理由を聞いた。




「何故に…ですか?」




 それに対して、デスは、やや、空を見上げながら考える。




「いや、ほら、あのお母様の最後の願いは『娘の幸せ』という事だったのでしょ?」




 と、今回の仕事の相手である当夜桜子と当夜桃子の事を思い出す。



「あぁ、だから、神界は当夜桃子の命を刈らず、代わりにキミに寿命である母親の当夜桜子の命を刈るよう命じたのだろう?」




 そうなのだ。自分勝手に生きてきた当夜桃子に、神界のお偉方は世界のバランスを取る為の魂として刈り取るように命じた。要らない魂ならば、現世に必要は無く。代わりの無垢なる魂を送る…と。



 しかし、そんな中、偶然か必然か、当夜桃子の母親・当夜桜子の寿命が来てしまう。


 原因は、娘・桃子による頭部損傷の出血多量…では無くて、実は、そのケガの入院中に持病の心臓発作が起きた、という物だった。彼女は、昔から心臓に疾患があって心臓が弱かったのだ。しかし、それでも子どもを産んで、一生懸命に育て、生きて来たからこそ神界は、彼女に最後の願いを許したのだ。




 そして、そんな彼女の望んだ最後の願いが…




『私は、最後まで愚かな女でした。娘の心も分からず、娘を傷付けたまま死んでしまうなんて…だから、私は望みます。私が死んだ後、娘が幸せに生きていけるように…私とは違う幸せな人生を生きていけるように…』




 という、娘への思いであった。つまり、彼女は最後に『娘の幸せ』を願ったのだ。




 だから、神界のお偉方は、命を刈り取る筈であった当夜桃子の『幸せ』という願いの元に、彼女の命の刈り取りを中止させたのだ。そして、その為やる筈の仕事を失ったデスに代わりに寿命であった、その母親・当夜桜子の命を刈り取るよう命じたのだ。




「しかし、キミは母親・当夜桜子の命を刈り取らなかった。もちろん、娘である当夜桃子の命も刈り取らず…」




 どういう事だ?と、ツェリペンは、デスに問いただす。すると、デスは、漆黒の黒衣を再び身に纏い、笑みを浮かべる。







「ハハハッ、いや、なに、簡単な事だよ、ツェリペン…」




 そう言い、屋敷の方へと足を運ぶ。緑に彩った空を見上げながら、ふっと、何かを思いながら…。



「だって、母親が居なければ、彼女は幸せではないのだから…」






 デスアランダー=キュドラー。彼の仕事は、現世に集う魂達の選定。バランスを失った世界は、ジグソーパズルをひっくり返した様に崩壊してしまう。だから、そうならない様に死神である彼は、数多にある魂達を選定していく。



 だが、彼の心は誇り高い。例え、神界の決めた決議にさえ、疑問が沸けば逆らってしまうのだ。例え、それが如何に愚かな魂であっても、まだ、救いがあるのであれば、彼は優しく導いてくれる。世界がより良い世界に、魂がより良い魂となる為に、彼はより良く、魂を導いていく。




 そんな彼を人はこう呼ぶ―――







『死神貴族』




長らくお待たせしました。死神貴族の続きです。

色々としっくり来なかったので、書き直していたのですが、結局、しっくり来ないままで掲載です(笑)。




話の概要は、娘を助ける為に最後の願いで娘の幸せを願った母親なんですが…。結局、母親が死んでしまったら、娘は幸せじゃ無いじゃん?という事で、死神・デスは、神界のお偉方に逆らって、どちらの命も刈り取らずに帰って来てしまった…というお話。

なんですが、本編の内容で分かって頂けたでしょうか?なんか、不安ですね。分からなかったという方、ごめんなさい!!



ちなみに、デスが桃子に母親の死因を教えなかったり、死んだ原因は桃子のせいだと嘘をついたりしたのは、桃子の魂をより良くする為です。何故って、それが、彼の仕事ですから…(笑)




さて、しっくり来ないついでにタイトルもしっくり来ないので変えてみました。でも、やっぱり、しっくり来ない(笑)




ん〜、さて次はどんなしっくり来ない話なんだろうか?


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